ズーミのお家で一夜を過ごし、地上へと戻る。
水中では拝むことのできない日の光が眩しい。
「おう、ズーミちゃん昨日はありがとな!」
荒れた土を整えていたおじさんが、こちらに手を振る。
つい半日前に戦場だった場所を十数人の人間がお手入れしていた。
「めげないものだ。」
タチのいう通り。既にお店を再開している所がちらほらある。
一晩ゆっくり休んだ(タチの夜這いを回避しながら)私たちも復興のお手伝いしようと戻ったのだが…。
「お疲れ様ズーミちゃんとねーちゃん達!」
「ありがとね~」
どこも人では足りている用な上、ちょっとした有名人になっていた。
それはそうか、あんな大立ち回りしてたわけだし。
「おぉ!魔物を倒してくれたあんちゃん!」
どうやら、悪いモンスターを退治した一行という認識らしい。
まだ、顔に包帯を巻いているのに壊されたお店の修理をしている。
「屋根の修理か?手伝ってやるのじゃ!」
「じゃーちょっくら頼もうかな。」
ズーミが水の力を使い、おじさんを支えるように高所へ…。
「って。正体ばらしたの!?」
そういえば、先ほどから掛けられる声も変だった。
私とタチはじょーちゃんやねーちゃんなのに、ズーミは名前で呼ばれている。
「というかとっくにバレとったみたいじゃ。」
気にする風でもなく補助を続ける。
「変なスライムだと思ってたんだよ。服着て何度もウチのもちもち買ってくんだから。」
「ギルガの作るお菓子は美味しいからの。」
「あたりめーだ!早く店再開して食わせてやるからなズーミ。」
だいぶ前から気付かれてたようで…。
互いを名前で呼ぶ中になってる…というかこのおじさんもちもち殺しの店主さんだったのか。
「怖くなかったのか?」
タチが倒れていた旗を地面に差し言う。
幻のもちもち殺し!見た見たこの旗だ。
「人のフリしてまで、もちもち並んで買うような奴だからな。極悪にちげぇね!」
顔覚えられるぐらい、通ってたんだろうな…。
「わらわ、この地の化身じゃっていっておろう!」
「水の化身でも、チビっ子スライムでも構やしねぇーよ。足しげくウチに通ってくれて、魔物を倒してくれたんだからよ。」
この世界には色んな生物がいる。
人間が呼ぶ魔物というカテゴリーは「動物の中で人に害を及ぼすもの」の総称だ。
といはいえ、魔物と呼ばれていても、人間と共に生活し利用されたりするものもいる。
馬や牛などと同じ感じで。
「…いつも、おまけつけてもらったしの。」
「お得意様には、ちゃんとサービスしねーとな!…なんだズーミ泣いてんのか?」
「ないとらん…!ないとらんもん!ただちゃんと、戦ってよかったなって…!」
まるで、微笑ましい親子の日曜大工である。
やりとりをしながらも、みんなで屋台を組み立てていく。
「どうやら、昨日の時点で能力を使ったようだな。」
タチの指さす先には、昨日壊されて修復不可能な瓦礫が山となって積まれていた。
確かに、人間の力だけでこんなに早く運べまい。
きっとズーミが水でまとめて運んだのだ。
それらしき濃い色の土痕が残っている。
既にバレていたので、全力で手伝ったのだろう。
それがみんなのズーミちゃん呼びの理由か。
「よし。とりあえず今できるコトはこんなもんだ。」
屋根の布を張り直したおっちゃんが、ズーミの水の玉に乗り降りてきた。
「…ほんとお騒がせしました。ごめんなさい。」
タチやズーミとは違い、私は謝らなくちゃならない。
だって、土の化身の行動は私…神様をを思ってのコトだろうから。
「なんでじょーちゃんに謝られるんだ?」
他の三人にわかるわけがない。どうしたらいいだろう?実は私は神で…と説明したい。でも、でも…。
「お主。人の身ながら源に触れたり、隠し事もあるようじゃが…良くやっとったよ。」
「…」
たぶんズーミなら信じてくれる。私が神だって。
うつ向き苦い顔をする私の腰が抱き寄せられた。
「ナナ。私は今お前が好きだ。何か知らんが気に病むな。」
なんで、私が慰められているのだろう。事情も過去も聞かれることなく…。
「決めた。」
戻ろう。神様に。
今の私ではなにもできないし、なにも見えない。
約束の地パンテオン。
地上で天に最も近い場所。そこに戻れば私は神に戻れる。私の聖地。
六百年ほどの人生。決意を胸にこれで終わりにする。
「何を決めたんだ?」
「私パンテオンに向かう!」
タチの顔を真っすぐ向き答える。
「パンテオン…?パンテ教だろう?」
「聖地の名前がパンテオン!空中に浮かぶ約束の地。」
神殺しの女が、聖地の名前をしらないとは。
人々が私を想う、信仰の心が集う場所。
私が地上に降りた、繋がりの地なのに。
「空中に浮かぶ…?地上の中心「ケサ」が聖地の場所だろう?」
…?地上の中心??
「確か、空中に浮かぶなんたらは、古いほうの聖地じゃな。」
我が眷属。
水の化身まで、不勉強な事を。
そんなだからこの辺りは信仰者が少ないわけか!
「俺の親戚もパンテ教でな、一人知り合いがケサに向かったよ。もう十年前か…生きてると良いが。」
もちもち殺しのおじさんまで…。
「みなさん。神と言えば神ですよね?」
「基本パンテ教の神をさすだろうな。」
タチの答えとおじさんのうなずき。
当然といった態度のズーミにちょっと安心する。
「パンテの聖地といえば?」
「ケサだろう。私は最終的にそこへ向かうつもりだぞ。神を殺しに。」
即答のタチ。神様とか興味ないからなーというおじさん。
「四百年ちょっとまえじゃったかのう…お引越しなされたはずじゃよ?わらわお呼ばれしとらんけど。」
神代理…光の化身イトラ…!私のしらないうちに何かやってません?!
ただそこにあった。
たぶん時間で計るなら百三十億年まえぐらい。そう思った。
寂しくなって光あれと、イトラを生んだのが四十億年前。
ともない影の化身ヤウも生まれた。彼は魔物を産み、悪魔と名乗っている。
天ができ地が広がる。
三十五億年前ぐらいに地水火風の化身が生まれ。
地上を豊かに、それぞれが変化させる。好きに勝手に。
二十万年前ぐらいに人類が私に興味を持ち、二千年前に聖地を作ってくれた。
私を想い。私に願い。
「聖地パンテオン」人と神をつなぐ門となり私はやがて受肉した…。
たった。たった。六百年ほど遊んでいるうちに…!
短い人の生。
ほんと、人の感覚じゃ何が起こっているのかさっぱりわからない。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!