かみてんせい。

挿絵いっぱいな物語。
あゆみのり
あゆみのり

第四話 自慢された。

公開日時: 2020年9月1日(火) 14:50
更新日時: 2020年9月1日(火) 15:24
文字数:2,041

 あんなにぽかぽか日和だった世界がオレンジ色にそまっている。


 どのぐらい歩いただろう?とりあえず開けた野原から離れることはできた。

 生い茂る木々が多少のカモフラージュになるだろう。


「助かった。礼を言おう。」

 少し前から一人で歩けるようになったタチがそう言って、私のおでこにキスをする。


距離感!!どこの王子様!?

 やっぱりこの女、距離感がおかしい。

 額を隠して抱き寄せるタチを跳ね除ける。今更隠しても手遅れだけれども。


「はっはっは!生きてる喜びに舞い上がってしまってな!」

 豪快に笑い、気軽に人の背中を叩く…。絶対日ごろからこういう振る舞いに違いない。


「所で名前はなんと言うんだ?私はタチ。「タチ・ユリ」よろしくな。」

「ナナ。何にもなしのナナ。…タチはなんで水の化身なんかに追われていたの?」

 自己紹介ついでに、気になっていたことをぶつけてみる。


「うむ。話せば長くなるのだが…。」

「あ~。長くなるなら別にいいです。」

 気にはなるが、どうせ一緒にいるのは今だけ。

 どうしても必要な情報というわけでもなし、深刻な理由でもちょっと気まずいし…。


「一言でいえば性欲だ!」

性欲!?

 思いがけない一言に大きなリアクションをついとってしまう。

 そんな私を見て凄くすご~く自慢げな顔でタチはつづけた。


「私はなんでもいけるクチでな…!男も女も好き放題食い散らかして生きてきた。」

 とっても誇らしいことのように腰に手を当て話している。なんだ?この人?


「当然、みさおなど立てることもなく、それはもう千切っては投げ。千切っては投げ…」

 わざわざ千切って投げる仕草までいれ説明してくれる。

 …あれ?男も女もって言った?じゃあこの距離感の近さって…?


 首筋を一つ冷や汗が伝うのを感じる。


「今をより楽しむためには、果て無き性欲とめげない体が必要でな…!」

 口を開けば開くほど、タチの鼻息が荒くなっていく。合わせて私の歩みも早くなる。

 逃げるタメに。


「見ろ!遂には悪魔と契約したというわけだ!」

 冷や汗をダラダラ垂らし、速足の私を逃すまいと回り込み進路をふさぐ変態女。

 何を思ったかズボンを少し開き下腹部を見せびらかしてくる。


 そこには立派な契約の印が…。



卑猥!!印のある場所から形までそのまま卑猥!!

 あぁ…!口ききたくなかったけれど、ついつい叫んでしまった…!

 だって下腹部にハートマークの印って…!なんだこいつ!!


だろう!!

 わかる。褒められたと思っているんだろうさ、この変態。

 だから口を聞きたくなかったのに…!


(水の化身が怒ってる理由はわかった…乱れた振る舞い…悪魔との契約…!)


「可愛いだろう!淫猥だろう!」

 勝手に熱が上がり続けるタチ。どういう世界観で生きてるのだろうかこの生き物は?

 放っておいたらこのままズボンを脱ぎそうな勢いで、印を見せびらかしてくる。


(ま…まぁ…こういうのもいるのが人間の面白い所だし…。)

 十三回の人生を振り返り、神様としての尊厳を保つため、自分をいさめる。


(今の私よりは年上だろうけど、いっても二十歳そこそこの小娘…!神として本気で怒ったりしちゃみっともない…。神には味わえぬ理不尽をたしなむ者たちよ…多様で味わい深い時の流れを生きるもの――)


「良い尻をしているな。」

「やっぱりダメ!!!そういうのダメ!いけません!ゆるしません!!」


 この女!せっかく神がその「ありよう」を許してあげようとしているのにお尻を…!神のお尻を…!なんたる愚行!


「節度に調和とまで言いませんけどっ!!せめて、清く正しくいれたらな~。ぐらいの心は捨てちゃいけません!」

「うぶな女だな…そういうのも大好きだぞ!」

 親指を立てウインクを決める。ポーズはばっちり決まっているが、中身は最低だ。


(ダメだ…!この変態我が強い!)

「そんなビッチでアバズレでタダレタ生き方だとロクな死に方できませんよ!」

 一生懸命ひねり出し羅列した罵倒の言葉に、ニコニコ笑顔のタチはニコニコのまま私に顔を寄せる…。

 あれ?なんか圧がある…。


「私の人生だ」

「だ…だけど…その捨ててはいけない道徳というか…許してはいけない一線というか…。」

(私一応神様だし…)


ずい!


 タチの笑顔が目の前にある。目鼻立ちがはっきりしていて美人さんですね。とっても怖いですけれど。

 鼻と鼻がコッツンしてますけれど…近くありませんか?


「私の人生だ」


 繰り返される短い言葉に、怒りの感情が隠れて…というか、目の前にある笑顔の眉間に明確に血管が浮いている。

(こ…怖い。)


「それは…尊重されるべきですし…そうなんですけど…」

 でも、でも、今はなんにも無しのただの人だけど、私は神様。出会った人々ぐらいは正しき方向に…。


「それ以上侮辱するなら」

 一応、虹の形に閉じられている瞼《まぶた》の下にいったい何が隠されているのだろう?

 これが悪魔と契約したものの圧力…?


「する…なら…?」

 声がかすれているのが情けがない…。だって怖いんだもん。


抱くぞ

「ごめんなさい」


 ただ謝る。素直に謝る。すぐ謝る。今のところ敵いそうはないのだから。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート