かみてんせい。

挿絵いっぱいな物語。
あゆみのり
あゆみのり

第六十三話 落下。

公開日時: 2021年7月23日(金) 22:40
文字数:2,698

「で…でっかくない?」

 目的地、土の化身ダッドの現れた場所、その上空にたどり着いた私達。

 雲から見下ろす光景に驚いていた。


「でっかいの…。わらわの所に出て来た時より数倍でっかい。」

 かつて水の大陸アルケー湖で一戦交いっせんまじえた、その時より遥かに大きい。

 まるで人型の山のような姿は、雲に乗っているから全身見渡せているが、地上からだと顔の部分が見れないんじゃないだろうか?


「今は暴れている様子がありませんね…。」

「釣った。という事だろう。私達を呼び寄せるためにな。」

 ナビは使いの者から得た情報との違いをいぶかしみ、タチがそれに仮の答えを用意する。

 

 その時山がこちらを見た。


 大きなダッドの「くぼみ」としか言いようのない目が、私達を捕捉する。


ブン!!

 雲に向かって振り上げられた山の腕から、無数の土の塊が飛んできた。


バシュ!バシュ!

 勢いよく乱れ飛ぶ土塊つちくれが、私達の乗る雲に穴をあける。

 下から来た攻撃に対処するのは難しく、その中の一つが私に直撃しそうになった時――。


バギン!

 空気が弾ける音がした。

 

 ナビだ。ナビが風の守りを張って、私への攻撃を弾いてくれた。

 でもその反動で、宙に浮くナビは離れた所に飛ばされてしまう。


「ちょっ…!?」

 それと同時に、乗っていた雲がほどけて消えた。

 私は庇いに来てくれたタチと共に、空へと放たれる。


「ナナ…怪我は!?」

「大丈夫…!それよりみんなが!」

 高所からの落下。

 激しい風の音の中、互いの無事を確認し周りを見る。


 少し離れた上空でズーミちゃんが体を伸ばし、ユニちゃんを捕まえていた。

 ナビはまだ、だいぶ遠くにいる。


 二組の落下物を待ち構えているのは、動く山ダッド。



「ナナ!!」

 私より上の場所からズーミちゃんが叫ぶ。風の流れに反した彼女の言葉がかろうじて聞こえる。

「力を使え!ぶつかる前に衝撃を吸収するんじゃ!!」

「…わかった!!」


 このまま落ちればダッドに撃ち落とされる、されずとも地面に激突するだけ。結果は同じだろう。

 親友に渡された「源の力」それを使って水の玉でタチと私を覆えば…。


ゴアアァア!

 激しく響く空の音。

 体を遊ぶ浮遊感。


 非日常な状態が、私の集中を妨《さまた》げる。


 私は良い…。

 もし、このまま落ちたら、さすがのタチだって…。

 

 目を閉じ集中しようとしても、嫌な想像が脳裏に浮かぶ。


「まかせろ!!」

 私の苦悩の横で、自身に満ち溢れた声が発せられた。

 落ちるだけしかナイはずの人から。


むに。むに。

 

 そうです。タチさんです。

 タチが私の胸を揉み始めました。


「小さいのもまた良い!いくらでも味わっていられる!」

「…」


 困ったことに落ち着いてしまった。

 だって「いつもの」過ぎるんだもん。


 体が馴染み、ちょっとだけ心地よさが広がる。


「あぁ…たまらん!!!」


ドプン。

 タチの叫びと共に、私の握り合わせた手から水の玉が膨らんだ。

 なぜだろう、この素直に喜べない感じは…。


「見ろ!これが愛の力だ!!」

「…否定しようか悩むよ。」

 

バキバキバキ!!

 激しい風、水玉の壁を越えてユニちゃんの歯ぎしり音が降り注ぐ。

 「上」にいる彼女達からは、さぞかし良く見えたのだろう。

 弄りまわされる私が。


 私達を覆った水玉が空気抵抗を作り、伸ばされたダッドの手から軌道を反らす。


ブヨン!

 どうにかダッドの肩部分に無事着地できた。

 この位置ならダッドも攻撃をしにくいに違いない。


「しかし…大きいの。他者の土地にこれだけ送りこむとは…。完全にケンカ売っておる。」

 続けて降り立った、ズーミちゃんが地上を見下ろす。

 地上よりも空が近く感じる高さだ。


 ダッドもイトラも、和解や話し合いなど最初から考えていないのだろう。


「ご無事だったようで。」

 私を守って弾かれたナビも集合し、みんなでダッドの顔を見上げる。


グラッ。

 地面…。つまりダッドの体が大きく揺れた。

 私達を振り落すつもりらしい。


「ナビ。いくぞ。」

「はい。」

 ぶっきらぼうに指示するタチに、両腕を広げて答えた風の化身。

 ナビが祈る様に手を合わせると、タチの両足に緑色の輝く風が纏《まと》わりつく。


「ズーミ。少しナナを頼む。」

 そう言い残しタチはダッドの肩から飛び降りた。

 身投げするみたいに。


「タチ!?」

 突然の出来事に、慌てて彼女の行方を追う。

 揺れる地面に両ひざをつき、眼下を見下ろすがタチの姿が見えない。


ヒュパ。

 私の顔に一瞬影が落ちた。

 頭上をナニか横切ったのだ。


「…飛んでる。」

 タチが空を蹴って走っていた。


 撃ち落とそうと飛ばされる土塊《つちくれ》を切り落とし、ダットの顔へと跳ねる。

 その横をナビが援護しながら泳いでいく。


「見事な連携じゃの…。」

 見事に息があった連携である。

 2人の舞うような動きを見て、これが初めてじゃないとズーミちゃんも感じたようだ。


「むむむ…。なんか…かっこいい。」

「妬いとる場合か。早くわらわの玉には入れ。」

 空を見上げ下唇を噛む私を、新しく厚い壁の水玉を張ったズーミちゃんが手招く。

 既にユニちゃんは中に居て、私よりも怖い顔で上空の2人を…いや、タチを睨んでいた。


「私だって役に立ちたいのに。」

「無理は禁物じゃよ。大人しく身を護るとしよう。」

「…うん。」

 

 分かっている。邪魔や足手まといには絶対なりたくない。

 反抗するつもりなんて微塵も無く、私も大人しく水玉の中に入る。

 

 厚い水の壁の向こうでは、一層格好よくタチとナビが宙を舞い戦っていた。


「凄い防壁だね。」

 以前グラグラと揺れるダッドの上。

 私達の所にも、流れ弾程度の攻撃が飛んでくる。


 だがその全てが、水の壁を貫通することはなく、勢いを殺されただの泥となる。


「もとより、攻撃よりも受けが得意な性質じゃからの。それに源も二つそろっとる。」

「そっか…。完全状態だもんね。」

 自分の右手を見てみると、微かに青く光っていた。

 私の意志じゃない。ズーミちゃんの持つ「源」に共鳴しているようだ。


「やはり絶大な力じゃよ。神から授かった源は。それにユニも力を貸してくれとるしの。」

「ユニちゃんも?」

「そうじゃ。こやつも、だいぶ上質な水の性質を秘めておる。海を移動した時も早かったじゃろ?」

「!」(胸張りユニちゃん)

 

 ユニちゃんが親指をたて、私にアピールする。

 そうか、ユニちゃんも補助してくれているのか。


 水の化身に、源をもつ元神、それとユニコーン。

 良い感じに相乗効果が効いているみたい。


 ダッドの攻撃さえ通さない、分厚い水の玉。

 鉄壁の守りの中にいれば、もう安心だ。


「…ねぇ。これで攻撃できないかな…?」

「攻撃?」

「?」(首をかしげるユニちゃん)

 水の壁をぷよぷよ押す私は、一つの案を思いつく。

 ズーミちゃんとユニちゃんが不思議そうな顔をしている。


 そんな不穏な水玉の外では、スタイリッシュな空の戦いがまだまだ続いていた。 

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