「で…でっかくない?」
目的地、土の化身ダッドの現れた場所、その上空にたどり着いた私達。
雲から見下ろす光景に驚いていた。
「でっかいの…。わらわの所に出て来た時より数倍でっかい。」
かつて水の大陸アルケー湖で一戦交えた、その時より遥かに大きい。
まるで人型の山のような姿は、雲に乗っているから全身見渡せているが、地上からだと顔の部分が見れないんじゃないだろうか?
「今は暴れている様子がありませんね…。」
「釣った。という事だろう。私達を呼び寄せるためにな。」
ナビは使いの者から得た情報との違いを訝しみ、タチがそれに仮の答えを用意する。
その時山がこちらを見た。
大きなダッドの「くぼみ」としか言いようのない目が、私達を捕捉する。
ブン!!
雲に向かって振り上げられた山の腕から、無数の土の塊が飛んできた。
バシュ!バシュ!
勢いよく乱れ飛ぶ土塊が、私達の乗る雲に穴をあける。
下から来た攻撃に対処するのは難しく、その中の一つが私に直撃しそうになった時――。
バギン!
空気が弾ける音がした。
ナビだ。ナビが風の守りを張って、私への攻撃を弾いてくれた。
でもその反動で、宙に浮くナビは離れた所に飛ばされてしまう。
「ちょっ…!?」
それと同時に、乗っていた雲がほどけて消えた。
私は庇いに来てくれたタチと共に、空へと放たれる。
「ナナ…怪我は!?」
「大丈夫…!それよりみんなが!」
高所からの落下。
激しい風の音の中、互いの無事を確認し周りを見る。
少し離れた上空でズーミちゃんが体を伸ばし、ユニちゃんを捕まえていた。
ナビはまだ、だいぶ遠くにいる。
二組の落下物を待ち構えているのは、動く山ダッド。
「ナナ!!」
私より上の場所からズーミちゃんが叫ぶ。風の流れに反した彼女の言葉がかろうじて聞こえる。
「力を使え!ぶつかる前に衝撃を吸収するんじゃ!!」
「…わかった!!」
このまま落ちればダッドに撃ち落とされる、されずとも地面に激突するだけ。結果は同じだろう。
親友に渡された「源の力」それを使って水の玉でタチと私を覆えば…。
ゴアアァア!
激しく響く空の音。
体を遊ぶ浮遊感。
非日常な状態が、私の集中を妨《さまた》げる。
私は良い…。
もし、このまま落ちたら、さすがのタチだって…。
目を閉じ集中しようとしても、嫌な想像が脳裏に浮かぶ。
「まかせろ!!」
私の苦悩の横で、自身に満ち溢れた声が発せられた。
落ちるだけしかナイはずの人から。
むに。むに。
そうです。タチさんです。
タチが私の胸を揉み始めました。
「小さいのもまた良い!いくらでも味わっていられる!」
「…」
困ったことに落ち着いてしまった。
だって「いつもの」過ぎるんだもん。
体が馴染み、ちょっとだけ心地よさが広がる。
「あぁ…たまらん!!!」
ドプン。
タチの叫びと共に、私の握り合わせた手から水の玉が膨らんだ。
なぜだろう、この素直に喜べない感じは…。
「見ろ!これが愛の力だ!!」
「…否定しようか悩むよ。」
バキバキバキ!!
激しい風、水玉の壁を越えてユニちゃんの歯ぎしり音が降り注ぐ。
「上」にいる彼女達からは、さぞかし良く見えたのだろう。
弄りまわされる私が。
私達を覆った水玉が空気抵抗を作り、伸ばされたダッドの手から軌道を反らす。
ブヨン!
どうにかダッドの肩部分に無事着地できた。
この位置ならダッドも攻撃をしにくいに違いない。
「しかし…大きいの。他者の土地にこれだけ送りこむとは…。完全にケンカ売っておる。」
続けて降り立った、ズーミちゃんが地上を見下ろす。
地上よりも空が近く感じる高さだ。
ダッドもイトラも、和解や話し合いなど最初から考えていないのだろう。
「ご無事だったようで。」
私を守って弾かれたナビも集合し、みんなでダッドの顔を見上げる。
グラッ。
地面…。つまりダッドの体が大きく揺れた。
私達を振り落すつもりらしい。
「ナビ。いくぞ。」
「はい。」
ぶっきらぼうに指示するタチに、両腕を広げて答えた風の化身。
ナビが祈る様に手を合わせると、タチの両足に緑色の輝く風が纏《まと》わりつく。
「ズーミ。少しナナを頼む。」
そう言い残しタチはダッドの肩から飛び降りた。
身投げするみたいに。
「タチ!?」
突然の出来事に、慌てて彼女の行方を追う。
揺れる地面に両ひざをつき、眼下を見下ろすがタチの姿が見えない。
ヒュパ。
私の顔に一瞬影が落ちた。
頭上をナニか横切ったのだ。
「…飛んでる。」
タチが空を蹴って走っていた。
撃ち落とそうと飛ばされる土塊《つちくれ》を切り落とし、ダットの顔へと跳ねる。
その横をナビが援護しながら泳いでいく。
「見事な連携じゃの…。」
見事に息があった連携である。
2人の舞うような動きを見て、これが初めてじゃないとズーミちゃんも感じたようだ。
「むむむ…。なんか…かっこいい。」
「妬いとる場合か。早くわらわの玉には入れ。」
空を見上げ下唇を噛む私を、新しく厚い壁の水玉を張ったズーミちゃんが手招く。
既にユニちゃんは中に居て、私よりも怖い顔で上空の2人を…いや、タチを睨んでいた。
「私だって役に立ちたいのに。」
「無理は禁物じゃよ。大人しく身を護るとしよう。」
「…うん。」
分かっている。邪魔や足手まといには絶対なりたくない。
反抗するつもりなんて微塵も無く、私も大人しく水玉の中に入る。
厚い水の壁の向こうでは、一層格好よくタチとナビが宙を舞い戦っていた。
「凄い防壁だね。」
以前グラグラと揺れるダッドの上。
私達の所にも、流れ弾程度の攻撃が飛んでくる。
だがその全てが、水の壁を貫通することはなく、勢いを殺されただの泥となる。
「もとより、攻撃よりも受けが得意な性質じゃからの。それに源も二つそろっとる。」
「そっか…。完全状態だもんね。」
自分の右手を見てみると、微かに青く光っていた。
私の意志じゃない。ズーミちゃんの持つ「源」に共鳴しているようだ。
「やはり絶大な力じゃよ。神から授かった源は。それにユニも力を貸してくれとるしの。」
「ユニちゃんも?」
「そうじゃ。こやつも、だいぶ上質な水の性質を秘めておる。海を移動した時も早かったじゃろ?」
「!」(胸張りユニちゃん)
ユニちゃんが親指をたて、私にアピールする。
そうか、ユニちゃんも補助してくれているのか。
水の化身に、源をもつ元神、それとユニコーン。
良い感じに相乗効果が効いているみたい。
ダッドの攻撃さえ通さない、分厚い水の玉。
鉄壁の守りの中にいれば、もう安心だ。
「…ねぇ。これで攻撃できないかな…?」
「攻撃?」
「?」(首をかしげるユニちゃん)
水の壁をぷよぷよ押す私は、一つの案を思いつく。
ズーミちゃんとユニちゃんが不思議そうな顔をしている。
そんな不穏な水玉の外では、スタイリッシュな空の戦いがまだまだ続いていた。
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