かみてんせい。

挿絵いっぱいな物語。
あゆみのり
あゆみのり

第九話 フレー!フレー!

公開日時: 2020年9月4日(金) 03:11
文字数:2,114

 けが人を救出していた兵士のところまでおじちゃんを運びズーミのところに戻る。

「ズーミちゃん!なんでタチの加勢しないの!」

 そう、ズーミもずっとタチとダッドの戦いをただ見ていた。


「じゃって…わらわは化身じゃし…」

「それは…それはそうかもだけど!」

「無為に人間を攻撃したりせんが…人と化身どちらにつくべきかと言うとの…」

 確かに、むしろ傍観してくれているだけでもありがたい関係性だった。私の視座がおかしいだけなのかも…。

 神殺しを目論む女と土の化身…。


「…わかった!なら被害が広がらないよう、あっちで守ってあげて!」

「…」

「動けない怪我人が集まってるから、とばっちりとか、崩落とか怖いだろうから!」

「それなら…土の化身に敵対してるわけじゃないしの…。」

 釈然としない様子だが、小さくうなずく。何かしたいという気持ちがあったのだろう。

 私も同じだからよくわかる。


「ありがと!それじゃよろしくね!」

「まて!ナナお主はどこに行く!」

「応援!一人じゃ元気でないだろうから!」

 私は神様。元気づけてもらってばかりじゃ、面目が立たない。

(できることを…)


   *     *     *


ひゅぱ!ひゅぱ!

 水の斬撃がきらめき、土の塊が舞い落ちる。


(さすがに…疲労がたまってきたな…。)

 

 悪魔と契約し、尋常ならざる体力を得ているとはいえ、限度がある。

 相手は化身。自分の何倍もある土の塊三つを相手に、終わりの見えぬ戦闘を繰り広げているのだ。

(もともとたくさん性交するために得た力だからな…。)


 余計な思いが頭に過るのは、よくない傾向だ。

 ただただ肉体のおもむくままに…戦闘も性交もそれが一番調子よくコトが進む。


 ダッドの攻撃はただ腕を振っているだけ、パターンも多くはない。

 だが質量があり、私と違い勢いは衰えない。

 こっちの剣筋はよれはじめ、回避行動も危うくなりはじめた。


(こちらに有利な要素が多少欲しい所だな。)

 弱音ではない、まだまだ戦える。

 だが、少しぐらい味付けが変わってもいい頃だろう。同じことの繰り返しに、食傷気味だ。


カツン!


 ダッドの体に石ころがぶつかった。ダメージはないが、ほんの少しダッドの意識がそれたのがわかる。

(一撃いれれるな。)

 ほんの少しの味変更で、一撃多く叩き込んでやれた。

 せっかく対峙しているのだ、ちゃんと隙はついてやらないと。


「タチー!がんばれー!」

 目で確認する余裕はないが、可愛い援軍が到着したらしい。

 なぜ逃げてない!と着火しかけたが、ここは後から沸き起こった喜びを味わおう。

 その方が得だ。


「よく来たな!だがあまり前に出るなよ!」

 だがちょっとまずい。

 万一私がボコられるのはいいが、良い子がおかずに増えた。

 この子をあんな退屈で、野暮ったい土塊に食わせるわけにはいかない。


 まだ、私も抱いていないのに。


(億が一にも負けられなくなってしまったな。)


「うん!えっとズーミちゃんは…大人の事情で助太刀できないってー!」

 残念。戦力としてきたいできそうな、唯一の手札だったのだが。まぁ仕方がない。


「そうか!あとで体に教え込まんとな!抱いて!」

 会話は体力を使うし、集中力が少しばかりそれるが、なにより気力が沸いた。

  

 へたくそなコントロールで飛ぶ小石と可愛い声援。

 少し変化したこの場を、タチは楽しんでいた。




   *     *     *




 ナナに言われた通り、けが人の集められた倉庫付近でズーミは身を隠しながら護衛についている。

 戦闘場所からは割と離れているので、とばっちりの心配はなさそうだ、タチが負けない限り…。

 

 その時はどうしよう。

 考えたくもない。

 じゃけど、あの場にいてもタチの手助けもせずただ見ていることしかできんかった。


 あぁ…ついさっきまであんなににぎわっていたアルケー湖が…。

 どうしてこんな事に…。


 ちゃんと管理しなかったわらわのせいじゃろうか?

 それとも好き勝手やる人間のせい?大暴れするダッドのせい?

 ぐるぐるめぐる思考に吐きそうになる。

 

 わらわの引き継いだ地…。


「お前の誠実さこそが、この力を持つにふさわしい。」


 三百年前、先代の水の化身に言われた言葉を思い出す。とても嬉しかった。

 認められた気がして。とても不安じゃった。できる自信などないのじゃから。

 

 結果、今こうなっている。四人いる化身の中で唯一の2代目。

 化身の中で唯一神様にお会いしたことのない元スライム。


(神様だったらどうなさるのじゃろう…)

 迷うといつもその基準で計ろうとしてしまう。情けないが仕方がない。

 体の中にある授かりし源…ココから溢れる絶大な力が一番安心を与えてくれるのだから。


「うぅ…。」

 横たわる人々が痛そうに、苦しそうに、うめいている。見知った顔も多い。

 当然だ、付き合いの長いアルケー湖の周りの住人ばかりだから。


 よく服を着こみ、体を隠して歩きまわっているのだ。

 人間の賑わいや、けんそうが好きだから。

 混ざりたくなる。構いたくなる。

 

 どうすればいいのだろう?人間の痛々しい姿をみていられない。


「ぐっ…がっ…!」

 聞き覚えのある声がした。


「!!」

 倉庫の外、端っこのほうに寝かされている男性に目が留まる。


 ズーミのよく知る顔だった。

 血に汚れた包帯が右目と顔半分覆っていてもわかる。

 

 ズーミを子供と思ってか、いつもおまけに一玉多く差してくれる大好物もちもち殺しの店主…。


 ギルガさんだ。 

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