かみてんせい。

挿絵いっぱいな物語。
あゆみのり
あゆみのり

第三十三話 抱かれるべき。

公開日時: 2020年9月25日(金) 09:00
文字数:2,273

 空が泣き、私達を濡らす。

「貴様の目的はなんだ!!」

 私を護るように立つストレが、黒衣の男に槍を向ける。

 敵わないとわかっていても、彼女は義理を通す。

 今までの生き様を貫いて。


「…こっちが聞きたいね。恵まれたとしても、オレに価値なんてない…そう痛感させるためか?」

 私たちじゃなく、天に向かって男は答えた。


「神の命だ。あんたを殺すのはオレがふさわしい。何度だって何度だって殺してやる。時の化身」

「時の…化身?」

 剣で指し示されたのは私。

 なんのことだ?時の化身?そんな化身、聞いたことが無い。


 だが彼が、イトラの命令で動いているのは間違いなさそうだ。


「恨みや憎しみでは、救いはおとずれんぞ!」

 ストレが、槍を突き出し、突進する。


「つごうのいいもん全部手に入れたって、救われなかったんだ。それでも前を向けってか?」

 攻撃を造作もなく受け流し、払いのける。


「逃げてください!チビ様!」

 ストレは叫び、追撃をかけるが、男の歩みは止まらない。


「チビか…いいな。役割しかない神様がいる世界じゃ、相応しい呼び名だ。さしずめ俺はクズって所か。」

 男がストレの槍を叩き落とし、無造作に剣を振った。

 どうにか胸当てで受けられたが、ストレは吹っ飛び地面を転がる。

 

「何度でも生まれ変わるんだろう?今日から追いかけっこの始まりだ。俺の気が済むまで…殺されてくれ。」

 ゆっくり男が剣を振り上げる。

 私の首に狙いを定めて。

 抵抗のしようがない…今の私では。

 能力も才もない…それだけではなく、体に気力が湧いてこないから。


「…?」

 男は首を傾げた。

 剣を振り下ろしたはずなのに、私の首がついている。

 そして、男の腕が吹き飛ばされたから。


「気に入ったぞ…抱いてやろう。強い我を感じる。」

 わき腹を押さえたタチが、片手に水の剣を伸ばし立っていた。


「タチ!!」

 やっぱり…!やっぱりだ!タチが負けるわけない。


「…あんたも人外か。その傷で動ける人間いないだろ。」

 切り落とされた腕を拾い、何事もなかったかのようにくっつける男。

 タチの回復能力をはるかに凌ぐ、凄まじい再生能力だ。


「貴様に必要なモノを教えてやろう…。」

「面白い言ってみろよ?」

 タチが、わき腹から流れる血を気にもせず男に駆ける。


「抱かれる覚悟だ!全てをさらけ出し、涙を流して喘げ!!」

「あんたも狂ってんな…。悪いが俺は男だ。それに女なら死ぬほど抱いたさ。」


バチィン!

 普通の剣と違い、変化の大きな水の剣は不自然な軌道で男を襲う。


「お前程度の器量で、手に入れようとするから苦しむ!抱かれておけ!」

「指導か?勘弁しろ。こちとら根っこから腐ってるんだ。」

 多少の斬り傷などお構いなしで、雑な防御をする黒衣の男。

 水の剣が頬をかすめても、次の斬撃が襲う前に傷口はふさがっている。


「良いではないか!何物にも変えられぬ持ち合わせなら、誇れ!」

「その変えようのないものでオレは――!!」


バチ!バチ!

 水色と黒の線が交錯こうさくする。

 男のつけたばかりの右腕はまだ完全じゃないらしく、動きが鈍い。

 だから、どうにか勝負になっているようだ。


「変わりたいなら私に抱かれろ!手っ取り早いぞ!!」

「説教してんのか、煽ってんのか、わかりにくいんだよ!」

 男の動きが素早くなり、タチが押されている。


 やだ。やだ…!さっきは大丈夫だったけど、もしも、万が一、あの一撃で死んでたら…私は…。


「ナナ!?」

 後悔したくない。

 後ろから黒衣の者に体当たりをした。今の私ができる最大の攻撃。

 私を見つめるタチの顔が苦しそうに歪んでいる。

 嫌だな、そんな顔でのお別れは…。


「うざってぇ。死ねよ!」

 どうせ、私は生まれ変われる。

 もしかしたら、またタチに会えるかもしれない。

 なにより、彼女を失うのが嫌だ。

 

 体は勝手に動いてくれて、男を離さないと決めていた。


 死ぬまで。


「タチ!お願い!倒して!!」


ブシャアア!

 突然、水飛沫があがった。

 血ではない。ただの水が。

 男を掴んだ私の手から。 



「あれ…?」

「ぐっ…いったい何が…!」 

 恐怖で閉じた目を開くと、男のわき腹に穴が開き、私の右手が青く光ってる。

 

「ナナ、いったいそれは…。」

 誰一人として状況がつかめていない。

 でも、懐かしい感じがする。

 私の右手袋の内ポケットから…。


「これって…源?」

 親友のくれた贈り物。

 小さな青い宝石の中に隠されていたのは、神の力「源」だった。


(もしかして、ズーミちゃんが…!)

 でも、そうするとズーミちゃんは大丈夫なのだろうか?色々ぐるっと回った頭の中で一つの答えが浮かぶ。


 水の化身は元々二体一対の存在…。


 そうか…この小さな源は…!

 青い宝石は私の右手の中に入り、その輝きが薄れていく。


 源の力。神である私が、化身達に分け与えた元となる力。

 

 私の体内に戻った源は、渡した時とは違う青い色身を帯びていた。

 水の化身に同化し長い年月を共にした結果だろう。


 テラロックとペタロック。そしてズーミへと受け継がれた源の力。

 その一つが今私の元へ…。


「…えい!」

 力を込めて拳を握ってみる。

 手が水の球に包まれ覆われた。


「なんだかわからんが、ズーミのおかげのようだな。」

 見覚えのある水の力を見て、タチが合点し黒衣の者に向き直る。


「抱かれるか。死ぬか。選ばせてやろう。」

 相変わらずの、変態的な決め台詞で啖呵を切るタチ。


 さっきまでの緊迫感はどこへやら。

 私の気持ちなんて置いてけぼりな口上だけど、それでも嬉しい。

 タチにはずっとこうあって欲しいもん。

 


「そうよ!タチは強いんだからね!」

「あの…私もいますよ、チビ様…!」

 泥だらけで、涙目のストレも加わり、三人で男を取り囲む。

 

「性か。死か。選べ。」

 タチが格好よく。自分勝手な言葉を重ねた。



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