空が泣き、私達を濡らす。
「貴様の目的はなんだ!!」
私を護るように立つストレが、黒衣の男に槍を向ける。
敵わないとわかっていても、彼女は義理を通す。
今までの生き様を貫いて。
「…こっちが聞きたいね。恵まれたとしても、オレに価値なんてない…そう痛感させるためか?」
私たちじゃなく、天に向かって男は答えた。
「神の命だ。あんたを殺すのはオレがふさわしい。何度だって何度だって殺してやる。時の化身」
「時の…化身?」
剣で指し示されたのは私。
なんのことだ?時の化身?そんな化身、聞いたことが無い。
だが彼が、イトラの命令で動いているのは間違いなさそうだ。
「恨みや憎しみでは、救いはおとずれんぞ!」
ストレが、槍を突き出し、突進する。
「つごうのいいもん全部手に入れたって、救われなかったんだ。それでも前を向けってか?」
攻撃を造作もなく受け流し、払いのける。
「逃げてください!チビ様!」
ストレは叫び、追撃をかけるが、男の歩みは止まらない。
「チビか…いいな。役割しかない神様がいる世界じゃ、相応しい呼び名だ。さしずめ俺はクズって所か。」
男がストレの槍を叩き落とし、無造作に剣を振った。
どうにか胸当てで受けられたが、ストレは吹っ飛び地面を転がる。
「何度でも生まれ変わるんだろう?今日から追いかけっこの始まりだ。俺の気が済むまで…殺されてくれ。」
ゆっくり男が剣を振り上げる。
私の首に狙いを定めて。
抵抗のしようがない…今の私では。
能力も才もない…それだけではなく、体に気力が湧いてこないから。
「…?」
男は首を傾げた。
剣を振り下ろしたはずなのに、私の首がついている。
そして、男の腕が吹き飛ばされたから。
「気に入ったぞ…抱いてやろう。強い我を感じる。」
わき腹を押さえたタチが、片手に水の剣を伸ばし立っていた。
「タチ!!」
やっぱり…!やっぱりだ!タチが負けるわけない。
「…あんたも人外か。その傷で動ける人間いないだろ。」
切り落とされた腕を拾い、何事もなかったかのようにくっつける男。
タチの回復能力をはるかに凌ぐ、凄まじい再生能力だ。
「貴様に必要なモノを教えてやろう…。」
「面白い言ってみろよ?」
タチが、わき腹から流れる血を気にもせず男に駆ける。
「抱かれる覚悟だ!全てをさらけ出し、涙を流して喘げ!!」
「あんたも狂ってんな…。悪いが俺は男だ。それに女なら死ぬほど抱いたさ。」
バチィン!
普通の剣と違い、変化の大きな水の剣は不自然な軌道で男を襲う。
「お前程度の器量で、手に入れようとするから苦しむ!抱かれておけ!」
「指導か?勘弁しろ。こちとら根っこから腐ってるんだ。」
多少の斬り傷などお構いなしで、雑な防御をする黒衣の男。
水の剣が頬をかすめても、次の斬撃が襲う前に傷口はふさがっている。
「良いではないか!何物にも変えられぬ持ち合わせなら、誇れ!」
「その変えようのないものでオレは――!!」
バチ!バチ!
水色と黒の線が交錯する。
男のつけたばかりの右腕はまだ完全じゃないらしく、動きが鈍い。
だから、どうにか勝負になっているようだ。
「変わりたいなら私に抱かれろ!手っ取り早いぞ!!」
「説教してんのか、煽ってんのか、わかりにくいんだよ!」
男の動きが素早くなり、タチが押されている。
やだ。やだ…!さっきは大丈夫だったけど、もしも、万が一、あの一撃で死んでたら…私は…。
「ナナ!?」
後悔したくない。
後ろから黒衣の者に体当たりをした。今の私ができる最大の攻撃。
私を見つめるタチの顔が苦しそうに歪んでいる。
嫌だな、そんな顔でのお別れは…。
「うざってぇ。死ねよ!」
どうせ、私は生まれ変われる。
もしかしたら、またタチに会えるかもしれない。
なにより、彼女を失うのが嫌だ。
体は勝手に動いてくれて、男を離さないと決めていた。
死ぬまで。
「タチ!お願い!倒して!!」
ブシャアア!
突然、水飛沫があがった。
血ではない。ただの水が。
男を掴んだ私の手から。
「あれ…?」
「ぐっ…いったい何が…!」
恐怖で閉じた目を開くと、男のわき腹に穴が開き、私の右手が青く光ってる。
「ナナ、いったいそれは…。」
誰一人として状況がつかめていない。
でも、懐かしい感じがする。
私の右手袋の内ポケットから…。
「これって…源?」
親友のくれた贈り物。
小さな青い宝石の中に隠されていたのは、神の力「源」だった。
(もしかして、ズーミちゃんが…!)
でも、そうするとズーミちゃんは大丈夫なのだろうか?色々ぐるっと回った頭の中で一つの答えが浮かぶ。
水の化身は元々二体一対の存在…。
そうか…この小さな源は…!
青い宝石は私の右手の中に入り、その輝きが薄れていく。
源の力。神である私が、化身達に分け与えた元となる力。
私の体内に戻った源は、渡した時とは違う青い色身を帯びていた。
水の化身に同化し長い年月を共にした結果だろう。
テラロックとペタロック。そしてズーミへと受け継がれた源の力。
その一つが今私の元へ…。
「…えい!」
力を込めて拳を握ってみる。
手が水の球に包まれ覆われた。
「なんだかわからんが、ズーミのおかげのようだな。」
見覚えのある水の力を見て、タチが合点し黒衣の者に向き直る。
「抱かれるか。死ぬか。選ばせてやろう。」
相変わらずの、変態的な決め台詞で啖呵を切るタチ。
さっきまでの緊迫感はどこへやら。
私の気持ちなんて置いてけぼりな口上だけど、それでも嬉しい。
タチにはずっとこうあって欲しいもん。
「そうよ!タチは強いんだからね!」
「あの…私もいますよ、チビ様…!」
泥だらけで、涙目のストレも加わり、三人で男を取り囲む。
「性か。死か。選べ。」
タチが格好よく。自分勝手な言葉を重ねた。
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