茶色のダウンジャケットを着ている中年男性。
いかにも涼しげな桃色のワンピースを、堂々とおしゃれして着こなす髪の長い少女。
ひと言で厳つい。でも、優しい一面を持つお姉さん。
無簧のシルエットを片手で握りしめている爺。
白いシャツ一枚の、頭がはげている筋肉体質な男。
誰一人として生きている者はいなかった。でも、その人々はどれも個性的だ。
死者でもない何かが、そこで生きているんだという感覚ぶりを思わせる。
私はソソラの手を解放して、パチッと手を叩く。すると、沢山の幽霊が遠慮せずに此方へ集まりだした。
村の片隅からも幽霊がどことなく現れて、村に訪問したソソラを歓迎した。
「みっ、皆様がこんなにもお集まりして頂けるなんて、私は幸せ者です……」
足元にショベルを突きさしていたメアは、うっとりとした緩急のある表情を見せて、祝おうとする幽霊の皆様にとてもを感謝した。
それから、ソソラに向かって言葉を添える。
「メアという名前はね、ナイトメアのメアだよ?」
――これは、頭の空想から生まれたひと言だった。
墓守の少女は死者を死に様を否定し続ける。その墓守に寄り添ってくるのが未練を持たない者、即ち幽霊ということ。幽霊はメアに対して好奇心を抱いていた。
「こんなの見てる俺は不愉快なだけだ。単純に興味が無いんだよ」
ソソラの表情は硬くなるばかり。
いつまでもこの村にいる必要性もないと感じ始める。
まず、俺が求めているのはこんな愉快な幽霊ではないんだ。
俺が探しているのはもっと別にある。
捜し物を発見する為に、俺はあの爺さんの後をつけてきただけだから……。
このような思考が横切ったソソラはメアに対し、本意を傲慢な態度で訴えかけた。
だが、そんな不良のような威厳だろうがお構いなしに――。
「こちらがエレンさんで、この太っ腹なお方がイリーナさん。それから、向こう側に座っているのが、左からミカドちゃん、オリオー君、サブタ・ロルさんです」
たくさん沸いている幽霊たちの個性を見分けて、次々と名指しした。
「俺の話すら聞いていないだと――?」
極端に音程が高い声で言い放ったソソラの鼻に向かって、小さな虫が着地する。その虫を即座に手で払ったもが、血を吸われた痕跡が残った。
「ぐ、くそっ……たれが……」
かゆみを感じ始めるソソラは、自身の鼻を赤く腫れない程度に触りだした。そこでようやく気づいた私は、赤くなっていたソソラの鼻元を見つめる。
「あ……軽いバチでも当たったのですね。それは、村で暗いお話をされると皆様が哀しみますので、喜ばせるのが墓守探偵として当然です!」
私は胸を張って堂々と主張した。
死者を葬り去って、残された者の慰めを行うと同時に、亡くなった張本人に対し喜怒哀楽で人間らしい表情を忘れてほしくないと願う。その上で正式な手順を踏み、成仏させる。
それは墓守として誇りに思うと同時に、死して尚、活動する者を存在否定しているようなもの。
存在否定は断じて許さなかった。
でも、村の幽霊たちは……。
そうか――。
だから、今日は笑顔が持たないのか。
そんなことを考えていた私は、自慢のショベルが倒れているのを目視すると、顔から明るみが消えていった気がした。
で、このような私説も記憶上にある。
墓守探偵は世界に『絶望の真実』と『希望の嘘』を与える。
だが、その割合は一対一ではないと駄目だ。そんなきめ細かで押しつけがましい考えを持つ者はもっと嫌いだ。たぶん、お父様のお言葉。
そうとしか思えずにいられなかった。怒りを言葉にせずとも、正直者の顔にハッキリと出ていた。とはいえ、生き様に溺れるメアを慰めようとしていたソソラが、必死になって訴えかけていた。
「お前は馬鹿か? それなら一理あるから……。俺が中傷的ですまなかった」
……折角の訪問者を私の傲慢で悲しませてしまった気がする。
これでは申し訳ない。ソソラに詫びようとして頭を起こす。
その時だ、ソソラの顔が間近にまで迫っていた。
距離間のなさに驚きを隠せない私は、ソソラの顔面にぶつかりにいってしまい……。
「いっぁ……。ううっ……」
たんこぶができた。……ような気がする。そのぐらいは強打した。
でも、お互い激怒することはなかった。
「くっ――痛えけど、いきなりで完璧にまで俺が悪かった!」
と、大声で言われた。痛みをこらえて頭を抑えるソソラ自ら腰を低くして謝りにきたのだった。
「……いえ。こちらこそ、ごめんなさいです」
「お前が謝ってどうするんだよ。俺が困るだけだ。……で、こんなことをするのは、やぱり外からの訪問者が少ないからか?」
自分の負傷を気にせず、ぶつかったメアのおでこを気にしていた。
大丈夫です。という態度をソソラに見せようとして大きく両手を振る。だが、思ったよりソソラの反応が薄かった。
どう表現したら良いのか悩んてしまったメアだったが、村の中にいる幽霊達を心配させない為に、ざっくりと……表情や仕草の確認を欠かさなかった。
読み取れたことを黙り込む幽霊達は、二人を心配していた。
その幽霊達の困惑する顔を目についたメアは、ソソラに視線を移し替えて無理やり笑顔を見せつけた。
「ごもっともです。そんなに深くない事情があるのです!」
笑う門には福来る。
笑顔になれば、きっといいことが起こる。
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