珍しい訪問者は何かしらの目的があって村へと足を運んだ。埋葬した魔女に関する情報収集を行いたいだけなのか、この村を焼き払いたい思考でもあるのか。
でも、この村を守らないといけない。
悪の手網に掛からないよう……誠実に……?
考えていく内に、忠実な姿勢を保てなくなった。
小さな手のひらで、チューリップのような華やかなデザインが施された赤いドレスコードを叩いて、少しでも悪い気持ちを和らげようと、私は働きかける。
いつも愛用しているショベルは、背を向けている小屋の付近に突き刺している。それを足を急かしてまで手に取った。
「私は何も知らないのです!」
我を失い、少年に歯向かうように振り返った。
麦わら帽子に隠れ気味な、細目でまろやかな橙色の髪が揺らぐ。
「この村に……お前以外の住人がもし居るというのなら、俺を道案内してほしい」
「えっと……どうして、ですか?」
ふと疑問に思った。
もしかして、私以外に生活している者がいるかもしれない?
「それで、どうなんだ?」
戦う気力を見せつけない少年。
「えっと……むー」
「ふーん。そのショベル、あんまり持たないな。あと余命三日ってところで完全に壊れる」
敵意を示すメアから視線を逸らしてまで、少年はショベルを見つめていた。
これは単にショベルといっても「ジョイント・ショベル」と呼ばれる道具であり、錆つきを寄せ付けない白銀のコーティングが成されている道具である。
そのショベルの持ち手の部分は、白い包帯のようなものが巻かれており、大きな三日月の型をした紅色のアクセサリーが太い縄で縛られていた。
もはやメアの家宝と断じて当然だ。
持ち手と刃先の真ん中、棒状の部分には縦の黒ラインが入っている。また、ショベルの棒状を伝って、単調な花柄模様が刃先にまで彫られていた。
それは誰にも屈伏しない力強さと、おもてなしする優しい心構えを強調していた。
「――いいか、これはお前のだ。何が起きても絶対に手放すなよ!」
かけ声は脳の中を右から左へ突き抜けていった。それは、お父様が残した置き手紙に書かれていたメッセージだ。墓守だったお父様が愛用していたショベルだと、メアは教え込まれていた。
そんな大切なものが今になって失ってしまうと、少年の口から聞くことになって、とても不愉さ極まりない虚無感で胸を苦しめる。
埋葬を生きがいとしていたメアにとって、とても信じられないことだ。
失うと何も出来なくなる恐怖まである。
私は黙り込むしかないのか。
それとも墓守探偵という肩書きを捨てた方が……。
「……そうだな。とっても交渉のし甲斐がある取引を思いついた。さっきの条件と引き換えに、俺がこのショベルを直すのはどうだ?」
「いいえ、私はお答えすることができません。座右の銘に反します!」
口だけが先走った。事情を口にせず強引に諦めさせようとした。
当然さながら、これを甘んじて受け入れない少年の顔は嫌気で溢れかえったいた。
そして、手に持っていたリコーダーを、メアのおでこに当てた。
「いいから教えろや。――話はそれからだ」
リコーダーの丸い底は、とても冷たくて、何処か懐かしい記憶を蘇らせそうだった。
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