幼いころのメアは何者かに、そう教え込まれた覚えがある。意味は違っていると、幼いころよりは成長したメア自身は察していたが、間違っているであろう使い方が気に入っていたので今になってもたまに使いたくなる。
「……ですから、意味とかはそんなに深くないです!」
「そんなに深くないって――ふははっ、俺を笑わせたな?」
腹を抑えはじめるソソラは、微笑し続けた。
「ぷぐー。私はソソラを笑わせていません」
「そんなお前の謙虚な対応がとても面白いんだよ、はははっ――」
「私、怒りました。絶交しましょう!」
「会ったその日に? そんな墓守なんて今までに聞いたことないや」
ソソラの微笑は暫く止まることなく、緩やかな時間だけが過ぎていく。
「ぷぐー。返すお言葉が見つかりません」
メアはすっかりと頬を膨らましていた。その時、メアの肩を揺らす少年がいた。
村に集まる者の説明で、メアがオリオー君と言っていた少年だ。
「墓守のおねーちゃんは、たまには背ずじを伸ばして遊ぼーよ?」
「はーい! 今行きますね……?」
メアは少年に従って連れて行かれると、少年少女が円を作って集合していた場所の中心部分で立ち止まった。
それからは、メアは笑顔を絶やさずに子供達とお喋りし始めて、何をして遊ぼうか皆で考えていた。
「アタシに遠慮は構わないさ。さてと、珍しく手料理でも振る舞うか」
厳つい女性がソソラと対話する。
「……いいのか。こんな得体の知れない俺にこんなものを」
「いいさ、むしろアイツのお友達になってくれたら、たったそれだけでアタシ達は目から鱗が落ちるレベルで瞳を輝かせ、安心して今夜も眠れるのさ」
「そんな生き方で、お前らこそ納得出来るのかよ?」
「――出来るわよ。少なくとも、ここにいる者はメアちゃんのことが好きなんだからね?」
「そんなのはどうでも良いじゃろ。それよりも、あのお嬢ちゃんの、何処が気に入ったのか。ワイはとても気になるじゃい」
いつの間にか、ソソラには沢山の幽霊達が囲んでいた。
それぞれが自主的に話し出し、会話慣れしないソソラは頭の中が混乱しそうだった。
「耳鳴り。やかまし過ぎるわ……」
じじいがソソラの頭を叩く。
「まぁまぁ、少年よ。まずワシの話を聞いてみたらどうじゃい?」
「これといってお前らみたいな幽霊にこれっぽっちも興味が無いんだよ」
ソソラは顔を逸らす。
「そうやって……また興味ないってか。おめぇ、何かしら闇でも抱えておるんじゃないのか?」
「そんなの知らんな」
「おぬしが暗い顔をしては、村の者達が騒ぐぞい。それよりも、ワシたちが出来る楽しいことをやろうではないか。そんなの、人が誰しも持っている悩みの種に過ぎないのじゃよ」
意味を理解出来なかったソソラだったが、会話が途切れた。そこにエリンという青年がソソラを慰めにかかる。これ以上、なんとなく幽霊の言葉は聞きたくない。――そう悟った。
「じじいの仰るとおりで正論だ。そうと決まれば、もっと集まって皆で賑わおうではないか!」
旅人の風が吹けば、あっという間にお祭り騒ぎ。
やや湿気のある草木は強めに吹き抜けた風に煽られて、そわそわと揺らいでいた。
†
子供たちと、かくれんぼを始めた時だった。
「ねぇねぇ……?」
「はいっ。ちょっとしてから見ますね」
いつもとは違う感覚の声が混じっていた。
でも気にしないで――いようと思ったのですが……。
「それじゃあ、遅いかもね?」
「はい? どういうことでしょうか……」
「ちげーよ、お姉さん。こいつは」
ある少年は、自分たちとは違う感覚の女の子を警戒していた。
「お願いします。わたくしのお願いごとを聞いて欲しいの」
「そうですね……ショベルはあっちの地面に置いてあるので、ちょっと席を外しますね。その間、鬼の役を代行して頂けませんか?」
「出来かねます。わたしにはこの者達とは違うのです。早く――」
その女の子から手渡しされたのは、黒ずんだクラリネットだった。
あら、これは……。廃都出身と思われる煌びやかな制服に、丁寧な口調。そして、村に新たな死体の不法投棄という疑惑。更に楽器を添えられて。
――村の者ではない死体が、紛れてしまいました。
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