僕の夢は、子供の頃からずっと変わらない。
ずっとずっと昔から、思い描いているものだ。少しだけ大人になった今、ようやく、僕の夢が叶った。
僕は、笑顔を浮かべた。
やっとだ。やっと、夢が叶ったのだ。
僕の夢は、綺麗な踊る炎を見る事。目の前で揺らめく炎は、まるで僕のために踊ってくれているかのように、楽しそうに揺らめいていた。
子供の頃に見た、キャンプファイヤー。あれがとても綺麗で、僕はもう一度あの炎を見たいと思い続けて来た。でも、キャンプファイヤーって中々してなくて、見る機会はあれから一度もなかった。
「はは、はは」
僕は、たまらず笑顔を浮かべた。
だって、ずっと見たかったものが、やっと見れたんだ。
なんて綺麗なんだろう。
ゆらゆら、ゆらゆらと、炎が揺れていて、本当に、とても、綺麗だ。
「はは、はは」
やっと見れた。僕の、僕だけのキャンプファイヤー。
「はは、はは」
笑いが、止まらない。
「はは、はは、はは」
僕は、炎の音色と共に、大きな声を上げて、笑っていた。
この、全身に鳥肌が立つほどの高揚感。こんなの初めてだ。これを、楽しいと表現すればいいのか、嬉しいと表現したらいいのか、よくわからないほどに。
楽しい、楽しいよ。お母さん。
すごい。こんなの初めてだ。
最高だ。
炎から発する音色も、聞いているととても刺激的で、僕の高揚感はさらに高まった。
炎の音色。これを文字にするとしたら、どんな言葉になるだろう。
そのまま音として、伝えてみようか。
炎がゆらゆらと揺れている中で醸し出される音のハーモニーは、文字にすると、こんな音。
「ぎゃぁぁあああ、ぁああああぐぉぉおああ、ぁああ、ぎゃああーーー!あつ、あつい!きあぁえぐぇああああああぎゃぁぁあああ、ぁああああぐぉぉおああ、ぁああ、ぎゃああーーー!あつ、あつい!きあぁえぐぇああああああ」
「ぎゃぁぁあああ、ぁああああぐぉぉおああ、ぁああ、ぎゃああーーー!」
「はは、あはははははは! あはは!」
最高! 最高だよ母さん。あーもう。笑いが止まらない。
まるで動物のような唸り声で、普段の母さんの声からは想像も出来ない声だった。
「あつ、あつい!きあぁえぐぇああああああぎゃぁぁ」
そうだよな。熱いよな。痛いよな。苦しいよな。全身の皮膚が、焼け焦げて行くんだから。そりゃそんな声にもなるよ。
あー楽しい。なんだろうこの感情は。悲しみもある、憎しみもある。楽しい、嬉しい、全部あるんだ。
「あーはは! はははははは! あはは」
とにかく、僕はこらえきれないほどの高揚感に、大きな声をあげて爆笑していた。
「あああ、ぁああああぐぉぉおああ、ぁああ、ぎゃああーーー!あつ、あつい!きあぁえぐぇああああああ」
この時間が、永遠と続けばいいのに。
綺麗な炎を着飾って、今まで聞いた事のないほどの断末魔を響かせながら、母さんがゆらゆらと炎と一緒に揺れている。
もちろん。これは事故なんかじゃない。僕が僕の夢を叶えるために、炎を母さんに着せてあげたんだ。
一番最初に僕は、母さんにプレゼントがあるって言った。母さんは、嬉しいそうな顔をして、こんな森の中まで、何も疑う事もなく付いて来てくれたんだ。本当に感謝してるよ。
森の中に来て、僕は、母さんを押さえつけて、ガソリンをかけた。そして、母さんに、マッチを投げて、炎の洋服を着せてあげたんだ。
僕がマッチを投げる寸前の母さんは、まるで信じられないとでも言うような目で僕を見ていた。
あと「やめて、やめて」ってずっと言ってたな。普段はあんなに強気なくせして、こんな時だけやめてってさ。まぁ、面白かったけど。
「ぎゃあ、ぁああ! あつ、あついぃ! いたいっ、いたい! かず! かず! たすけてーぁああ!きあぁえぐぇああああああぎゃぁぁあああ、ぁああああぐぉぉおああ、あつぃいぁああ、ぎゃああ」
僕の夢を叶えようと、一生懸命踊り狂ってくれている母さん。時々、かずって、僕の名前も呼んでくれて。あぁ、もう、こんなに頑張って踊ってくれるなんて、僕は大満足だよ。
でも、こんなに楽しい時間も、いつかは終わりを迎えてしまう。母さんの動きが段々と遅くなって、倒れてしまったんだ。僕の夢は叶ったけど、それは永遠の時間ではないんだ。
「…………………」
炎の音色が止まる。
もう、動かなくなった物体に炎が揺れているだけになってしまった。
あーあー、終わっちゃった。一瞬だったな。もっと見たかった。聞いていたかったのに。
ジリリリリリリリリリーー。
ん?
うるさいな。なんだよこの音は。
ジリリリリリリリリリーー。
………………。
ジリリリリリリリリリーー。
「はっ!!!!」
僕は、慌てて起き上がった。
え?
ジリリリリリリリリリーー。
僕は、横で鳴っている目覚まし時計を止める。
今僕がいるのはベッドの上…。
嘘だろ。
夢──…?
「………………」
夢…。にしては、すごくリアルで…。
まだ、あの高揚感が消えてない感じがした。心臓もすごくドクドク言っている。汗もすごい。
「かずー?起きなさーい」
母さんの、声だ。
俺は、夢での母さんの断末魔を思い出した。
ものすごく、リアルな夢だった。
「……………」
汗と一緒に、自然と笑みが溢れる。
「母さん!」
そして、僕は、決めてしまうんだ。
「起きてたの?ん?なに?」
あの夢を、叶えるために─…。
「母さんに、プレゼントがある」
僕の言葉に、母さんは嬉しそうに笑って「何?プレゼント?初めてじゃない。そんなの」と言った。
「一緒に来てほしい所があるんだ」
夢を叶えよう。
あの素晴らしき光景を。
あの素晴らしき音色を。
あの素晴らしき世界を。
さぁ、一緒に行こう母さん。夢の中へ。
母さんは嬉しそうに笑った。そして僕も、笑って母さんを見上げた。
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