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完結済 短編 現代世界 / ホラー

ー踊る炎ー 夢は、自ら行動しないと叶わないだろ?だから、そうしたんだ

公開日時:2023年2月27日(月) 23:58更新日時:2023年2月27日(月) 23:58
話数:1文字数:2,289
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 僕の夢は、子供の頃からずっと変わらない。

ずっとずっと昔から、思い描いているものだ。少しだけ大人になった今、ようやく、僕の夢が叶った。


 僕は、笑顔を浮かべた。


 やっとだ。やっと、夢が叶ったのだ。


 僕の夢は、綺麗な踊る炎を見る事。目の前で揺らめく炎は、まるで僕のために踊ってくれているかのように、楽しそうに揺らめいていた。


 子供の頃に見た、キャンプファイヤー。あれがとても綺麗で、僕はもう一度あの炎を見たいと思い続けて来た。でも、キャンプファイヤーって中々してなくて、見る機会はあれから一度もなかった。


「はは、はは」


 僕は、たまらず笑顔を浮かべた。


 だって、ずっと見たかったものが、やっと見れたんだ。


 なんて綺麗なんだろう。


 ゆらゆら、ゆらゆらと、炎が揺れていて、本当に、とても、綺麗だ。


「はは、はは」


 やっと見れた。僕の、僕だけのキャンプファイヤー。


「はは、はは」


 笑いが、止まらない。


「はは、はは、はは」


 僕は、炎の音色と共に、大きな声を上げて、笑っていた。


 この、全身に鳥肌が立つほどの高揚感。こんなの初めてだ。これを、楽しいと表現すればいいのか、嬉しいと表現したらいいのか、よくわからないほどに。


 楽しい、楽しいよ。お母さん。


 すごい。こんなの初めてだ。


 最高だ。


 炎から発する音色も、聞いているととても刺激的で、僕の高揚感はさらに高まった。


 炎の音色。これを文字にするとしたら、どんな言葉になるだろう。


 そのまま音として、伝えてみようか。


 炎がゆらゆらと揺れている中で醸し出される音のハーモニーは、文字にすると、こんな音。














「ぎゃぁぁあああ、ぁああああぐぉぉおああ、ぁああ、ぎゃああーーー!あつ、あつい!きあぁえぐぇああああああぎゃぁぁあああ、ぁああああぐぉぉおああ、ぁああ、ぎゃああーーー!あつ、あつい!きあぁえぐぇああああああ」











「ぎゃぁぁあああ、ぁああああぐぉぉおああ、ぁああ、ぎゃああーーー!」


「はは、あはははははは! あはは!」


 最高! 最高だよ母さん。あーもう。笑いが止まらない。


 まるで動物のような唸り声で、普段の母さんの声からは想像も出来ない声だった。


「あつ、あつい!きあぁえぐぇああああああぎゃぁぁ」


 そうだよな。熱いよな。痛いよな。苦しいよな。全身の皮膚が、焼け焦げて行くんだから。そりゃそんな声にもなるよ。


 あー楽しい。なんだろうこの感情は。悲しみもある、憎しみもある。楽しい、嬉しい、全部あるんだ。


「あーはは! はははははは! あはは」


 とにかく、僕はこらえきれないほどの高揚感に、大きな声をあげて爆笑していた。


「あああ、ぁああああぐぉぉおああ、ぁああ、ぎゃああーーー!あつ、あつい!きあぁえぐぇああああああ」


 この時間が、永遠と続けばいいのに。


 綺麗な炎を着飾って、今まで聞いた事のないほどの断末魔を響かせながら、母さんがゆらゆらと炎と一緒に揺れている。


 もちろん。これは事故なんかじゃない。僕が僕の夢を叶えるために、炎を母さんに着せてあげたんだ。


 一番最初に僕は、母さんにプレゼントがあるって言った。母さんは、嬉しいそうな顔をして、こんな森の中まで、何も疑う事もなく付いて来てくれたんだ。本当に感謝してるよ。


 森の中に来て、僕は、母さんを押さえつけて、ガソリンをかけた。そして、母さんに、マッチを投げて、炎の洋服を着せてあげたんだ。


 僕がマッチを投げる寸前の母さんは、まるで信じられないとでも言うような目で僕を見ていた。


 あと「やめて、やめて」ってずっと言ってたな。普段はあんなに強気なくせして、こんな時だけやめてってさ。まぁ、面白かったけど。


「ぎゃあ、ぁああ! あつ、あついぃ! いたいっ、いたい! かず! かず! たすけてーぁああ!きあぁえぐぇああああああぎゃぁぁあああ、ぁああああぐぉぉおああ、あつぃいぁああ、ぎゃああ」


 僕の夢を叶えようと、一生懸命踊り狂ってくれている母さん。時々、かずって、僕の名前も呼んでくれて。あぁ、もう、こんなに頑張って踊ってくれるなんて、僕は大満足だよ。


 でも、こんなに楽しい時間も、いつかは終わりを迎えてしまう。母さんの動きが段々と遅くなって、倒れてしまったんだ。僕の夢は叶ったけど、それは永遠の時間ではないんだ。


「…………………」


 炎の音色が止まる。


 もう、動かなくなった物体に炎が揺れているだけになってしまった。


 あーあー、終わっちゃった。一瞬だったな。もっと見たかった。聞いていたかったのに。


 ジリリリリリリリリリーー。


 ん?


 うるさいな。なんだよこの音は。


 ジリリリリリリリリリーー。


 ………………。


 ジリリリリリリリリリーー。


「はっ!!!!」


 僕は、慌てて起き上がった。


 え?


 ジリリリリリリリリリーー。


 僕は、横で鳴っている目覚まし時計を止める。


 今僕がいるのはベッドの上…。


 嘘だろ。


 夢──…?


「………………」


 夢…。にしては、すごくリアルで…。


 まだ、あの高揚感が消えてない感じがした。心臓もすごくドクドク言っている。汗もすごい。


「かずー?起きなさーい」


 母さんの、声だ。


 俺は、夢での母さんの断末魔を思い出した。


 ものすごく、リアルな夢だった。


「……………」


 汗と一緒に、自然と笑みがこぼれる。


「母さん!」


 そして、僕は、決めてしまうんだ。


「起きてたの?ん?なに?」


 あの夢を、叶えるために─…。


「母さんに、プレゼントがある」


 僕の言葉に、母さんは嬉しそうに笑って「何?プレゼント?初めてじゃない。そんなの」と言った。


「一緒に来てほしい所があるんだ」


 夢を叶えよう。


 あの素晴らしき光景を。


 あの素晴らしき音色を。


 あの素晴らしき世界を。


 さぁ、一緒に行こう母さん。夢の中へ。


 母さんは嬉しそうに笑った。そして僕も、笑って母さんを見上げた。




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