遊園地の中に入るとすぐに、ぐぅーとお腹の音がなる。私は恥ずかしくなり、お腹を咄嗟におさえた。
「朱里は起きるの遅かったし、朝飯食べてないよな? まずは食事が先だな。朱里、誰だって腹は減るんだからそんなに気にしなくていいぞ」
そういって軽く流してくれた。黒炎くんはパンフレットを見ながら食事できる店を探してくれた。
「よし、ここにするか!」
どうやら決まったみたいで、手を握るとすぐさま走り出した。
「ちょ……! 黒炎くん!」
走らないで! と思っていたが、黒炎くんにはそれは伝わっていない様子。
あの一件以来、ほんの少しだけ距離が近づいた。
黒炎くんもちょっぴり心を開いてくれたのか、今では普通に触れてくれるようになった。
だけど、幼馴染という立場は変わらなくて。それでも黒炎くんが楽しそうにしてくれるのなら今はそれでいいやと思う私もいた。
「やっぱり可愛くて美味しい店がいいよな。朱里、ここなんかどうだ?」
それはウサギがモチーフとされてるお店。外観から可愛いウサギで飾られている。
「わぁ〜! 可愛い!」
「朱里はこういうの好きだろ?」
「どうして、そう思うの?」
「小さい頃ずっと一緒だったんだ。朱里のことなら何でもわかるぞ」
「……」
黒炎くんは嘘つきだ。肝心なことは何一つ理解してないくせに。やっぱり鈍感なんだね。でも、幼馴染の私だからこそ気を遣って優しく接してくれるんだよね?
だったら、もし幼馴染という枠から外れてしまったら私は黒炎くんにとって何になるの?
「ん〜、美味しい!」
私たちは店内に入り食事を楽しんでいた。
店内はウサギのぬいぐるみや雑貨などで可愛く飾られている。
ちなみに、私が頼んだのはチョコペンで可愛いウサギが描かれたパンケーキ。
黒炎くんはチーズハンバーグ。チーズがウサギの形になっている。
まさに女子力高めのカフェって感じ。
女子高生や女子大生で溢れる中、黒炎くんは凄く目立っていた。
「あの黒髪の男の子、超イケメンじゃない!?」
「だよね! 私もそう思った!」
「隣にいるのって彼女? なんか地味ー」
黒炎くんのことカッコいいって言われるまでは良かったんだけど、そのあとコソコソ話をしながら、こっちを指差しながら見てくる女性客。
なんか嫌だなぁ。せっかくの美味しい料理が台無し。
私はテンションが下がり、黙々と食べていた。
ボーッとしていると、黒炎くんが居ないことに気付く。どこに行ったんだろうと、ふと辺りを見回すと、黒炎くんはなんと女性客の席の前に立っていた。
「人の陰口を言うのはいけないと思います。しかも、指を差すなんて。せっかくの美人が台無しですよ?……それと俺の大切な人になにか?」
黒炎くんは相手が年上でも臆する事無く、私の陰口を言っていた女性客に怒っていた。
怒っていた、というよりは注意に近いのだけど。
それは今までに見たことないような冷たい作り笑顔。私自身も思わずゾッとしてしまうほどに威圧感を感じてしまった。
「す、すみませんでした」
黒炎くんの発言が怖かったのか、静かな殺気を放ったのに恐れたのか、女性客は謝った後すぐに店をそそくさと出て行った。
「謝る相手は俺じゃないんだけどな。朱里、大丈夫か?」
はぁ〜と深いため息をつきながら、私のほうに戻ってきた。良かった、いつもの黒炎くんだ。
さっきは知らない人かと思うほど、黒炎くんが別人に見えた。
「私は大丈夫。けど良かったの? あんなこと言って」
「大切な幼馴染の陰口言われて黙っていられなかった、ただそれだけだ」
あんなこと言ったら敵を作るのは黒炎くんなのに、それでも私を庇ってくれたんだね。
「黒炎くん、ありがとう。私を助けてくれて」
私は今すぐ感謝の気持ちを伝えたくて黒炎くんにお礼を言った。
「どういたしまして」
「でも、少しだけ怖かったよ。まるで……会長さんみたいだった」
「そんなにか!? 優しく注意したつもりだったんだけどな。って、だから会長は」
「わかってるよ。会長さんもだけど、黒炎くんも優しくて素敵だよ」
「なっ……」
その瞬間、黒炎くんの顔が赤くなった。もしかして照れてるのかな? 男らしいだけじゃなくて、可愛い所もあるんだね。
さっきは少しだけ怖かったけど、私を守ってくれる黒炎くんはまるで童話に出てくる王子様みたいだった。
今日は黒炎くんの色んな表情が見れて幸せ。黒炎くんの意外な一面を知るたび、独り占めしたいなって思ってしまう。
だけど、はたから見たら私は平凡に見えるみたい。もっと女子力磨かないと! と改めて決意した瞬間だった。
「まって。なんで寄りにもよってここなの?」
カフェから出た私たちはある場所に来ており、私はビクビクしながら黒炎くんの服を掴んでいた。
「そんなに怖いんだったら、出るまでずっと掴んでていいから」
服を掴んでいた手をグイッとして、ギュッと手を繋いでくれる黒炎くん。
そう、私たちは今お化け屋敷に入っています。
「ギャーっー!!!!」
入ってそうそう大声を出す私。
「!? 朱里。お前の声に驚いた」
「ご、ごめん!」
だって、いきなり血だらけの人が現れたら誰だって驚きもする。それからというもの、足にガシッと掴んでくる手にどこまでも追ってくる女性らしきオバケに私の叫び声は声を上げる度にボリュームがあがっていった。
「朱里。大丈夫か」
お化け屋敷から出た私はベンチに座っていた。が、黒炎くんとまともに会話出来る自信がない。
吊り橋効果とかよく聞くけど、お化け屋敷だと恋は生まれない気がする。
「あんまり大丈夫じゃない……」
私がぐったりしていると、「俺の膝で良ければ貸すぞ」と自分の膝をトントンと叩いている。
黒炎くんは怖がってる様子がないから平気だったんだろう。それもそうか、自分から私をお化け屋敷に誘うくらいだし。
「お言葉に甘えて借ります。でも……」
「ん? どうした??」
黒炎くんは何も気にしてないみたいだけど、これ普通は逆な気がする。あと物凄く恥ずかしい。
突然何を言ってくるかわからない黒炎くんの発言には毎回ドキドキが止まらない。さりげなく服を褒めてくれたり、今みたいに膝枕してくれるし。
それに、さっきは私が傷ついてるのがわかったのか助けてくれた。それでも彼氏じゃない黒炎くんはやっぱり近いようですごく遠い。
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