「夏祭りですか?」
宿題が一段落し、私は会長さんに黒炎くんのことについて話していた。
「貴方が知らないとは意外でした。そういうイベント事は恋を更に加速させますよ。柊黒炎はそういったゲームをしているなら尚更食いつくと思いますが」
付き合ったことがないというわりに会長さんのアドバイスは的確だった。それにしても、会長さんの口から恋やゲームって単語を聞くのはなんだか新鮮だ。
「た、確かに。近所で夏祭りがもうすぐあるのは知ってたんですけど、誘うかどうか迷ってて…… 」
「今さら躊躇するなんて貴方らしくもない」
会長さんの意見は最もだ。黒炎くんのことを知ると決めた以上、こっちからアタックしないと何も始まらない。だって黒炎くんは私のことを異性として好きじゃないから。
「実は……これこそ意外って思われるかもしれないんですけど。林間学校以来、黒炎くんと会ってないし連絡も来ないんです。だから嫌われてるんじゃないかとか」
「……それは恐らく自分のせいなので気にしないでください。ですが、今日からは落ち着くと思います 」
そういうと申し訳なさそうに謝る会長さんは私から視線を逸らす。
「なんで会長さんのせいなんですか?」
「それは詳しくは言えません。ですが大事な幼馴染と言われたのなら、少しは自分に自信を持つべきです」
見事に話を逸らされた。けど、会長さんなりに応援してくれてるのが伝わる。私の相談にもちゃんと答えてくれるし。
「大事な幼馴染、か……えへへへ」
林間学校のことを思い出すと顔がニヤける。口元がニヤニヤしてるせいで恐らくまわりからしたら気持ち悪いに違いない。
「元気を取り戻したみたいで安心しました」
「あ、そうだ。会長さん、遊園地のチケットありがとうございました! お礼いうのが遅くなってごめんなさい。あの日はすっごく楽しくて……」
ペコペコと頭を下げてお礼を言う私。あの日、キスをしたことは会長さんには話していない。そんなこと恥ずかしくて言えないよ。黒炎くんは会長さんにどこまで話したんだろう。
「どういたしまして。……こちらもいいネタ作りになりましたので」
「なにか言いました?」
「いえ、なにも」
会長さんが小声で何か言っていたようだけど、小さくて私には聞こえなかった。
「それと……」
「?」
会長さんが何かいいたそうにこちらに近づいてきた。
「柊黒炎の前で、先ほどのようなニヤけ顔はほどほどに」
耳元で囁かれる言葉に私はハッと我にかえる。
「やっぱりさっきのニヤニヤ顔見てたんですか!?」
アワアワと耳元を抑えながらガタッと立ち上がる私。黒炎くん以外にこんなことされても平気だって思ってたけど、やっぱり恥ずかしい! しかも、会長さんが何事もないような顔でドキドキするようなことばっかりするから尚更。
私ばかりドキドキするのは不公平な気がする……なんだか腑に落ちないな。
「こんなに近くにいるのに見てないほうが不思議だと思いますが。本当はスルーすべきだと自分に言い聞かせていたのですが、流石に無理でした」
「会長さんって誰にでもこういうことするんですか? もし、そうだとしたらやめたほうがいいです。された女の子は会長さんのこと好きになっちゃいますよ。勘違いされるような行動は控えたほうが……」
「まさか、後輩に注意される日が来るなんて自分もまだまだ勉強不足ですね。でも大丈夫です、貴方以外にこんなことをしたことはありませんから」
会長さんの表情が少し暗くなった。やっぱり私なんかが会長さんに注意するのは嫌だったとか? それに後半の言葉の意味がわからず、私は思わず聞き返してしまう。
「それって、どういう意味ですか?」
「わからないなら気にしないでください。それより夏祭り楽しんできてください」
「はい、楽しんできます! 今日は宿題の手伝いと相談に乗ってくれてありがとうございます。それでは失礼しました」
ペコっと軽くお辞儀をして、生徒会室を出た。
「どうして彼女にだけ、あんな行動を取ってしまうのか自分でもわからない」
一人、生徒会室に残された会長さんが何を言っていたのかは生徒会室を後にした私には聞こえていなかった。
「思ったよりも早く着いちゃったな……」
会長さんに宿題を手伝ってもらってから数日が経った。
私はある神社の前にいた。そう、今日は夏祭り。
私は無事に黒炎くんを夏祭りに誘うことに成功したのだ。
久しぶりに電話してみたけど、なんだか疲れてた声だったなぁ。
あれは会長さんに生徒会の仕事でも頼まれたとか? でも、前に生徒会室に行った時はそれらしい書類なんかもなかったし。むしろ、きちんと整理整頓されていた。
あれほど完璧に近い会長さんが生徒会に入ってない一生徒なんかに頼むだろうか。
(この格好、変じゃないよね……)
林間学校のときはまともに水着見せられなかったこともあり、リベンジとして気合いを入れ浴衣を着ている。可愛い浴衣にあうように髪型はお団子ヘアにしている。
メイクもしようと思ったけど、男の子のタイプによって好みも違うっていうし、今回は化粧しないことにした。素顔には自信はないけれど、大事な夏祭りで失敗するも嫌だし。
「ねぇ、君もしかして一人だったりする?」
「え?」
気持ち悪い笑顔を浮かべながら、数人の男の子が私に声をかける。男の子というわりに身長も体格も大きいから大学生くらい?
一瞬、私じゃない誰かに声をかけたと思ったけどまわりには誰もいないから間違いなく私だ。
「今は一人ですけど、あとから連れが来るので……」
なんだかとても怖く感じる。会長さんも年上だけど凄く親切だし、優しいから。だけど、この人たちは違う。
「じゃあ、連れが来るまで暇なわけだ。ならオレたちと遊ばない?」
「け、結構です」
これってナンパされてるんだよね……。なんで、私なんかが?
「遠慮しなくていいーって、お金なら出すからさ」
グイッと腕を引っ張られ、無理やり連れて行かれそうになった。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!