「そ、そうですね。会長さんは元気にしてましたか」
「どうやら嫌味ではなく、本当に心配しているようですね。体調はいつも通りとだけお伝えしておきます。貴方は告白が成功したみたいですね」
「な、な……なんでわかるんですか!?」
良かった。前みたいに会長さんとお話出来てる……と安堵の声を漏らそうと思った矢先、いきなりそんなことを言われた。
「その高級ドレスに髪型、靴まで……人柄を知るには足元から見ると良いとされています。今の貴方を見て、誰も貴方が一般家庭とは思いませんよ。それはおそらく彼のお陰だと自分は推測します。そこまでのことをするということは交際しているんでしょう」
相変わらず会長さんの言葉は堅苦しい。けど、私のセンスではないことは確かだ。ここまでしっかりとしたコーディネートは不可能に近い。でも、今の私は会長さんの言う通り、お金持ちのお嬢様に見えてたりするのかな?
「ただし、さきほどの食べ方を見る限りボロは出ているみたいですが」
「うっ」
「でも、貴方らしくて安心しました。それと良かったですね……ただ気をつけてくださいね」
「ありがとうございます。それ、どういう意味ですか?」
怪我をしないように、黒炎くんと仲良くしろという意味のわりになんだか会長さんの今の言葉はズシリと重い。なんだろう、そんな単純なことを心配してるんじゃない。
「良かったら自分ともダンスを……と、思いましたがそれは貴方の恋人が怒りそうなのでやめておきます」
「え、それって」
後ろを向くと、黒炎くんがいた。なんだか、すごく疲れてる気がする。
「会長。俺の大切な人に変なことしませんでしたか」
「してませんよ。心からの祝福をしていただけです。それでは自分はこれで失礼します」
会長さんはそういうと軽くお辞儀をして、どこかに行ってしまった。
「また遅くなって悪い」
「大丈夫だけど……なにかあったの?」
「あー……いろんな人につかまっててな。挨拶とかしてたら来るのが遅くなった」
挨拶……? 女の子に声でもかけられたのかな。それとも奥様方とか。
「やっぱり、そのドレスにして正解だったな。先週も見たけど改めて見るとやっぱり綺麗だ。今日は以前とは違って軽くメイクもしてもらったんだな」
「ありがとう」
メイクのこと気付いてくれた! ナチュラルメイクなのにそこに気付ける黒炎くんは私のことをよく見てるんだな。
「黒炎くんもカッコいいよ。前は試着だったけど、そのタキシードもカッコい……」
「名前は出さないように、だろ?」
最後まで言い終わる前に注意をされてしまった。私は名前を出してしまったとハッとしてしまう。
黒炎くんの指が私の口に当たってる。
これ以上、名前を出さないようにというサインなんだろうけど人前でこれは恥ずかしすぎる。
「お嬢様、俺と一曲踊りませんか」
黒炎くんから差し出される手。しかも私のことをお嬢様って……。黒炎くんがその姿でいうと本物の王子様みたいに見えてくる。
「ぜひ、お願いします」
私は緊張していたけど、黒炎くんの手を握り返す。触れた手がやけに熱かったのは黒炎くんのことを意識していたからなのか。
さっきのように曲が流れ出すと、私たちは踊りだす。だけど、意外だったのは黒炎くんがしっかりとリードしてくれていたこと。普段からなんでも完璧にできるけど、まさかダンスまで出来るなんて。
「あ……ごめん」
私は考え事をしながら踊っていたせいで、黒炎くんの足を踏んでしまった。
「お嬢様、焦らずゆっくりと」
「は、はい!」
黒炎くんは痛そうな素振りなど微塵も見せず、ダンスを続けてくれた。ヒールで踏まれたんだから絶対痛いはずなのに。
しばらくすると曲が終わり、私たちは手を離した。
「あれぇ~、もしかして柊家のとこのお坊ちゃまかい?」
かなりお酒臭いオジさんがこっちにフラフラしながら近づいてくる。
お坊ちゃまって……黒炎くんのこと?
「お嬢様、良ければ外の空気を吸いに行きませんか」
「えっ……」
オジさんをガン無視するように私を強引に引っ張ると、外へ連れ出す黒炎くん。
「ここなら仮面外しても問題ないだろ……」
外に出ると、大きな噴水がある場所で一息ついていた。マスクを外しながら、ベンチに腰をかける黒炎くん。
良かった。いつもの黒炎くんに戻ってる。さっきのリードしてくれる黒炎くんもカッコ良かったけど、やっぱり私は普段通りの黒炎くんのほうが好きだな。
「朱里もこっちに来て、座ったらどうだ?」
「そうするね」
私は黒炎くんの隣に座る。黒炎くんと男性とダンスをして、会長さんとも会話してたせいか足が疲れてしまった。座る場所もちらほらあったんだけど、なかなか座れなかったし、高いヒールを履いていたら疲労感もどっと来るわけで。
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