表紙はmiu様に描いていただきました。
“初恋”
好きな人のことを考えるだけで、胸がドキドキする。
目と目が合うだけで、顔が真っ赤に染まる。
手を繋ぎながら、デートしてみたい!って、可愛いことを想像してみたり。
恋って青春の一つだよね!? と、大声で叫びたくなる。
両思いになったら、さぞかし幸せだろうな……と思っていたのも束の間。
再会した幼馴染は✕✕オタクになっていました。
―――私には忘れられない初恋がある。
「ふふふふ。今日からJKか」
姿見の前でニヤニヤと笑顔を浮かべる私、霧姫朱里(きりひめ あかり)。
今日から、高校生です。
「制服かわいい~♪」
赤いリボンに短いスカートはまさに女子高生って感じ!
何度も、クルッとまわってみては、自分の制服姿を確認する。
「あ……」
ふと、目に入るのは、一枚の写真立て。
そこに映っているのは、小学4年生の頃の私と一人の男の子。
「元気にしてるかな……黒炎(こくえん)くん」
サラサラの黒髪で小学中学年ながら、顔立ちが整っている。成長したら、間違いなくイケメンになるタイプの男の子。
柊(ひいらぎ)黒炎(こくえん)くん。
そんな彼は、幼稚園からの幼馴染。
そして、私の初恋の人でもある。
だけど、そんな彼は小学5年生になる前、遠くに行ってしまった。
急な引越しだったせいで、連絡先も交換しなかった。残っているものといえば、この写真くらい。
幼少期時代のことで、思い出があいまいな部分も多い。
今でも好き? と聞かれると、「会ってないからわからない」と答えてしまうかもしれない。
だけど、心の奥底では、黒炎くんのことを好きという気持ちがある。
「制服姿、見てほしかったな」
ポツリと小さく呟いた。だけど、この声が黒炎くんに届くことはない。
そんなこと、わかってる。
でも、初恋だったんだもん。そんな簡単に忘れられない。
きっと、もう一度会ったら恋してるかどうかわかるはず。
「朱里ー、遅刻するわよー!」
「はーい」
下《リビング》からお母さんに呼ばれ、ハッと我に返る。
「……よし! これで完成!」
部屋を出る前に、腰まである黒髪を上にキュッと結んだ。
私はスクール鞄を肩にかけ、バタバタと階段を下りて、玄関の扉を開けた。
「お母さん、行ってきます~!」
「行ってらっしゃい。
お母さんも後から行くからね」
桜舞う今日は入学式。
素敵なことが起きますように……と心の中で呟きながら私は学校へ向かった。
星ヶ丘高校。
中高一貫の学校で、私立の中でもかなり偏差値が高い名門校で、元は超お金持ち学校。
だが、今は数多く私みたいな庶民も通っており、学費も庶民でも払える金額になったんだとか。
一部の生徒は、本当にお金持ちの御曹司や令嬢なんかもいたりすると噂で聞いた。
私は家から一番近いということもあり、この学校を選んだ。とはいえ、受験はめちゃくちゃ難しかったのはここだけの話。
「桜、きれいだなぁ」
学校近くまで着くと、桜の木があり、まさに桜並木の景色だった。
この桜並木を越えた先に、私の通う学校がある。
「黒炎くんもどこかで桜、見てるのかな」
私は立ち止まって、桜を眺めていた。
初恋の人、黒炎くんのことを想いながら……。
「そこ、どいてくれぇぇぇ!」
「!?」
桜を悠長に見ていたのも束の間、目の前には迫りくる自転車。
私はギュッと目を瞑り、(死ぬ)覚悟を決めた。
「間一髪、だな。そこのお前、大丈夫か!?」
「う、うん……」
ゆっくりと目を開けると、自転車は身体に触れるか触れないかの瀬戸際で止まってくれた。
(死ぬかと、思った……)
心臓の音がバクバクと鳴りやまない。心拍数が早いのが自分でもわかる。
私は、怖さのあまり、腰が抜けた。ペタリとその場に座る私。
自転車に乗っていた男の子は、自転車を止め、私のことを心配してくれてか傍に駆け寄ってきてくれた。
「急に自転車のブレーキがきかなくなってな。
そしたら、目の前に女子が止まってるのが見えて、さすがに声上げてしまった。本当に悪かった。怪我とかしてないか?」
「なんとか、大丈夫。そっちこそ、怪我とかしてない?」
「俺は大丈夫。って、男は傷くらい残ったって平気だ。お前は女子なんだから、傷なんか残ったら大変だろ?」
「そう、だよね……」
あれ、なんだろう。さっきから違和感を覚えるのは。私、この男の子の事、知ってる気がする。
「あの、助けてくれてありがとう。私、霧姫朱里(きりひめ あかり)! 今日から星ヶ丘高校の一年生になるの」
「朱、里……? 俺は黒炎(こくえん)」
「やっぱり! 黒炎くんだよね!? 私のこと、覚えてる? 幼稚園からの幼馴染で‥‥」
さすがに覚えてるわけないか……と諦めかけてたそのとき、「ああ、ちゃんと覚えてる。久しぶり、朱里」と微笑んでくれた。
声色も高校生らしく大人で、身長もかなり高くなってる。
サラサラの黒髪で王子様のようにカッコいい顔。
だが、他の高校生より若く見えて、童顔だ。
そんな黒炎くんを私が間違うはずがない。
「会いたかった……黒炎くん!」
やっと会うことができた。私の初恋の人に。
私は嬉しさのあまり、黒炎くんに勢いよく抱きついた。
「!? あ、朱里……ここ、一応、通学路なんだけど」
「え?」
私はハッとあたりを見渡した。すると、「きゃー。カップルがいる」などと女の子たちが顔を真っ赤にさせて、こちらを見ているのに気付いた。
いくら久しぶりに会えたからって、大胆すぎたかな、私//
ーーー
挿絵は鈴春様に描いていただいたものです。
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