「アカリにも膝枕したことあるのに、それを誰にも理解されないって辛いもんだな……」
そんな悲しそうな顔、黒炎くんにしてほしくないよ。
「黒炎くん……。私はアカリちゃんのこと好きだよ、可愛いし。それに黒炎くんとお似合いだと思う!!」
なんで私、黒炎くんとアカリちゃんの恋を応援してるんだろう。って思ったけど、でも今は黒炎くんの心が少しでも軽くなってほしかった。ただ、それだけ。
「朱里……そんなに気をつかわなくていい」
黒炎くんは多分わかっているんだ。だけど、アカリちゃんは黒炎くんの中では存在している。
それが心の支え。どうして? なんでなの。
そこまで黒炎くんを苦しめているものってなんなの。踏み込んではいけない。だけど、踏み込めないからもどかしい。
「気なんか遣ってない。私、本当にアカリちゃんはいると思ってる」
「そういってくれるだけで嬉しいぞ。ありがとな」
「どういたしまして。大分回復したから、次いこ? せっかく会長さんがくれたチケットだしもっと楽しまなきゃ! ねっ?」
私は起き上がり、黒炎くんの前で両手をいっぱいに広げた。
「遊園地って楽しいところなんだよ! なんなら、アカリちゃんとデートしてるって思ってもいいんだよ?」
「朱里。目の前にお前がいるのに、アカリの代わりにしろなんて言ったら駄目だ。お願いだから嘘でもそんなこと言わないでくれ。自分自身を否定したら……お前が消えてしまう」
「え。冗談、冗談だってば!」
アカリちゃんの名前を出したら元気が出ると思って冗談を言ったつもりが、逆効果だったとは。
黒炎くんから腕を握られた。消えてしまわないでと言わんばかりに、それはとても力強くて。
「もう言わない。だから遊ぼう?」
「それなら良いんだ」
私たちはジェットコースターに乗って叫んだり、コーヒーカップやいろんなアトラクションを楽しんだ。一段落すると、お土産屋さんを見ていた。
「う〜ん」
私はウサギと猫のキーホルダーのどっちを買うかで悩んでいた。
「あ、そうだ!」
あることをひらめいた私は二つのキーホルダーを購入した。
「黒炎くん。これ、今日遊園地に連れてきてくれたお礼!」
黒炎くんの目の前に差し出したのはさっき買った猫のキーホルダー。
「ありがとな。でも、男が持つには可愛すぎないか?」
どうやら、ちょっぴり恥ずかしいみたい。
「私はウサギなの。動物は違うけど、お揃いだよ!」
って、これってカレカノがすることじゃない!? と今の行動は流石にやりすぎかと思ってしまった。
「お揃い、か……こういうの悪くないかもな。大切にする。これを見るたび朱里と遊園地に遊び行ったんだなって思い出すことにする」
そういって私があげたキーホルダーに軽くキスを落とす。
「!」
その行動反則すぎるよ、黒炎くん。
さっき可愛く見えた黒炎くんが一瞬にしてカッコいい男の子に見えた。
「朱里?」
また何事もなかったかのように自分のリュックにキーホルダーをつけてくれた。
「いや、なんでもないの。どういたし……ちょ。黒炎くん!?」
「悪い。今から観覧車乗ってもいいか!?」
黒炎くんは私を連れていきなり走り出した。
どうしたんだろ。何かを見て慌ててたようだけど。
「二名様ですね〜、足元気をつけてお乗りください」
「ありがとうございます! 朱里、気をつけろよ」
「うん」
さりげなく手を差し出してくれる黒炎くんだけど、やっぱりどことなく焦っていて冷や汗をかいている。
そして、私たちは観覧車に乗り込んだ。普通はドキドキするはずなんだけど、今は黒炎くんの様子がおかしいことが気がかりで声をかける。
「黒炎くん。さっきは慌ててたみたいだけど、何かあったの?」
「知ってる奴らを見かけてな。気のせいだったらいいんだが、もし見つかったら……」
そのあと、黒炎くんは黙り込んでしまった。
沈黙がしばらく続いたあと、黒炎くんは「今更、俺になんの用があるっていうんだ」と独り言のように小さく呟いていた。
「もしかして会長さん?」
「会長だったら逃げたりしない」
「だ、だよね……」
私には黒炎くんが誰から逃げているのか皆目見当もつかず、的はずれな質問をしてしまう。
「……」
「……」
観覧車がゆっくりと上にあがる時間がやたら長く感じる。これほど沈黙な時間、いつぶりだろうか。
黒炎くんに話しかけたいけど、でも不快にさせてしまったら? 重い空気のせいで暗いことばかり考えてしまう。
だけど、窓から見える景色はそれを忘れさせた。
「ねぇ、黒炎くん。見て! 夕日がすっごく綺麗!」
もうすぐ日が沈む。あたりは茜色の空。それはとても綺麗で。毎日見ている景色なのに、今は目の前に黒炎くんがいる。好きな人と見る夕日はなんて素敵なんだろう。
「本当に綺麗だな。……朱里?」
「あのね、黒炎くん。実は私……」
こんなロマンチックな雰囲気で告白しないなんて駄目だ。今なら自分の気持ち、素直に言える気がする。二人だけの密室空間が私に勇気をくれた。
「私、黒炎くんのことが……!」
ガタッと立ち上がり、私は告白しようとした。
「朱里!? 急に立ち上がると……!」
「きゃ!?」
観覧車は頂上に達し、ガタッと揺れた。私は立ち上がっていたせいでバランスを崩し、黒炎くんのほうに身体が倒れてしまった。
「ん」
「んっ……!」
ふと柔らかい何かが当たっていると気付き目を開くと、私の唇は……黒炎くんの唇と重なっていた。
その日私は初めてのキスをした。
「ごめ、黒炎くん!」
私はバッと黒炎くんから離れて元の位置に座る。
「い、いや……怪我がなさそうで良かった」
口元を抑えてそっぽを向き、恥ずかしそうにしている黒炎くん。今、キスしちゃったんだよね? 不慮の事故とはいえ、これはあまりにも恥ずかしすぎる。
しかもファーストキスだったのに。好きな人とはいえ、あまりに急すぎて心の準備が出来てなかった。
黒炎くんは初めてだったのかな? ふとそんなことが頭によぎる。
初めてだったらいいのに……彼女でもない私がこんなことを言うのはお門違いかもしれないけれど。
黒炎くんの顔を見ると、相変わらずそっぽを向いて一向に目を合わせようとしてくれない。
私も一瞬なにが起こったのかわからなくて。目を開けると黒炎くんの顔が近くにあって……キスをした。
心拍数が早い。胸に手を当てるとドキドキしていて、さっきのことを思い出すだけで顔や耳が赤く染まっていくのがわかる。
あぁ、せっかく告白しようと思ったのに今はそれどころじゃない。黒炎くんだって今は聞いてくれそうにないし。
何もかもどうでもよくなって告白しようとしたのがいけなかったのかな? 黒炎くんのことを全て知ってから気持ちを伝えるべきだったのか。そのせいでバチが当たっちゃったのかな。
アカリちゃんのこともまだ全て理解したわけじゃない。
もっともっと黒炎くんのこと知らなくちゃ。きっと黒炎くんの心の闇は私が思ってる以上に深いから。
ーーー梅雨が明け、もうすぐ夏が始まろうとしていた。
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