「はぁ〜……どうしよう」
夏休みがあと何日かで終わるある日のこと、私は深いため息をつきながら、部屋の机に突っ伏していた。
夏祭りの日、私は会長さんから告白を受けた。それはもうとてつもなく真剣で、愛のある告白を。
会長さんが私のことを好きだっていうのも驚きだったんだけど、まさか私が黒炎くんに気持ちを伝える前に告白されるなんて思ってもみなかった。
私が思ってる以上に会長さんは恋のことになると積極的なのかもしれない。
私はアカリちゃんのことを含めて黒炎くんのことをもっと知らなきゃ! ってウジウジ考えて未だに告白出来てないし。いや、告白しようとしたけどハプニングがあってそれどころじゃなかったというか……。
それとも会長さんみたいに後先のこと考えずに突っ走るのが正解なのかな? 別に貶してるわけじゃないんだけど。
だけど、それは会長さんがカッコいいから許されるわけで、私なんかただの平凡な高校生だよ? こんな私が黒炎くんに釣り合うとはとても思えないんだけど。って、また自暴自棄になってる。
一人になると暗いことばかりを考える癖、いい加減なおさないと。
会長さんには申し訳ないけど、やっぱり真剣に考えても今は黒炎くんのことが好きで会長さんのことは先輩としては好きだけど、異性として好きかと聞かれると好きじゃないと答えが出てしまう。
それどころか、会長さんの告白のことを思い出すと黒炎くんへの気持ちがどんどん募っていく。
私も黒炎くんに好きですって伝えるべき?
「でも、その黒炎くんと連絡出来ないんだけどね」
私からメールしても、夏祭りのメールを最後に返事は返ってこなかった。黒炎くん、今頃何してんだろ。
「会長さんに告白を断る連絡しないとな……」
携帯を見て会長さんに連絡を取ろうにも、私は会長さんの連絡先を知らなかった。
これ、もしかして学校始まるまで連絡出来ないんじゃ……うーん、困った。
ずっと返事を待たせてるのもなんだか悪いし早めに連絡したいんだけど……と思っていたら、知らない番号から着信があった。
「誰だろう? も、もしもし」
しまった。携帯を触っていたからつい反射的に出てしまった。
「星ヶ丘高校の如月紅蓮です。霧姫朱里の携帯で間違いないですか」
「会長さん!?」
それはまさかの会長さんで。って、電話でも相変わらずフルネーム呼びでお堅い話し方なんだなぁ。
「霧姫朱里、今日は貴方に話したいことがあって……」
「奇遇ですね。私もです」
告白の返事をそろそろしろって事だよね? 私の番号を知ってるのは黒炎くんから聞いたからなのかな。私の答えはとっくに決まっている。
「会長さん、私は……!」
「明日、時間があれば出掛けませんか」
「え……」
予想外の言葉に私はびっくりした。確かに返事は急いでないみたいな感じではあったけど、本当にこれは意外すぎる。
「自分のことをもっと知ってほしいと思ってのことです。もちろん僕と貴方の二人きりで」
「……」
なんかデジャブといいますか……それは私が黒炎くんにしようと思っていたことで、やっぱり考えることは誰しも同じということか。
「もしかしたら、これが最後になるかもしれないので」
「最後って?」
「柊黒炎と貴方が交際したら、自分と二人きりでどこかに行くのは出来ないという意味です」
それは最もな意見だけど、今のは私の恋を応援してるという意味にとらえて良いんだろうか。仮にも会長さんは私が好きなわけで……。会長さんはあくまでもそうなった場合の話をしてるのかな。
私だってそうなりたいとは思うけど、なかなか上手くいかないのが現状で……そもそも告白が成功したとしても黒炎くんが私のことを異性として好きじゃないと付き合うことは出来ないわけで。
というか、会長さんは普通にいい先輩だし相談だって乗ってくれたし、出来ることなら友達として出かけたいんだけど……黒炎くんに会長と二人きりのとこを見られるとどういい訳していいかわからないし! って、なんでいい訳前提なの、私は。
「出掛けることを考える気持ちは十分理解しています。その上で自分は貴方に僕のことを知ってほしい……そう思って誘っているんです」
「うっ……」
電話越しなのに伝わってくる愛がやけに痛い。すごく断りづらい……自分のことを知ってほしいとか、その気持ちも共感できる。
「別に強制しているつもりはありません。不快にしたのなら断っていただいても構いません」
うー、どうしよう。確かに明日は家にいる予定だったから空いてるけれど。
「会長さんの気持ちも痛いほどわかります。だから誘いは受けます。だけど、私はあくまでも友人として接したいと思います」
「それで構いません。……先輩ではなく、友人というのは実に貴方らしい。他の生徒なら自分のことをそんな風には、けして言いませんから」
「それは会長さんのこと誤解してるだけだと思います。私も最初は怖い人だって思ってたくらいですから」
入学式の挨拶で会長さんを見たときはこんな風になるなんて思いもしなかったなぁ〜と思い出しながら、ふと笑みがこぼれてしまった。
「そうやって自分のことを褒めるのは逆効果だって理解してますか」
「あ、すみません。じゃあ明日は何時に集合です?」
「自分が貴方の家まで迎えに……と思いましたが流石に家は知らないので学校の前で待ち合わせでどうですか」
「はい、それで大丈夫です!」
さすがに私の家までは知らないのか。そうして電話を切り終えた。
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