「朱里―! スマホが鳴りっぱなしよ。いい加減、起きなさい」
「う~ん……」
とある土曜日。お母さんから起きなさいコールを食らってしまった。
私は重たい身体を起こしつつ、「目覚ましなんか設定したっけ?」と思いながらスマホを見るとそこには黒炎くんからの着信だった。
「も、もしもし?」
まさか寝起きに黒炎くんの電話をとることになるなんて。寝ぼけてるせいで、ちゃんと喋れるか不安だ。
「おはよう朱里。今日は休日だし良かったら出掛けないか?」
「え? う、うん?」
一瞬、聞き間違いかな? と思って疑問形になった。
「今日は新作ゲームの発売もないし、たまにはな。朱里が行きたい所があれば一緒に行こうかと思って……って、朱里?」
「ゆ、遊園地に行きたい! あと甘い物とか食べたいな」
夢かと思った。けど、これは現実で……まさか黒炎くんとお出かけ出来る日が来るなんて。幼馴染としてでも、これはかなり嬉しい。
「ん、遊園地な。寝起きだろうから昼頃、朱里の家に迎えに行くから」
「わかった。楽しみにしてるね」
そういって着信を終える。今日は黒炎くんとお出かけです。
って、着ていく服どうしよう……! と朝から頭を抱える私であった。
「これにしよう!」
クローゼットの中から取り出したのは一番のお気に入り。
「これで完璧♪」
大きな姿見でクルッと回ってみたけど、おかしなところはどこもない。
私は赤いリボンに膝丈まであるピンクのセーラーワンピースを着て、玄関を開けた。
すると、「用意出来たみたいだな」と黒炎くんの姿があった。
「う、うん。着替えてたら遅くなっちゃった。ごめんね、怒ってる?」
私は身長が平均より低いほうだから、自然と黒炎くんを見上げる形になる。
不安そうに黒炎くんの表情をうかがうと「なんで怒るんだ?」と逆に聞かれてしまった。
「その服、可愛いな。似合ってるぞ、朱里。それじゃあ、いくか」
「ありがとう」
私たちは遊園地行きの高速バスに乗り込んだ。遊園地はバスで1時間ほど。
服を褒められたのが嬉しくて舞い上がってた私はバスの中でずっとアホな顔をしていたと思う。それこそ、前のように口が開きっぱなしで。
「1時間あるから寝ててもいいか?」
「あ、大丈夫だよ。ついたら起こすから」
そういって、すぐさま夢の中に入る黒炎くん。
(昨日も遅くまでゲームしてたのかな?)
なんて考えながら、黒炎くんの寝顔を見ていた。まつ毛が長くて、やっぱり近くで見ると凄くカッコいい……と見惚れていると、コテンと黒炎くんの頭が私の肩に乗った。
だけど、黒炎くんは全く起きる様子はなく、むしろ気持ちよさそうに静かな寝息をたててぐっすり眠っている。
(こんなの心臓がいくらあっても足りない!)
恥ずかしさのあまり黒炎くんを退かそうと思ったけど、私の力じゃビクともしなかった。
結局、バスが目的地につくまでの間、私は茹でダコのように顔を真っ赤に染めながら、ただこの恥ずかしい状況を耐えるしかなかった。
黒炎くんの寝顔が間近で見れたのはいいんだけど、それよりも恥ずかしさのほうが勝ってた気がする。
「よく寝た気がする。よし、遊園地に入るか! って、朱里大丈夫か?」
「うん大丈夫」
遊園地で遊ぶ前からドッと疲労感が襲う。黒炎くんが肩に乗ってた間、ずっと緊張してたし。
「あれ、チケット買わなくていいの?」
「先に買ってるから大丈夫だ。って言っても貰いものだけどな」
そういってヒラヒラとチケット二枚を見せてくれた。よく見るとフリーパスと書いてあり、遊園地チケットの中でも一番高いのでは!? と焦った。
「黒炎くん、お金お金払うよ!」
私は慌てて財布からお金を取り出そうとするが、黒炎くんが私の手に優しく触れた。
「こんなに可愛い幼馴染と出掛けてるんだからお金のことは気にしなくていい」
そんな彼氏みたいなセリフどこで覚えたの?
やめて。優しくされると勘違いしてしまいそうになる。
『 可愛い幼馴染』って言われちゃった。その言葉があまりにも嬉しくて、頭で何度もリピートしてしまっている自分がいた。
「それと、ほらコレ」
「!」
「学校に落としたかもって言ってただろ?」
それは私がこないだ無くした家の鍵だった。
次の日に学校に行って探したのに何処にもなかったのに。
「会長が拾ってくれたんだ。自分から渡すと怖がらせるかもしれないって。普段は堅物会長なんて言われて怖いけどさ、喋ってみると案外いい先輩だぞ」
また会長さんの話だ。以前は男子の間で有名なんて言ってたのに今度は知ってる風に話すんだね。
やっぱり会長さんと何かしらの繋がりがあるのかな?
ぶつかったとき、私が少しだけ怖がってたのもしかして気付かれてた? 会長さんには悪いことしちゃったな。
だけど今は黒炎くんとのお出かけのほうを精一杯楽しもう。だって、せっかくのお出かけだし!
「鍵ありがとう」
「いや俺はなにもしてないからお礼は今度会った時に会長に言ってくれ。それとテスト頑張ったからご褒美にってことでチケットも貰ったんだぜ?」
「そ、そうなの?」
黒炎くんは名前が出てたからわかるとしても、私の成績までわかるもんなの?
「本当はここで俺がチケット代出すのが男らしいんだけどな。悪いな……」
申し訳無さそうな顔をする黒炎くん。
「え、いやいや! 彼女でもないんだから気にしないでいいよ。そういうのはアカリちゃんにしてあげて?」
「朱里は彼女である前に一人の女子だろ? って、遊園地入る前からこんな暗いのは無しだな。会長の厚意に甘えて楽しもうぜ」
しょんぼりしていたと思ったらすぐに明るい表情に変わって、私の手を引っ張って遊園地のゲートをくぐった。
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