「手当てといったものの、怪我ではなく足をつったんですね。それなら、足のマッサージをします。少し痛いかもしれませんが我慢してください」
「は、はい……」
日陰にすとんと静かにおろされて、私の足の様子を見てくれる会長さん。
痛いと言われて身構えていたけど全然痛くない。
近くで見ると、まつ毛が長くて整った顔立ちはまるでモデルさんみたい。
でも、やっぱり笑わないんだなぁ。黒炎くん以外の男の子と2人きりなんてなったことがないから緊張する。しかも、それが会長さんなら尚更。
黒炎くんは普段は子供っぽいけど、会長さんは落ち着いてるし大人って感じ。
私や黒炎くんも高校三年になったらこんなふうになれるのかな。
かたくて、大きな手。やっぱり会長さんも一人の男の子なんだよね。そう思うとドキドキはするけど黒炎くんといるときよりも安心するのは何故だろう。
それはきっと会長さんに恋をしていないから。
「終わりました。ですが、海に入るときに一人なのは感心しません。
霧姫朱里、自分は貴方の飲み物を買ってきますから少し待っていてください」
「うっ、すみません。……わかりました」
会長さんの言うことが正論すぎてなにも言えない。
それから数分して会長さんがスポーツ飲料を私にくれた。
「スポーツ飲料は脱水症状の回復が出来る飲み物ですから今の貴方に最適かと思います」
「え、それはどうして?」
「足がつるのは脱水症状も大きく関係しているのを知らなかったんですか」
「今、知りました。会長さん、ここまでお世話してくれてありがとうございます、本当に助かりました。会長さんが助けに来てくれなかったら今頃……」
会長さんがさっきから難しいことばかり言ってきて半分くらい言ってることがわからなかったけど、感謝の気持ちは伝えなくちゃと私はお礼を言った。
「生徒会長として当然の行動ですからお礼は不要です。それに貴方を最初に助けにくるべきは……」
会長さんが曇った表情を見せる。それは誰のことを話しているのか私にはすぐにわかった。
「もしかしなくても黒炎くんのこと、ですよね? 私たち付き合ってるわけじゃないから、さすがにそこまでは申し訳ないというか」
「それは関係ありません。幼馴染が危険なのに助けに来ないのはいけないと言っているんです」
「でも、黒炎くんにも何か理由があったんじゃないかって」
「手遅れになってからじゃ遅いんですよ。離れてから、相手の有り難みがわかったところでそれはなんの意味にもならないんですから」
会長さんの言葉がやたらリアルに聞こえた。まるで自分が体験しているみたいに。
「柊黒炎には今一度注意しておきますから。次は大丈夫です」
「ひいらぎ……」
黒炎くんの名字が変わっていないことに気付いた。
「あの、会長さん。黒炎くんのこと何か知ってるんですか!? 知ってたら教えてください! 黒炎くんから最近はいつも会長さんの話を聞くんです。それって少なくとも友人ってことですよね!?」
私は会長さんの腕を掴んだ。どうしても黒炎くんに繋がる何かが欲しくて。
急に引っ越した理由は親の離婚だって思ってたから。そんなの私の想像に過ぎないから、今までそう思うことで自分を納得させてきた。でも、本当は黒炎くんが引っ越した本当の理由が知りたくてムズムズしていた。
「残念ですが、それを貴方……霧姫朱里に話すことは出来ません」
「どうしてですか!?」
「貴方は自分の秘密を自分が知らないところで知られていたら、どんな気持ちになりますか」
「それ、は……凄く、嫌な気持ちになります」
やっぱり会長さんは私なんかよりずっと大人だ。黒炎くんと同じ立場になってみれば簡単な話なのに、どうしてそれに気付くことが出来なかったんだろう。
黒炎くんのことを知りたいあまりに気持ちが先走っていたのかもしれない。
「理解したようで安心しました。……柊黒炎が貴方に過去のことを話すその日まで待ってあげてください。誰だって心に闇を抱えているものでしょう?」
「私に闇なんて……」
そんなことない! と焦る私を見て会長は話を続けた。
「彼に好意を抱いているのでは?」
「黒炎くんのことは好きですけど……って、会長さんって案外、意地悪だったりします?」
カマをかけられたことに気付いた私はムッと頬を膨らませた。
「さぁ、なんのことでしょうか」
「やっぱり意地悪です! ふふっ」
「……どうして、そこで笑いが出るんですか」
会長さんはわからないと言った表情をこちらに向けてくる。不覚にも会長さんの可愛いと思う自分がいた。
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