「それにしても……」
「?」
黒炎くんが私のメイド服を上から下までじっくりと見つめる。もしかして似合ってない、とか?
接客が始まってからメイド服を着たから、そういえばちゃんと見てもらってなかったな。さっきは忙しくてそれどころじゃなかったし。
「朱里のメイド服すごく似合ってる、可愛いぞ」
「あ、ありがとう」
面と向かってそう言われると恥ずかしいな。さっきから、私だけペースを崩されてばかりだ。
「そういや朱里も俺と一緒に休憩しろって言ってたぞ?」
「え、誰が?」
「クラスメイトだ」
さっき話していた男子のことを見ると、「頑張れ!」と言った表情でこちらを見ていた。恋の応援は嬉しいけど、また気付かれてしまった。
というか、ここまでくると黒炎くん以外のクラスメイトは私が黒炎くんを好きってこと知ってるんじゃ……と最近は思うようになってきた。
「だから、一緒に文化祭まわらないか? 朱里が迷惑じゃなければだが」
「全然迷惑じゃないよ! 一緒にまわろう」
むしろ、すごく嬉しい! と内心はめちゃめちゃ喜んでいたけど黙っていることにした。会長さんに黒炎くんの前でニヤけ顔はほどほどにって言われてたし。
「接客してたから腹減ったな……料理は運んでたが、俺達は食えてないもんな」
「黒炎くんの場合、人の倍動きすぎだよ。あれだと疲れちゃうよ。あんまり無理しないで」
「準備を手伝えなかった分を取り戻そうと思ったんだ。俺は男だから大丈夫だ。でも、なんであんなに多かったんだ……? メイドや執事喫茶なら他のクラスもやってんのに」
自覚がないって怖いなぁ。あれはどうみても黒炎くん目当てだよ。そう改めて思うと、黒炎くんはモテるし競争率も高い。
そんな中で私が告白しようとしてるって、なかなか無謀なんじゃ……。
「朱里はまず何から食いたい?」
「ん~、文化祭と言ったらやっぱりクレープかな!」
「女子って甘いもの好きだよな」
「む。そういう黒炎くんは嫌いなの?」
「嫌いじゃないぞ。どちらかというと甘いものは好きだ。よし、まずはクレープ買いに行くか」
私は黒炎くんと2人きりで文化祭をまわることにした。
宣伝用だから着替えずにそのままっていうのが落ち着かないけど、黒炎くんの執事服が隣で見れると思うなら、私のメイド服も悪くない。それに可愛いって言ってくれたし。
「ん~、甘くて美味しい!」
私は、つぶつぶイチゴ+アイスが乗ってるクレープを頼んだ。しかも、生クリームもたくさん。頼んだ……というよりは黒炎くんに奢ってもらったんだけど。
俺は会長から給料貰ってるし、気にするなとは言ってくれたんだけど、さすがにそろそろ申し訳なくなってきた。
「あれ? 黒炎くんはクレープ買わなかったけどいいの?」
「いきなり甘いものよりはガッツリ食べたくなってな。クレープは朱里のを少し貰えば満足だ」
パクッ! と私の手元にあるクレープを食べる黒炎くん。そこ、私が食べたとこ……これって関節キス!?
「クレープもこれだけボリューム入ってるとガッツリかもしれないな。でも、これ結構甘くないか?」
さいわい黒炎くんは気にしてないみたいだけど、私はボフンと顔が赤くなっていく。
「甘いかな? こ、このくらい普通だと思うんだけど……」
次は私が黒炎くんの食べたクレープに口をつける番……そう思うと恥ずかしい。でも、黒炎くんも対応も普通だし、私も普通にしてなきゃ変だよね。
「ク、クレープ美味しいね、黒炎くん」
やばい、緊張しすぎて声が裏返ってる。あきらかに動揺してるのがバレる。
「朱里、なんかさっきと様子が違うけど大丈夫か? って、頬にクリームついてるぞ」
そういって右手でクリームを取って、それをペロッと舐める黒炎くん。
「ちょ……黒炎くん!?」
一体、何をしてるのかな。自然にイケメンの行動というか……それは普通、付き合ってる恋人がやることではないでしょうか。
こんなの他の女子にやったら、イチコロになってすぐに黒炎くんのこと好きになっちゃうよ。
「さっきから顔赤くなったり、声が裏返ってるけど、どうしたんだ?」
相変わらず鈍感な黒炎くん。恥ずかしさもピークでおかしくなりそうなので、ここは正直に思ってることを話そう。
「あのね、黒炎くん。クレープを関節キスしたり、頬についてるクリームをとって、しかも舐めるなんて行動は恋人としかしないというか……」
「あ……わ、悪い」
あ、れ? 今度は黒炎くんの様子がおかしい。あきらかに動揺してる。というか、さっきの私みたいに顔が赤い気がする。
「なにも意識せずにやってたから気付かなかった。そう、だよな。朱里は恋人じゃなくて幼なじみだもんな。なんか、小さい頃もこうやってしてたから普通だと思ってて……」
「ううん、大丈夫。なんか私もごめん」
お互いに耳まで真っ赤だ。プシューっと蒸気があがりそうなほど。私たちのまわりだけ温度が上がった気がして、心なしか、かなり暑くなってきた。
それから、肉巻きおにぎり、フランクフルト、チュロスなどを食べてお腹はかなり満たされた。
「朱里、あれってなんだ?」
黒炎くんの視線を追ってみると、一つの屋台を見つめ不思議そうな顔をしていた。
「え、もしかしてタピオカのこと?」
「タピ、オカ?」
「プッ……ふふっ」
いけない、笑いが込み上げてしまった。
まさか黒炎くんに知らないものがあったなんて。しかも、それが今流行りのものなんて、これは笑わずにはいられない。
「朱里、笑いすぎだろ」
「だって、面白くて……ふふふ」
「ったく。まぁ、朱里が楽しそうなら良いけどな」
笑いすぎたせいで少し不貞腐れちゃった黒炎くん。そんなところを見ると、つい可愛いと思う私もいた。
「今回は私が奢ってあげるから、ここに座って待ってて?」
数分後、私は黒炎くんの前にタピオカドリンクを差し出した。
「王道のタピオカミルクティーってのを買ってきたよ。いろんな種類があるんだけど、まずは基本からかな。飲んでみて?」
「ありがとな。……ん、なんだか初めての食感だ」
タピオカを少し飲むと、黒炎くんはそんな感想を言った。もしかして黒炎くんって流行とかに疎いのかな? 「こういうの飲んだことないの?」
「基本的に紅茶が好きだからな。会長と仕事中に飲んでたりするし。ゲームしてるときはほぼ没頭していて、他は何もしてない」
「……」
うん、たしかに会長さんと一緒にいたら流行とかとは縁遠いよね。あんなに真面目な性格だとタピオカやチーズハッドクなんか食べないだろうし。
というか、漫画や小説の家でする仕事なら尚更、外出する機会は減るだろうし。
「だけど甘いけどなかなか悪くないな、美味しかった。ありがとな、朱里」
「どういたしまして。会長さんにも良かったら教えてあげて?」
「こんな時まで会長の話か?」
「それを言うなら黒炎くんから会長さんの話、振ってきたんだよ」
黒炎くんは、墓穴を掘ったといった表情を見せた。会長さんの名前を出すと心が痛くなるって言ってたのは黒炎くんのほうなのに……。
「そういえば……告白されたんだろ、会長に」
「え、なんでそれを知って……」
最近、午後しか顔を見せない黒炎くんが何故そのことを知っているんだろうか。別に隠してたわけじゃないけど、なんとなく気まずくなってしまうのはわかっていた。げんに今がこういう空気なわけで。
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