「朱里。お前には迷惑だってかけるし、たまにこんな弱い俺を見せることがあるかもしれない。それでも……これからも一緒にいてくれるのか?」
泣きそうになる黒炎くんを見て、私は不快どころか、もっと好きになった。好きな人が自分に弱みを見せてくれる。それは信頼されてる証拠なんだと私は嬉しかったのだ。今まで一人で抱え込んでいたのだろう。
「そんなの当たり前だよ。弱い自分がいない人なんているわけない。迷惑をかけない人だって……それは迷惑をかけないように努力しているの。だけど、黒炎くんは私の恋人なんだから、たまには弱みを見せたっていいんだよ。それに私が黒炎くんのこと小さい頃から好きだった気持ち、知らないでしょ? 今はなにを言われたって、へっちゃらなんだから」
話を聞くだけ。そう思っていたけど、弱っている黒炎くんを見たら咄嗟に身体が動いていた。私は黒炎くんを抱きしめて、優しく頭を撫でた。
「朱里は思っていたよりも大人なのかもしれないな。……付き合ったばかりで油断したのか、それとも肩の力が抜けたのかお前に弱みを見せてしまった。だけど、聞いてくれてありがとう」
「どういたしまして」
黒炎くんが優しく微笑む。その笑顔は男の子のなのに不覚にも綺麗だと思ってしまった。黒炎くんが少し元気になってくれてよかった。私も黒炎くんが笑顔になると私自身も嬉しくなる。それは好きだからなんだろう。
誰もが好きな人が幸せであることを望むように。
黒炎くんも私と一緒にいて、少しでも幸せって感じてくれたらいいな。
「ハロウィンパーティー?」
「ああ。なんでもハロウィン当日の夜に全校生徒とその身内を集めてのパーティーがあるらしい」
黒炎が落ち着いて少し経った頃、お菓子を食べながら学校の話をしていた。
「会長がいうにはハロウィンだと思って仮装して来た人は痛い目を見るとか言ってたぞ。ちゃんとしたドレスアップが必要だとか」
「へ、へぇ」
もしかして、おふざけ半分で来た生徒をその場でお説教したとか? なんとなく、その場面が想像できてしまう。
それにしてもドレスアップって……高級なドレスなんて持ってないよ。普段はただ学校に通ってるだけだから、そんなに気にしてなかったけど、急に元お金持ち学校の名残りなのか、こういう大型イベントをやるんだから庶民の私からしたら困る。
「高くなくてもドレスだったらいいらしいぞ。っていっても、朱里は持ってないだろうから今から見に行かないか?」
「え、でも……私、そんなにお小遣いもらってない」
「そういう時こそ、俺を頼れよ。今は恋人なんだからそのくらい買ってやる」
「いやいや、それは……!」
ブンブンと勢いよく首を振る私。恋人だからといってドレスを買うなんて簡単に言わないでー! それは申し訳ないとか以前の話だよ。
「さっき慰めてくれたお礼をさせてくれないか。それにゲームばかりしてる俺にヤキモチ妬いてるんだろ?」
うっ、やっぱり気付かれてたか。そりゃあ、ゲームの時間のことで言えば察されても仕方ない。
お礼はキスとか軽いものでいいんだけどなぁ。いや、お礼にキスされても私が恥ずかしいから今のは撤回しよう。しかし、値段はピンからキリまであるからなんとも言えないけど、ドレスをそのくらいって言える黒炎くんは時々、本当に私と同級生? と疑ってしまう。会長さんのバイトの話がなければ、御曹司かなにかだと勘違いしてしまいそうになる。
「確かにヤキモチは妬いてた。けど、ドレスのことはその……不参加でもいいんじゃない?」
「俺は朱里と一緒にパーティーに行きたいんだ。今回は俺が朱里のドレス姿が見たいから購入するってので許してくれないか」
「う、うん。それならいいよ」
そんな嬉しいことを言われたら断れないじゃん。黒炎くんは不意打ちでカッコいい言葉をいうから本当に困る。
「じゃあ決まりだな。今から行こうぜ」
グイッと腕を引っ張る黒炎くん。なぜ、私よりもはりきっているのかがわからない。そんなに私のドレス姿が見たいのかな?
これって恋人になってから初めてのデート!? 私は別の意味で浮かれていた。パーティーでは黒炎くんのタキシード姿を見れると思うと悪くないかもとひそかな楽しみを見つける私だった。
「ど、どうかな?」
「ああ、それが一番似合ってる」
「それなら良かった」
服選びはもっと気軽に、他愛のない会話を弾ませながらって想像していた。だけど現実は違っていて。
いろんなドレスを着て、早一時間。ついに黒炎くんの御眼鏡に適うものが見つかった。真剣に私が似合うものを選んでくれるのはいいんだけど、まさかここまでとは……何着も試着した私はもうヘトヘトだった。でも、姿見を見ても確かに今まで着たどのドレスよりも似合う。
「この際だから髪型と靴も選んでもらうか」
「い、いや。もうその……」
「俺が見たいんだ。それにせっかくだったら今よりも、もっと綺麗になれた自分を見てみたくないか?
……彼女を綺麗に仕上げてくれませんか」
「かしこまりました」
「は、はい!」
高そうな店でも黒炎くんは普通に接していた。というか、こんなお店の店員さんと気軽にお話してるし。
数分後、私は髪型も綺麗にセットしてもらい、ヒールの高い靴も履かせてもらった。
「なんだか魔法がかかったみたい……」
私はそう口に出した。それほど手際がよく、自分が別人に見えたから。
なんだかお姫様になった気分でさっきまでの疲れもどこかに吹き飛んだ。
「お似合いですよ、お客様」
「あ、ありがとうございます」
お世辞だってわかってるけど、ここは素直に受け取っておこう。
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