昨日のこともあるし、不用意に好きなんて口には出来ない。
それに再会して、いきなり好きです! って告白されても反応に困るだろうしね! あと、アカリちゃんのこともあるし。
それに、なにより告白するのが恥ずかしいっていうのが一番の理由なんだけど。
「言われてみれば小学生以来だな。
昔は朱里の家にもよく遊びに行ったっけ‥‥」
なんて悲しそうな顔で昔のことを話すの?
その表情を見るたびに、黒炎くんの心の闇を少しでも楽にしてあげたいって思うのはいけないことだろうか。
「ねぇ、黒炎くんはアカリちゃんって子と付き合ってるの?」
昨日の話題を振るのは駄目だと思っていても聞かずにはいられなかった。
「‥‥あぁ、付き合ってる。ただ、これを言っても誰にも理解はされないけどな」
「そっか‥‥」
やっぱりそうだった。ショップの店長との会話から薄々気付いてはいたけれど、本人から聞くのは痛いほど心に響く。
今、必要とされているのは私じゃないんだ。
だけど、誰にも理解されないってどういうことなんだろう。
アカリちゃんと交際してるのを誰かに反対でもされてるとか?
「俺からも質問いいか?」
「え。なに、黒炎くん」
「再会したとき、どうして抱きついたんだ?」
「それは‥‥」
それ、このタイミングで言っちゃうの?
あぁ、やっぱり黒炎くんは鈍感だ。鈍すぎて、好きな人なのに嫌になる。
黒炎くんは私の本当の気持ちに気付いてないんだろうな。
好き、大好き、愛してる。
心の中では言えるのに言葉にすることはできない。
ねぇ。私が、もしも好きって言ったなら、黒炎くんはどう思うの?
「そりゃあ‥‥仲良しだった幼馴染に再会出来たんだよ! 嬉しいに決まってるじゃん! 私たち、仲良しの幼馴染だったでしょ?」
今の私、ちゃんと笑えてるだろうか。
心の中では泣いているのに、それを必死に隠そうとしている。私は自分に嘘をついているのだ。
「そうだな。でも、流石に恥ずかしかったぞ」
「ごめんね。今度からは気をつけるよ」
きっと今度なんて来ない。
触れてはいけない。だって、黒炎くんには付き合ってる人がいるのだから。
ーーー初恋の人の隣には、私ではない別の女の子がいたのでした。
「黒炎くん、これからもよろしくね。……幼馴染として」
私は握手をしようと右手を前に差し出す。
「ああ、よろしくな! またギャルゲーの話とかしてもいいか?」
「わからないことが多いけど聞くだけなら大丈夫だよ」
「朱里、やっぱりお前が幼馴染で本当に良かった。ありがとな」
「どういたしまして」
アカリちゃんにはギャルゲーの話はしないの?
好きな人の前ではカッコいい自分でありたい。恐らくそうなんだろう。
私もそうだから、黒炎くんの気持ちが痛いほどわかるよ。
“ただの幼馴染”なんてもの今すぐ捨てたいのに……それだけが私と黒炎くんを繋ぐ唯一の関係なんて、神様はなんて残酷なことをするんだろう。
アカリちゃんよりもずっと前から黒炎くんのことが好きだった私よりも、黒炎くんはアカリちゃんのほうを好きになったんだもんね。恋は時間や期間ではない。
好きになったその瞬間から恋が始まる。
ウジウジ悩んで告白出来なかった私が悪い。そう、黒炎くんは悪くない。
戻れるのなら、黒炎くんが引っ越す前に時間が巻き戻ればいいのにな。
後悔先に立たずなんていうけど、まさにその通りだね。
「朱里も良い人が早く出来るといいな」
そういって差し出した私の手を握り返してくれる。だけど、これは握手。
だけど、今は触れられるだけでも嬉しい。差し出した手を拒絶されたら、今の私じゃ立ち直ることなんて出来ないから。
これは黒炎くんにフラレたって思っていいのかな?
だけど簡単に諦められるほど、私、軽い恋はしていない。ようやくわかった。
私……やっぱり黒炎くんのことが好きなんだ。
今すぐ気持ちを伝えることは出来ないけれど、そっと心にしまっておこう。
いつか、ちゃんと好きって伝えられる時まで。
諦めの悪い女の子だって思われるかな?
でもね、この恋は本物なの。黒炎くんがアカリちゃんの話を出すたびに嫉妬すると思う。だけど、それは仕方のないこと。
初恋は叶わない。それはどこかで聞いた言葉。
だけど、それは何も行動せずに諦めてしまうから。
私は相手に付き合ってる人がいたって、簡単に諦めない。
だって、黒炎くんのことまだ何も知らないから。
必死にあがいて見せて、それでもダメだってわかったらあきらめる。
なにもしないで諦めるのは私自身が嫌だから。
絶対、振り向かせてみせるよ! だから待っててね、黒炎くん。
ただの幼馴染って言ったこと後悔させてやるんだから!
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