再会した幼馴染は××オタクになっていました

高校で再会した幼馴染が××オタクになっていた!?私の初恋どうなるの?
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41話 過去編

公開日時: 2021年1月4日(月) 08:15
文字数:1,974

けれど、誰も信用出来なくなっていた俺は見ず知らずの人を助けようとするなんてどうかしていると美羽さんを疑っていた。


「メリットもなしに俺を助けるってのか」


キッと鋭い目で殺気を出しながら、美羽さんを睨みつけた。


「メリット? 人を助けるのにそんなことは考えてはいないわ」


前言撤回。美羽さんはただのお人好しではなく、“馬鹿がつくほどのお人好し”だ。


「美羽姉さん、もう夜も遅いから早く帰ろう」


「駄目よ、紅蓮。この子が困ってる」


「決めつけるのはそっちの勝手かもしれないが、俺は困ってなんか……」


「あのね、気のせいだったら無視してくれていいんだけど。さっきから、貴方の心が泣いてるの。助けてって。……今までずっと我慢してきたのね、黒炎君。一人でつらかったでしょう?」


「……っ」


美羽さんは優しい言葉をかけて、俺を抱きしめた。頭を撫でてくれた。振り払うことは簡単だった、拒絶することだって。


けれど、直感で気付いてしまったんだ。美羽さんは嘘を吐いていないと。だって、その証拠に俺の今まで隠してきた本音をいとも簡単に察してくれたから。


さっきまで疑っていた俺が馬鹿らしくなるほど、美羽さんはあたたかく綺麗な心の持ち主だとぬくもりでわかった。嘘の匂いなんてしない……とても安心する。


俺は美羽さんの服を強く掴み、静かに泣いた。

 

「さっきは冷たい態度をとってごめんなさい。本当は家出してきたんだ。だけど、あの家には帰りたくない」


「無理して全てを話そうとしなくていいわ。……じゃあ、私達の家で一緒に暮らさない?」


「でも……」


あまりに唐突な提案に俺は戸惑うばかりだった。血の繋がりもない、ましてや今会ったばかりでそんなことをしてもらうわけにはいかない。


「却下。美羽姉さん、人間一人を育てるのにどれだけの養育費がかかると思って」


「紅蓮。貴方だって本当は心配してるんでしょう?」


「……それなりに、ね。こんな場所で野垂れ死にされても迷惑なだけだから」

 

心配してくれているんだろうか。この頃の会長は今みたいに堅苦しくなかった。落ち着いてはいたけど、まだ中学生なんだなという感じで。


俺は美羽さんに誘われるがままに家に行くことになった。少しは申し訳ない気持ちと罪悪感にかられることもあった。が、小学生のガキが親の援助なしに暮らすのは不可能だから甘えることにした。


美羽さんと会長は俺にとって命の恩人だった。働けるようになったら、ちゃんと礼を返さないといけないと心の中で決めていた。


こうして、俺は如月家に住むことになった。


「紅蓮、黒炎、食事が出来たわよ」


俺が如月家で暮らし始めて、三ヶ月が経った。美羽さんは俺を弟のように可愛がってくれて愛情も注いでくれた。


まだ高校生だから、母親みたいだというと怒られそうなので姉が出来たみたいだった。会長とは少しだけ距離が遠いけど、それなりに仲良くしている。  


「やっぱり美羽さんの手料理は美味しいです」


「黒炎。手料理を褒めて、美羽姉さんに媚びてるつもり?」


「違うよ。本当に美味しいと思っただけ」


二人は俺を本当の家族のように接してくれた。それがとても嬉しくて、なにより嘘の世界で生きてきた俺には今の生活が凄く幸せだった。


未だに俺の名字も家庭のことも聞いてこない。気を遣っているのだろうか。俺が如月家にお世話になってすぐの頃、会長が自分の家庭について話してくれた。


なんでも両親は早くに死んで、今は親戚にお世話になっているらしい。けれど、美羽さんの身体が弱いせいで迷惑をかけていると親戚とは別々の家で暮らしているとか。


高校卒業までの養育費は出すと約束はしてくれたものの、二人のことをあまりいいように見ていない。会長が美羽さんのことをいつも気にかけているのが、その話を聞いて納得できた。


この前、俺が美羽さんと二人きりで会話していた時、ヤキモチを妬いて大変だったし。それほど美羽さんのことを大事にしているんだろう。


それにくわえ、俺が住むことになったから尚更嫌われたらしい。不覚にも似た境遇だと思ってしまった。でも、こんなに優しい美羽さんが早くに親を亡くしているなんて思わなかった。俺は片親いるだけマシなのか?


こんな生活をいつまで続けていいのだろうか。甘えていいのか、迷惑はかかってないか、時が経つにつれ、そう思うようになった。


「黒炎。今は貴方も私達の家族よ。私はね、二人目の弟ができたみたいで本当に嬉しいの」


「黒炎、美羽姉さんの一番目の弟が僕ということは忘れないように」


多分、美羽さんは俺がいつも心に不安を抱えていることをわかっていたんだろう。だって、それに気付いたかのように励ましてくれるのだから。


美羽さんの言葉一つ一つがあたたかい。会長は相変わらずだけど、それでも会長なりに俺を家族だと思ってくれている。


俺もこの二人を本当の家族だと思いたい。だけど、その願いも儚く終わりを告げた。

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