神奈さんとアメリちゃん

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第九十四話 冬支度とヘアピン姉妹 ―前編―

公開日時: 2021年4月21日(水) 18:01
文字数:2,498

今日はアメリと一緒に、おなじみF駅前に来ています!


 さすがにそろそろ、アメリに冬物を用意してあげたいというのがメインの用事。あとは私の髪のカットと、ちょっと買いたいものがあるので。


 まずは、アメリの暇つぶし用の絵本を「麗文堂本屋さん」で物色なう。


「うどんのめがみさまの新しいのはまだかー」


 さすがにまだ、あれの新作は出てないね。まあ、出したらまっ先に教えてくれるだろうし。既刊で何かいいのないかな……?


 お、これなんかどうでしょ。「ねこさん、せかいをすくう」。涙もろい猫さんが、世界を救ってくれる人を探して旅をするのだけれど、実は自分が世界を救う存在だった……。という筋書きみたい。


 なんだか深遠なテーマな気もするけれど、そこはまりあさん。ざっと見ただけでも、わかりやすく親しみやすい。よし、あとは本人の意見を訊いてみましょー。


「アメリー。これ読みたい?」


 本を手渡すと、数ページめくる。キラキラと輝きを増していく瞳。お、これは強い興味を持った証拠だ。


「読みたい!」


「よし、じゃあ買っていこー」


 というわけで、後はわたし用の細々こまごました資料と趣味の漫画を数冊買っていく。


 ん、もう十一時か。


「アメリーお昼にするー?」


「おお~!」


 拳を突き上げ同意する彼女。「何食べたい?」と尋ねると、しばらく悩んだ末に「なんでもいいよ~!」という力強いお言葉。そのなんでもいいって一番困るのよね、と内心苦笑する。


 行きつけの美容院が「るるる」のそばなので、けやき通り側 (一本向こうのメインストリート)に出るのはちょっと億劫。すぐそばの「アール・サイン」内で済ませちゃいますか。


 「LAKULUオムライス屋さん」でもいいけど、ちょっと別路線を味あわせてあげたい。


「ねえ、海鮮丼って興味ある?」


「おお? なにそれ?」


「ごはんの上に、お刺身載っけた料理。美味しいよ~」


「食べたい!」


 キラキラと瞳を輝かせ、好感触。では、さっそく向かいましょー。



 ◆ ◆ ◆



 アール・サイン一階のテナント、「うみけい」さんにやって来ました。ちょっとこじんまりした店内だけど、幸いまだ空いている。


「どれにする?」


 入口横にメニューが写真付きで大きく貼られているので、ビビッときた物を尋ねてみる。


「ん~……一番上の!」


 おけ、普通の海鮮丼ね。私は何にしよう……。サーモン好きだから、鮭の親子丼にしましょ。


 というわけでオーダー。前払い式で、番号券を渡される。お茶やお水含めセルフサービス。アメリと隣り合って談笑することしばし、呼ばれたので取りに行く。


「はーい、おまたせ~」


 丼の乗ったお膳を目の前に置くと、「おお~!」と瞳を輝かせる。


「じゃあ、いただきますしましょ。いただきます」


 隣に再着席していただきますすると、アメリも「いただきます!」と続く。


「これでね、お醤油をかけるんだよー。かけすぎるとしょっぱくなっちゃうから、ちょうど良くなるまで少しずつ足していってね」


 醤油差しを手渡すと、おっかなびっくりかけてはちょっと食べ、かけてはちょっと食べで塩梅を見極めていく。ほほえま。


 「これでいいと思う!」と、醤油差しを手渡してくるので、自分のにもかける。


 先に箸をつけていたアメリが瞳を輝かせ、もっきゅもっきゅと食んでいる。うん、訊くまでもなく気に入ってくれたみたいね。


 私もぱくっ! イクラもぷちぷちとろりと美味しいし、サーモンも脂が乗ってていいわあ~。これで七百円弱はお得!


 これで、お味噌汁付きっていうのがまたいいよね。


 会話をしながら食べ終わり、ごちそうさまでしたを言う。お膳を下げて、退店。入れ替わりにサラリーマンと思しき人や女性客なんかがぞろぞろ入っていく。混みそうだねー。早めに食べられてよかった。


 さあさあ、次は私の髪だね!



 ◆ ◆ ◆



「いらっしゃいませ」


 というわけで、予約時間の五分前に行きつけの「美容室nana」さんに入店。落ち着いた店構えで、店内は白基調のシンプルながらもこれまた落ち着いた印象。


「じゃあアメリ、ご本読みながら待っててね」


 と、「ねこさん、せかいをすくう」を手渡す。


 「はーい!」という元気な声に送られ、着席。


 店員さんにまずシャンプーをされる。う~ん、ほんとこれ気持ちいいよねー。


「今日はどうなさいますか?」


 ドライヤーで乾かされながら、店員さんから受け取ったカタログを眺める。


「首筋が寒くならない程度に短くしたいんですけど、スタイルはどんなのが似合うと思います? 見ても、いまいちピンと来なくて」


 こういうのは専門家の意見を聞いちゃいましょう。


「そうですね……。お客様の髪質やお顔立ちを考えると、黒のままのストレートロングがやはりお似合いかな、と思います。いかがでしょう?」


「では、それでお願いします」


 髪型が決まったので、ハサミでちょきちょきされる。


「あの子、お子さんですか? 初めて連れていらっしゃったので。可愛いですね」


 ぐむ~。やはり親子扱いされるのね。まあ、どう頑張ってもそりゃ姉妹には見えないだろうけど。とほほ。


「いえ、姪をちょっと預かってまして。まあ、色々と」


 言葉を濁すと、「そうなんですかー」と言って別の話題を振ってくれる。センシティブな話題だと匂わせると、避けてくれるのは気が利くね。


「いかがでしょう?」


 鏡で出来栄えを見せてくれる。


「あー、いいですねえ。すごくすっきりしました」


 うふふ。シンプルな中にきれいさがあって。まだまだ私も捨てたもんじゃないね!


「では、シャンプーさせていただきますね」


 再度洗髪。終わるともう一度乾かしてもらい、整髪料でのセットをお願いする。


 うーん、すっきり! 髪が軽い! ザ・ニュー神奈! って感じ。


 というわけで、お会計。彼女の名刺は以前いただいている……というか、いつも彼女に頼むので受け取らない。


「アメリー。終わったよー……あや」


 すうすうと寝息を立てているアメリ。お腹いっぱいで眠くなっちゃったのね。


「起きてー。終わったよー」


 起こすのも可哀想だけど、待合で爆睡させるわけにもいかないので揺すり起こす。


「んー……? おお~? おねーちゃん、雰囲気変わったー?」


 寝ぼけ眼をこすりながら、尋ねてくる。


「うん。きれいにしてもらったよ。さ、服を買いに行きましょ」


 というわけで、退店。続く!

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