神奈さんとアメリちゃん

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おまけ編・その七 浦野さんと、だらだら

公開日時: 2022年5月6日(金) 21:01
文字数:2,218

 今日は、朝早くから、アメリと一緒に庭の草刈り。……まあ、朝早くといっても、朝の私はあんなだから、今九時なんだけど。


 草刈り機を転がしていると、「おはようございます。猫崎さーん、アメリちゃーん」という、聞き覚えのある声が耳に入る。


「おはようございます、浦野さん」


 草刈りの手を止め、フェンスに近づきご挨拶。彼女は、お花に水をあげているところでした。


「おはよーございます!」


 アメリもしゅびっと手を上げ、ご挨拶。


「いい天気ですねえ」


 天を仰ぎ、目を細める浦野さん。


「ですねえ。せっかくオフなので、なにかしたいところですけれど」


 腰をトントンと叩き、う~んと反らす。持病の腰痛は相変わらずです。


「だったら、お茶しません? そちらに伺いましょうか」


「あら、いいですねえ! アメリもどう?」


 横にやってきた我が子を見る。


「おおー! 浦野さん来るの!? 楽しみ!」


「じゃあ、決まり! 美味しいお菓子持っていきますからね」


「すみません。じゃあ、こちらは良いお茶をご用意させていただきますね」


 というわけで、三時に会いましょうという話になり、互いに庭仕事に戻るのでした。



 ◆ ◆ ◆



 今日は日曜だけど、押江先生はお休み。やはり、アメリにも休日は必要だと気を使っていただき、月二で完全にオフの日を設けています。


 これでも、アメリちゃん勉強しすぎじゃない? って思うけど、本人は至って意気軒昂いきけんこう。「今日はお勉強ないのー?」なんて、逆に不満そう。でも、遊べる日があるのは、それはそれで嬉しいみたい。


 しかし、浦野家と我が家の位置関係は割りと不便。


 いい位置に南北方向に通じる路地がないから、街道をぐるりと回ってこなければいけないのよね。


 ともかくも、アメリと生物ものドキュメンタリーの録画を見ながら時間を潰していると、インタホンが鳴りました!


 応対すると、浦野さん! さっそく、中に招き入れます。


「紅茶と緑茶、どちらがよろしいでしょう?」


「持ってきたのがケーキなので、紅茶でお願いできますか?」


 とリクエストをいただき、ティーポットで茶葉を蒸らす。


「そういえば、すみません。アメリの誕生日にお誘いできなくて。お隣かくてるハウスのテーブルも、限りがありまして……」


「ああ、いいんですよ。寂しくないって言ったら嘘になっちゃいますけど、十何人でお祝いなさったんでしょう? それなら無理ない話です」


「恐縮です」


 お茶が蒸れたので、三カップぶん注ぐ。浦野さんからいただいたケーキもお出しする。


「どうぞ」


「ありがとうございます」


「そういえば、今日はご主人と息子さんは釣りに?」


 着席して、ふと気になったことを尋ねてみる。


「そうなんですよ! ほんともう、釣りバカで……」


 呆れつつも、微笑ましそうな口調で述べる彼女。


「やっぱり、T川ですか?」


「T川はT川なんですけど、今日は上流のほうに行ってるんですよ」


 「へえ~」と、感嘆する。


「結構、大変じゃないですか?」


「らしいですけどね。ご覧の通りの釣りバカ親子ですから。『夕飯の心配はしなくていいよ』なーんて言って、出かけていきました」


「大漁だといいですねえ」


 互いに、ふふと笑う。


「釣りって面白いの?」


 浦野さんに尋ねる愛娘。


「アメリちゃん、釣りに興味あるの?」


「んー。わかんないけど、いろんなことにチャレンジしてみたい!」


 自分の世界を広げたい、それが我が子の願望だ。猫時代からの好奇心旺盛さは、今、こういう形で表れている。


「そうねえ。私は今ひとつ良さがわからないんだけど、ふたりとも夢中なんで、やっぱりハマる人はハマるんじゃないかしら?」


 「おお~!」と瞳を輝かせるアメリちゃん。


「よかったら、今度、二人に連れて行ってもらえないか訊いてみましょうか?」


「いいの!? 楽しみ!」


 お楽しみが増え、嬉しそうにケーキを食む我が子。


 私も、おしゃべりに夢中でケーキに手を付けてなかったな。


 ……ん、シンプルなショートケーキだけど、そのシンプルさ故に美味しい!


「これ、美味しいですねえ!」


「ありがとうございます。カトレーヌお菓子屋さんで買ってきまして」


「あそこのお菓子、美味しいですよねー」


 カトレーヌは、両家の通り道にあるので、互いに贈答品を買うときに便利。


「そういえば、お隣さんとも時々お話ししますけど、皆さんご快活ですねえ」


「ですね。良き友人・隣人として、深いお付き合いをさせていただいています」


 しばし、かくてるハウスの五人を肴に、雑談で盛り上がる。


「今度、あちらにも伺ってみましょうか」


「喜ばれると思いますよ!」


 笑顔で太鼓判を押す。


「うちもせっかくだから、猫飼ってみようかしらねえ?」


 話は切り替わり、不意に切り出す浦野さん。


「いいですね! 世話は大変ですけど、生き物はそれに応えてくれますから」


「家族とも相談してみますね」


 互いに、ふふと微笑む。


「おお!? アメリも、猫ちゃんに会いに行っていい!?」


 きらきらと瞳を輝かせる我が娘。


「いいわよー。まだ、飼うと決まったわけじゃないけどね」


 浦野さんが、朗らかに微笑む。良きかな良きかな


 こんな感じで楽しいお茶会は進んでいき、やがてお開き。


 門まで、彼女を送っていきます。


「ではまた。失礼します。美味しいお茶を、ありがとうございました」


「はい。今日は楽しかったです。ケーキ、ごちそうさまでした。お気をつけて、お帰り下さい」


「ばいばーい! またねー!」


 三者で別れの挨拶を交わし、後ろ姿を見送るのでした。


「じゃ、片付けたら買い物行きますかー、アメリちゃん」


「おおー!」


 今日の晩ごはんは、何にしようかな。

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