今日は、朝早くから、アメリと一緒に庭の草刈り。……まあ、朝早くといっても、朝の私はあんなだから、今九時なんだけど。
草刈り機を転がしていると、「おはようございます。猫崎さーん、アメリちゃーん」という、聞き覚えのある声が耳に入る。
「おはようございます、浦野さん」
草刈りの手を止め、フェンスに近づきご挨拶。彼女は、お花に水をあげているところでした。
「おはよーございます!」
アメリもしゅびっと手を上げ、ご挨拶。
「いい天気ですねえ」
天を仰ぎ、目を細める浦野さん。
「ですねえ。せっかくオフなので、なにかしたいところですけれど」
腰をトントンと叩き、う~んと反らす。持病の腰痛は相変わらずです。
「だったら、お茶しません? そちらに伺いましょうか」
「あら、いいですねえ! アメリもどう?」
横にやってきた我が子を見る。
「おおー! 浦野さん来るの!? 楽しみ!」
「じゃあ、決まり! 美味しいお菓子持っていきますからね」
「すみません。じゃあ、こちらは良いお茶をご用意させていただきますね」
というわけで、三時に会いましょうという話になり、互いに庭仕事に戻るのでした。
◆ ◆ ◆
今日は日曜だけど、押江先生はお休み。やはり、アメリにも休日は必要だと気を使っていただき、月二で完全にオフの日を設けています。
これでも、アメリちゃん勉強しすぎじゃない? って思うけど、本人は至って意気軒昂。「今日はお勉強ないのー?」なんて、逆に不満そう。でも、遊べる日があるのは、それはそれで嬉しいみたい。
しかし、浦野家と我が家の位置関係は割りと不便。
いい位置に南北方向に通じる路地がないから、街道をぐるりと回ってこなければいけないのよね。
ともかくも、アメリと生物ものドキュメンタリーの録画を見ながら時間を潰していると、インタホンが鳴りました!
応対すると、浦野さん! さっそく、中に招き入れます。
「紅茶と緑茶、どちらがよろしいでしょう?」
「持ってきたのがケーキなので、紅茶でお願いできますか?」
とリクエストをいただき、ティーポットで茶葉を蒸らす。
「そういえば、すみません。アメリの誕生日にお誘いできなくて。お隣のテーブルも、限りがありまして……」
「ああ、いいんですよ。寂しくないって言ったら嘘になっちゃいますけど、十何人でお祝いなさったんでしょう? それなら無理ない話です」
「恐縮です」
お茶が蒸れたので、三カップぶん注ぐ。浦野さんからいただいたケーキもお出しする。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
「そういえば、今日はご主人と息子さんは釣りに?」
着席して、ふと気になったことを尋ねてみる。
「そうなんですよ! ほんともう、釣りバカで……」
呆れつつも、微笑ましそうな口調で述べる彼女。
「やっぱり、T川ですか?」
「T川はT川なんですけど、今日は上流のほうに行ってるんですよ」
「へえ~」と、感嘆する。
「結構、大変じゃないですか?」
「らしいですけどね。ご覧の通りの釣りバカ親子ですから。『夕飯の心配はしなくていいよ』なーんて言って、出かけていきました」
「大漁だといいですねえ」
互いに、ふふと笑う。
「釣りって面白いの?」
浦野さんに尋ねる愛娘。
「アメリちゃん、釣りに興味あるの?」
「んー。わかんないけど、いろんなことにチャレンジしてみたい!」
自分の世界を広げたい、それが我が子の願望だ。猫時代からの好奇心旺盛さは、今、こういう形で表れている。
「そうねえ。私は今ひとつ良さがわからないんだけど、ふたりとも夢中なんで、やっぱりハマる人はハマるんじゃないかしら?」
「おお~!」と瞳を輝かせるアメリちゃん。
「よかったら、今度、二人に連れて行ってもらえないか訊いてみましょうか?」
「いいの!? 楽しみ!」
お楽しみが増え、嬉しそうにケーキを食む我が子。
私も、おしゃべりに夢中でケーキに手を付けてなかったな。
……ん、シンプルなショートケーキだけど、そのシンプルさ故に美味しい!
「これ、美味しいですねえ!」
「ありがとうございます。カトレーヌさんで買ってきまして」
「あそこのお菓子、美味しいですよねー」
カトレーヌは、両家の通り道にあるので、互いに贈答品を買うときに便利。
「そういえば、お隣さんとも時々お話ししますけど、皆さんご快活ですねえ」
「ですね。良き友人・隣人として、深いお付き合いをさせていただいています」
しばし、かくてるハウスの五人を肴に、雑談で盛り上がる。
「今度、あちらにも伺ってみましょうか」
「喜ばれると思いますよ!」
笑顔で太鼓判を押す。
「うちもせっかくだから、猫飼ってみようかしらねえ?」
話は切り替わり、不意に切り出す浦野さん。
「いいですね! 世話は大変ですけど、生き物はそれに応えてくれますから」
「家族とも相談してみますね」
互いに、ふふと微笑む。
「おお!? アメリも、猫ちゃんに会いに行っていい!?」
きらきらと瞳を輝かせる我が娘。
「いいわよー。まだ、飼うと決まったわけじゃないけどね」
浦野さんが、朗らかに微笑む。良き哉良き哉。
こんな感じで楽しいお茶会は進んでいき、やがてお開き。
門まで、彼女を送っていきます。
「ではまた。失礼します。美味しいお茶を、ありがとうございました」
「はい。今日は楽しかったです。ケーキ、ごちそうさまでした。お気をつけて、お帰り下さい」
「ばいばーい! またねー!」
三者で別れの挨拶を交わし、後ろ姿を見送るのでした。
「じゃ、片付けたら買い物行きますかー、アメリちゃん」
「おおー!」
今日の晩ごはんは、何にしようかな。
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