時計の針はくるくると進み、三十日。クロちゃんの誕生日がやって来ました!
いやー、ピュアランドに行ったりとか割と遊んじゃったけど、何とか佐武さんに下書きを渡すこともでき、連載原稿のほうも完成! ペース配分としてはまずまず。今日、パーティーに出席するぐらいの余裕はある次第です。
「アメリ、用意はいいかな? かんざし持った?」
「だいじょぶー」
私も、本・着替え・メイクもOK! 時間も五分前でちょうどヨシ!
そんじゃー、行っきましょー!!
◆ ◆ ◆
家を出たところでばったり白部姉妹と遭遇したので、ご一緒してチャイムを押す。
「こんにちはっすー。ドアは開いてるので入ってくださいっすー」とさつきさんの声がして門が開いたので、白部さんとともにリビングに進みます。
すでに主賓の宇多野姉妹が到着していたので、二人と優輝さん、ミケちゃんにご挨拶。優輝さん、リビングでまりあさんたちの相手をしているということは、今回の調理担当は由香里さん&久美さんかな?
今日は、和食が期待できそうね! まりあさんもクロちゃんも、和食好きだし。
「まりあさん、お誕生日おめでとうございます」
「ありがとうございます」
ぺこりとお辞儀で返される。
「わたしも三十越えて、さらに一年目かー。二十歳超えると、一年なんてあっという間ですねえ。こうして育児もするようになると、なおさらです」
左頬に手を当てて、感慨深げに天井を見つめる彼女。
「わかります、わかります。子供の頃は、早く大人になりたくてしょうがなかったものですけどねー」
実感を込めて、うんうんと頷く。ほんとに、歳を重ねるごとに時間が早く過ぎていくのを感じる。大人にも子供にも、時間は平等に流れているはずなのにね。
「そういうものなの、お姉ちゃん?」
「そうね。不思議なんだけど、そういうものなのよ。クロちゃんも、大人になったら実感するんじゃないかな」
そんなやり取りをする宇多野姉妹。
トークを繰り広げていると、「みんなー、用意できたぜー」と、久美さんがダイニングから顔を出すので、ぞろぞろと移動するのでした。
◆ ◆ ◆
由香里さん、久美さんとも挨拶を交わし、促されたので着席。
「じゃ、挨拶なんかはお前がやってな」
と、優輝さんに司会をバトンタッチする久美さん。
「はーい。こほん。本日は、まりあさんがお誕生日を迎えられました。実におめでたい! そのようなわけで、まりあさんからも一言いただけましたら」
「あ、はい。今日は、わたしのためにこうして場を設けていただき、さらにお集まりいただいて、誠にありがとうございます。今後も、よろしくお付き合い願います」
ぱちぱちと、拍手がまりあさんに送られる。
「ありがとうございました。由香里、ケーキは?」
「今出すよー」
冷蔵庫から、緑色のケーキを取り出す由香里さん。抹茶かな? 小豆も載ってるし。
「ろうそく立てますねー」
さすがに三十一本ろうそくを立てるのは大変なので、大きな三本と、小さな一本を立て、点火する。
「では、まりあさん」
「はい」
優輝さんに促され、ふーっと吹き消すまりあさん。
「「「ハッピーバースデー! まりあさん!!」」」
十人ぶんの、盛大な拍手が起こる。
「ありがとうございます」
深くお辞儀し、まりあさん着席。
「切り分けますね」
由香里さんがナイフを入れ、皆に配っていく。
「ではまりあさん、音頭取りをお願いします」
「はい。いただきます」
まりあさんに続き、皆でいただきますの合唱。
うん、やっぱり抹茶のケーキだ。中間部分にこしあんが入っていて面白い。和ケーキだね!
「呑みたい人には日本酒配るけど、欲しい人は?」
「あ、いただいていいですか?」
さっそく立候補。結局、例によってまりあさんと由香里さんを除く全員がお酒をいただくことに。
「発泡酒なんですね」
「そそ。日本酒なのに発泡酒。美味いよ」
久美さんオススメということは、これはいいお酒だ。くいっとグラスを傾ける。あー……たしかに日本酒なのに、しゅわしゅわしていて。面白いなあ。
下戸のお二人と子供たちは、緑茶をいただいています。
ケーキも美味しく食べ終わり、「それじゃー、ウチの自慢の手料理を味わってください、まりあサン」と、久美さんがお皿を下げ、お頭付きの鯛の刺身を三尾!
「真鯛は旬が終わっちゃいましたけど、代わりにチダイを刺身にしてみました」
まりあさんには丁寧口調な久美さん。忘れがちだけど、本来上下にこだわる人だものね。
「あら、ありがとうございます! チダイも美味しいですよね」
下戸組と子供には白いごはん、それ以外には、新たに発泡酒ではない日本酒がおちょこに注がれる。
「お酌はするからさ、おかわりは気軽に言ってな」
では、お刺身のほうもいただきます! うーん、さすが鯛! 白身の王者! 真鯛に負けず劣らずの、淡白なんだけどぎゅっとつまった旨味! ここで、お酒を……。辛口で淡麗! 鯛の旨味を殺さない、見事なチョイス!
「お刺身、美味しいです」
「目利きに気を使いましたからね。そう仰っていただけると嬉しいですよ」
まりあさんの賛辞に喜ぶ久美さん。それにしても、彼女の丁寧語やっぱり慣れないなあと、内心苦笑。
お刺身も美味しく食べ終わり、プレゼントのお渡し会に。リビングに移動~。
◆ ◆ ◆
「えーと、なんだかボクがお姉ちゃんの代わりにプレゼントもらうのも変な感じですけど、ありがとうございます」
ぺこりとお辞儀するクロちゃん。
「いいのよ。クロちゃんが嬉しいと、わたしも嬉しいもの」
まりあさんが、にこやかに頷く。
「じゃあ、あたしから……」
かくてるのみなさんから、パッケージングされた本が手渡される。
「開けていいですか?」
「いいよ」
優輝さんから許可をもらい、包装を丁寧に解くクロちゃん。
「日本のことが書かれた本ですね……! 嬉しいです!」
しっぽがピンと立つ。
「私のも、似たようなのだけど」
江戸時代について描かれた漫画を手渡す。
「ありがとうございます!」
はにかむクロちゃん。例によって、誰が見ても可愛い。
「私は、名古屋城のプラモデル。息抜きにでも、組み立ててね」
「ありがとうございます!」
白部さんから第二のお城を手に入れ、とろけそうな顔になる。
「ミケからは扇子よ。これから暑くなるものね」
「アタシからは、風鈴だ! ルリ姉にオススメ訊いてみたんだ」
「ありがとう!」
お友達から、日本の夏を楽しむアイテムを受け取り、とても嬉しそう。
「アメリは、かんざしっていうの!」
「わあ、ありがとう……! お姉ちゃん、差してくれる?」
「いいわよ。ちょっと待っててね……はい、できた」
「似合ってますか?」
後ろを向き、お団子にされた後頭部を見せてくる。そこに映えるかんざし。
「うん、すごく似合ってる!」
皆も、口々に「似合う」と賞賛。
「ありがとうございます!」
みんなから、心のこもったプレゼントをもらって、満面の笑顔のクロちゃん。こんなに見事な笑顔の彼女は、初めて見る。
そして、それを見たまりあさんも、満面の笑顔。本当に、クロちゃんの喜びが自身の喜びなんだなと実感させられる。良き哉良き哉。
こうして、まりあさんの誕生パーティーは、幸せな空気の中終わりました。
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