神奈さんとアメリちゃん

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第二百四十一話 補助輪なし大特訓!

公開日時: 2021年5月23日(日) 21:01
更新日時: 2021年5月28日(金) 18:10
文字数:2,997

 帰宅後。真留さんのチェックも通ってひと安心な午後のひととき。アメリとお絵かき遊びなう。


 そんなとき、真留さんといえばと、ふと彼女に関して大事な話をするのを忘れてたのを思い出す。


「ちょっとごめんね」


 アメリに一言断り、スマホを手に取りLIZE起動。


「こんにちは。以前お約束したお食事の件なんですけど、次の打ち合わせの日、うちにお昼にいらしませんか? 腕によりをかけて作りますよ!」


 さすがに、私のような在宅ワーカーと違ってお忙しいのか、既読すらつかないな。ま、そのうちお返事あるでしょ。


 あとは何か……。あ、そうだ。


「アメリー。補助輪なしで自転車乗るの挑戦してみない?」


「おお? 補助輪ってあの小さい車輪だよね?」


 互いにクレヨンを置く。


「うん。私やクロちゃんみたいに、あれなしで乗れるように頑張ってみない?」


「やってみたい!」


 うんうん、相変わらず向上心が強いですねえ。


「よし。じゃーさっそくやってみよっか。もっかい外着に着替えてね」


「おおー!」


 私は私でクローゼットから工具箱を取り出し、レンチを手にする。服は……スウェットでいっか。上にテキトーにコート羽織りましょ。



 ◆ ◆ ◆



「さて、アメリちゃん。自転車はなぜ、この二輪で倒れず走れると思いますか?」


 庭で、補助輪を外したケイティちゃんサイクルのサドルをぽんと叩き、クイズを出す。


「おお? なんでだろ……?」


 考え込んでしまう彼女。


「まあ、わかんないよね。回ってるものってね、安定・・するのよ。で、スピードが速いほど安定しやすいの。だから、怖がらずに少し速度を出したほうが倒れにくいんだ」


「おお~!」


 キラキラ瞳を輝かせる。


「といっても、最初は怖いよね。だから、後ろで支えててあげるね。さ、乗ってみよー」


 スタンドを上げ、後部の荷台をホールドすると、アメリちゃんがサドルにまたがりました。


「お、おお!? ふらふらする……」


「うん。まずは片足をついてね。で、ちょっと勢い付けてペダルを回してみよう」


 恐る恐る漕ぎ出す彼女。しっかり支える私。ふらついてかなり力がいるけど、ここが腕の見せどころ!


「いいよいいよー。少しずつ速度を上げてみよう」


 少し速度が上がると、ふらつきが弱まる。


 「おお?」と、不思議な感覚に戸惑うアメリ。


 これを繰り返すことしばし、少し安定してきた気がする。


「よし。次は、途中で手を離すよ。とにかく、危ないと思ったら足をついてね」


「わ……わかった……」


 ちょっとビビり気味。私も、補助輪外し訓練のときはこんな感じだったなーと、ちょっと微笑ましい気分になる。


「じゃ、いってみよう!」


 ペダルを漕ぎ出し、少しずつ速度が上がっていく。このあたりか。


「離すよ」


 荷台から手を離すと、少しフラフラし始めるものの、なんとか進む。


「お? おおお? おおお~!?」


「頑張って! その調子!」


 庭の端に着きそうになったので、減速し片足つくアメリ。


「すっごーい! 上手上手!」


 ぱちぱちと拍手しながら、近くに寄る。


「お、おお~……怖い」


「そうだね。でも、練習してれば慣れるよ。よし、もっかいやってみよう!」


「おおー!」


 なんだか「おおー」ばっかり言ってるわね、アメリちゃん。


 それはともかく、練習再開。少しずつふらふらする感じがなくなっていってるのが、見ていてよくわかる。


 しばし練習していると、直進ならそれほど危なげがなくなってきた。


「いいね! じゃあ、カーブも練習してみようか。とはいうものの……」


 うちの庭では、補助輪なしのカーブ練習をするにはちょっと狭い。どうしたもんかな。……そうだ!


「アメリ、お隣さんに行ってみましょ。自転車引いてきて」


 というわけで、かくてるハウスの門前へ!



 ◆ ◆ ◆



「お? 神奈サンとアメ子じゃん。こんちわ。どったの?」


 インタホンを鳴らすと、応対に出たのは久美さん。


「こんにちは。実はアメリが補助輪なしでの自転車練習をしてるのですけど、うちの庭だとカーブの練習には手狭で……。お庭を貸していただけるとありがたいのですが、いかがでしょうか?」


「へー。ウチはかまわんよ。ほかの連中も断らんと思うし。つーわけで入ってちょーだい。今、そっち行くわ」


 がしゃんと、門のロックが外れる。中にお邪魔して待っていると、部屋着にジャンパーを羽織った久美さんが出てきました。


「あはは。神奈サンもそんなカッコか。ウチも付き合うからさ、やろーぜ」


 互いに挨拶を交わす、アメリと彼女。


「ありがとうございます。でも久美さん、見ているだけで暇じゃありません?」


「まー、大人二人で見守ってたほうが安心だからね」


 というわけで、かくてるハウスの広いお庭を拝借。さっそくカーブ練習を始めるアメリ。


 くるりとハンドルを切ると、切りすぎてバランスを崩し、転倒してしまった!


「大丈夫!?」


 二人で駆け寄り、ケガがないか見る。失礼してスカートをめくると、膝を擦りむいていた。


「傷スプレーと絆創膏取ってくるわ」


 久美さんが駆け足で邸内に戻っていくので、涙目のアメリの頭にキャスケットを戻し、撫でる。


「今日はもうやめとく?」


「……頑張る」


 少しぐすぐすしながら、決意表明する彼女。その体を、優しく抱きしめる。


「アメリちゃん、大丈夫!?」


 背後から由香里さんの声。振り返ると、かくてるハウスの皆さん勢揃い。


「はい。大したことはないかと……」


「アメ子、膝出して」


 久美さんがスプレーを一吹きすると、顔をしかめるアメリ。


「よーし、これで大丈夫だかんな」


 スプレーが乾いたので、絆創膏を貼っていただく。


「立てる?」


「うん」


 手を貸すと、ゆっくり立ち上がる。アメリが再度サドルにまたがると、かくてるのご一同から感嘆の声が上がるのでした。


「いやー、根性ありますねえ」


 舌を巻く優輝さん。


「意志の強い子ですから。よしアメリ、もう一回やってみよう!」


 子の挑戦を見守り、応援するのも親の努め。はらはらしながらも、応援を飛ばす。


 すると、今度は大きめのカーブを描くことで成功! 一同から拍手が上がる。


「すごいじゃない! これは負けてられないわね! 優輝、ミケも自転車の乗り方覚えたいわ」


「うん。じゃあ、今度買いに行こう」


 そんな会話を交わす、角照姉妹。


 六人に膨れた見守る会は解散することなく、アメリに声援と賞賛を送る。


 しばらく漕いで、腕前もだいぶ上達。今日の練習はこれぐらいで切り上げようと提案する。


「わかった。久美おねーさんたち、また練習しに来てもいい?」


「おー、いつでもおいでな。な?」


 久美さんが一同に確認を取ると、皆うなずいてくださった。


「今日は、本当にありがとうございました」


 皆さんに、深くお辞儀する。


「いえいえ、お礼を言われるほどのことは。庭貸しただけですし。アメリちゃん、ミケが自転車乗れるようになったら、今度一緒にサイクリングしようか」


 アメリの視線に屈み、提案する優輝さん。


「おおー? さいくりんぐ?」


「自転車での、気ままなお出かけだね」


「行きたい! ミケ、一緒に行こうね!」


「待ってなさい。すぐにすいすい乗れるようになってみせるんだから!」


 胸を反らしドヤ顔。


「私も、楽しみにしてるね。では、これでお暇させていただきます。アメリもお礼言おう」


「ありがとうございました!」


「うんうん。いつでもウェルカムっすよ」


 皆さんに門まで見送られ、再度別れを告げてお辞儀し帰宅。


 ふう。転んだときは焦ったけど、こうして子供って成長していくのね。なんだか、お父さんとお母さんの苦労が少しだけわかった気がするな。

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