神奈さんとアメリちゃん

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第四百六十話 ある漫画家さんの一日 ―あれから約一年―

公開日時: 2022年1月9日(日) 21:01
文字数:2,055

 今日は、最近遊びが続いた……外遊びは体育という名目だったけど、まあそういうことで、いつもの勉強会です。


「なるほどー。ブンレッツが五人に別れて、そのうち二人なんだな!」


「ふふん。千多せんたちゃんパワーを得たミケにかかれば、小数ぐらいちょちょいのちょいよ!」


 つまづいていた二人も、新たな武器を得て、楽しそうに攻略しています。


「先生。ここ、合ってますか?」


「うん、大丈夫。その調子!」


 クロちゃんは相変わらず、堅実に進んでいる模様。で、うちの愛娘はというと……。


 無言で、バリバリ進めています。すごい気迫。


「せんせー、合ってる!?」


「うーん、アメリちゃん読みは完璧だけど、書くほうが追いついてない感じかな。反復練習あるのみだよー」


「うにゅう」


 おおう、漢字の書き取りは気合だけでは無理でしたか。でも、読みは完璧っていうのは、ネットで鍛えたからなんだろうな。私も、書き方は覚えてないけど読めるって漢字、増えちゃってるからねー。


 こちらは、月末手前脱稿を目指したペースで描き進め中。月末には、アメリの検査結果が出るからね。次々号のプロット突入なんかも考えて、それまでに終わらせたい。ことによると、アメリのメンタルケアも必要かもだし。


「お茶のおかわり、れてくるね!」


 と、アメリの声。


「それ、私がやるよ?」


 首を、向こうに向ける。


「ううん、アメリがやるー。……いってきまーす」


 手早く湯呑とお皿を集め、トレイに載せてぱたぱたと出ていく愛娘。


 ふむ。気分転換したいってとこかしらね。だいぶ気合もこめてたし。


 あ。コーヒー牛乳がない。おかわり作りに行ってこよ。



 ◆ ◆ ◆



「おお? おねーちゃん、アメリ一人でできるよ?」


 台所にやって来た私を見て、困ったような顔をする娘。


「あー、気にしないで。私は私で、コーヒー牛乳作りに来ただけだから。邪魔はしないよ」


「おおー……」


 しばし、無言で互いの作業を進めていく。


「勉強、気合入ってるね」


 沈黙が厳しくなったので、話しかけてみる。


「うん! 検査結果どっちでも、頑張らなきゃだから!」


 ポットから急須にお湯を注ぎながら、応える愛娘。


「そっかー、偉いね。でも、無理はしないでね」


「うん!」


 ほんとに、無理だけはしないでね。


「おやつは足りそう?」


 話題を変えてみる。


「おお……? まだあるの?」


「うん。緑茶に合うかわからないけど、チョコパフが冷蔵庫に」


「おお! もらっていくね!」


 うん、入れ込み過ぎということはなさそうかな。適度にちゃんと力が抜けていると思う。杞憂だったか。


「先に戻ってるね!」


「はーい。転ばないように気をつけてねー」


 お茶菓子を用意し終えた愛娘が、ぱたぱたと戻っていく。私はコーヒーメーカーから作るから、ちょっと時間かかるのよね。



 ◆ ◆ ◆



「ただいま戻りましたー」


 コーヒー牛乳片手に帰還。アメリはとっくに配膳を終え、バリバリと書き取りに打ち込んでますね。


 着席しようとすると、チョコパフがデスクに一個、ちょこんと載ってました。


「ありがと、アメリちゃん」


「どーいたしまして!」


 では、これとコーヒー牛乳でお仕事頑張りましょー!


「ねー、センセー。ミケたち、こういう勉強することにイミあるのかしら」


 不意に、疑問を呈するミケちゃん。


「小・中学校の勉強は、色んな所で役に立つわよ」


「そーじゃなくて。その、カンジンの学校には行けるのかなって」


 なんとなく、場の空気が重くなる。たしかに、モチベーションに関わる問題だ。


「九月になったらまた国会で話し合いが始まるし、議員の皆さん、前向きに動いてると思うよ」


 そう元気づける、白部さん。アメリの場合……特別カリキュラムが受けられたらだけど、学校はどうなるのだろう。白部さんに訊いても、多分そこまでわからないだろうし。


 猫耳人間は、色んな意味で規格外の存在だ。平均化を是とする学校という場で、彼女らはどうなっていくのか。


 私みたいな、良くも悪くも凡庸な生徒には居心地のいい場所だったけど、吸収力の塊みたいな猫耳人間……とくに、アメリにとってはどうなんだろう。


 学校に行かせてあげたい。それがついこの間までの私の願いだったけど、今は「浮きこぼれてしまうのではないか」という不安が、逆に鎌首をもたげる。


 不確定な未来を心配しても意味のないことだけど、それでもやっぱり気になってしまうな……。


 結果次第だけど、次回のT総でそのへんも相談してみよう。


 おっと、いけない。筆が止まってた。私が今、一番やらなければならないことがお留守でしたよ。いかんいかん。


 気分を一新して、楽しいことを考える。作者のメンタルって、作品に出ちゃうからね。


 まずは、連載を片付けてしまおう。猫アメリとの楽しかった日々、そして今アメリとの楽しい日々を脳裏に想起する。


 この「あめりにっき」も、アンケート次第で、今アメリを描いた「新」に移行するかもしれない。猫アメリとして描けることは、今のうちにきちんと描き切ろう。


 とにもかくにも、読者を楽しませる。それが今、私がやるべきことだ。


 子供たちの質疑応答や雑談をBGMに、今日もこつこつと筆を走らせるのでした。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

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