神奈さんとアメリちゃん

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第二百九十一話 共に、頑張りましょう!

公開日時: 2021年7月15日(木) 21:01
文字数:2,904

「あら、今日は自転車じゃないの?」


 お昼前、クロちゃんが遊びに来たので出迎えると、珍しく徒歩でした。


「はい。アメリの帽子が風で飛んで、大変なことになっちゃったじゃないですか。ボクの帽子まで飛んじゃって、耳を目撃されたらさらに大騒ぎになるので、ずっと帽子を押さえてきたんです。だから、自転車使えなくて」


 なるほど。クロちゃんまで正体露見したら、今以上に大騒ぎになるものね。


「歩きは疲れたでしょう。中に入ってゆっくりくつろいでね」


「ありがとうございます」


 寝室に通すと、皆と挨拶を交わす彼女。


「お弁当、こっちに持ってきて良かったんですか?」


 クロちゃんが、怪訝そうな顔を向けてくる。


「うん。うちキッチンもリビングも四人がけだから、前みたいに私と久美さんがベッドに腰掛けて食事する形にしようかなって」


「へー、そんなことしたんだ」


 興味深げな久美さん。ちなみに、彼女とミケちゃんのお弁当は常温に戻すために、三十分前に冷蔵庫から出してある。ごはんももうすぐ炊きあがり。


「はい。ちょっとお行儀悪いですけどね」


 口元に手を当て、ふふと微笑む。


「あ、そうだ! クロ! 見て!」


 アメリが、小三漢字クリアを証明する花マル答案用紙を見せる。


「小三の漢字、全部覚えたんだ。頑張ったね。今度、新しい二字熟語パズル作ってくるね」


 うんうんとうなずき、感心する漢字博士。


「「ナニソレ?」」


 ミケちゃんとノーラちゃんがハモる。


「えっとね……」


 二人に、二字熟語パズルとはなんぞや? ということを説明するクロちゃん。


「へー、ミケもやってみたいわ」


「アタシもー!」


 興味津々な未経験コンビ。


「えっと、ノーラは小二向けの漢字読める?」


「う……まだ無理だ……」


「そっか。じゃあ、覚えたら挑戦してね。ミケには同じ問題作ってあげるね」


 しょんぼりするノーラちゃん。お勉強、頑張ろうね。


「クロ子ー。ウチもそれやっていいかー?」


「はい、どうぞ。久美お姉さんにも同じの作りますね。神奈お姉さん、紙とボールペンを借りていいですか?」


「いいよー。じゃあ、久美さん。子供たちの面倒見ていていただけますか? 私はお昼を作ってきますので」


「ほいよ。いってら」


 クロちゃんに筆記用具一式を渡し、キッチンに向かおうとする。


「おねーちゃん。手伝わなくていいの?」


「アメリはお友達と遊んでて。子供は遊ぶのも大事なお仕事だからね!」


 頭を撫で、改めてキッチンへと足を運ぶのでした。



 ◆ ◆ ◆



 というわけで、キッチンなう。一人ぼっちの調理場というのも、なんだかえらく久しぶりだなあ。


 それでは、おなじみの脳内BGMスイッチオン!


 今日作るのは、鶏ももとキャベツの甜麺醤テンメンジャン味噌炒め。


 ノーラちゃんが突然加わったから一人頭の鶏肉の量は減ってしまうけど、そこは幸いひと玉あるキャベツで量を増やしてカバー。


 まず、鶏ももを一口大、キャベツをざく切りでカット。さらに、昨日捨てずに取っておいたおネギの青い部分を小口切りに。


 次に、調味料の調合。チューブ生姜ちょい、チューブにんにくちょいちょい。お砂糖小さじ二杯、お醤油小さじ一杯、料理酒小さじ半、お酢小さじ三分の一、あとはごま油、甜麺醤、お味噌を大さじ半ずつ。これで調味料完成。


 フライパンにごま油を大さじ一杯引き、鶏肉を中火で二分炒める。その後、キャベツを加え一分半炒めまーす。さらにネギと調味料を加え、炒めること一分。でっきあがりー!


 これを、私はベッドで食べるのでごはんともどもお弁当箱。アメリとノーラちゃんはお皿とお茶碗に料理とお米を盛って、久美さんとミケちゃんのお弁当ともどもトレイに乗せて寝室に向かう。


「お待たせしましたー」


 皆から、おかえりなさいと声をかけられる。


「じゃあ、いただきますしましょう」


 いただきますの合唱!


「へー、神奈サンの美味そうだね」


 隣の久美さんが興味深げにお弁当箱を覗く。


「そちらは唐揚げとプチトマトとサンドイッチですか? 美味しそうですね」


「いやー、ウチは和食が良かったんだけどさ、ミケ子が可愛くないってごねるもんだから、急遽こういう具合になって……」


 と言いながらも、まんざらではない様子でサンドイッチを食む彼女。


「神奈サン、おかずトレードしね?」


「いいですよー」


 というわけで、唐揚げと鶏もも味噌炒めを一個ずつ交換。鶏肉同士で変な感じだけど。


「へー、中華? 美味いね」


 唐揚げ用のプラスチック爪楊枝で器用に味噌炒めを味わう久美さん。


「ありがとうございます。唐揚げも美味しいですよ」


「あんがと。しかし、ちびっこたちに囲まれてるとなんかこう、パワーもらえるよなー」


「あー、わかります! にぎやかで可愛いですよねー」


 微笑み合う。


 くだんの子供たちを見ると、向こうでもおかずトレードが盛んなようだ。クロちゃんは相変わらず、渋い和食のお弁当ねえ。


「あ、そうだ。パズルのほうはいかがでした?」


「ウチは解けたよ。ミケ子は途中まで」


 良きかな良きかな


 こんな感じで、お昼ごはんタイムは和やかに進みました。



 ◆ ◆ ◆



 夕方になると三人は帰宅したため、あめりにっきのルビ振りを再開。アメリはノーラちゃんとブロック遊び。


 晩ごはんは生鮮食品がキャベツだけになったので、キャベツのコンソメスープとツナたまごサンドを三人でいただきました。


 食後、後片付けをしていると、インタホンの呼び鈴が。応対すると、白部さん!


 逸る気持ちを抑えながら、お出迎え。


「こんばんは。お疲れ様でした。いかがでした?」


「こんばんは。立ち話もなんですから、お邪魔してよろしいですか?」


「はい、ぜひ!」


 というわけで、中にお招き。ノーラちゃんが、嬉しそうに抱きつく。


 リビングにお通しし、紅茶をお出しする。


「猫崎さん。結果からお伝えしますね」


 ごくりと固唾を飲み込む。


「話が通りました。ご都合がよろしければ最速で明後日に、当事者として記者会見にご出席していただくことになりますが、いかがでしょうか」


 記者会見! 自分でアメリのことを公にしたいと言い出したわけだけど、本当に大事になってくらっとしそうになる。


「大丈夫ですか?」


「はい、なんとか……。すごいことになってしまいましたけど、自分で言いだしたことですものね」


 額の冷や汗を拭う。


「お二人には、お車で新宿のプレスセンターにいらしていただくことになります。顔と声には加工を入れますので、プライバシーは守られます」


「承知しました。明後日、よろしくお願いします」


 力強くうなずく。


「では、上のほうには明後日参加されるということで伝えておきます。それと、今日一日ノーラちゃんを預かっていただき、ありがとうございました」


「いえ、こちらこそご尽力ありがとうございました。ここからが正念場ですね」


「はい。当日は、私も当事者の一人として話をすることになっています。共に、頑張りましょう!」


 手を差し出してこられたので、握り返す。


 その後、白部さんも相当お疲れだったので、紅茶を一杯飲むと、ノーラちゃんとともにご自宅に戻られました。かえすがえすも、白部さんには感謝しかない。


 しかし、記者会見か……。サイン会も開いたことがないのに、緊張するなあ。


 そういえば、今日エイプリルフールだったっけ。後でアメリに、他愛もない笑える嘘をついてみようかな。

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