神奈さんとアメリちゃん

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第五十四話 かんなせんせいのさんすうきょうしつ

公開日時: 2021年4月18日(日) 13:01
文字数:2,370

玄関の方で音がする。あと、声らしきものも。とてとてと足音が近づいてきて、アメリが「ただいまー!」と笑顔で寝室に戻って来た。


「おかえりー。角照さんたちにご迷惑かけなかった?」


 筆を止め、くるりと椅子を彼女の方に向ける。


「大丈夫! 頭撫でられちゃった! あと、門まで送ってもらった!」


 えへへと照れるアメリ。後で、お礼言わないと。


「そっかそっか。おいで」


 猫だった頃よくやったようにぽんぽんと自分の膝を叩くと、ちょこんと座ってくる。頭を撫でると、「うにゅう」と気の抜けた声を上げ、彼女の耳が少し外側を向く。リラックスしてる証拠だ。


 こうやって、アメリとスキンシップして過ごしている時間の、なんと幸せなことか。この幸福感は、猫時代から変わらない。いや、より深まったような感さえ覚える。


 PCの時計をちらり見ると、五時ちょっと過ぎ。今日のごはんはどうしようかな。


「雨、まだ降ってる?」


「うん」


 ふーむ。いつものスーパーに車で行ってもいいけれど。……よし、今日は冷凍食品をちょっと整理しよう。


 アメリと一緒に台所に赴き、冷凍庫を漁る。


 ソーセージ、ブロッコリー、コロッケ、シーフード、唐揚げ……意外といろいろ入ってるなあ。


 冷蔵庫の方を見ると、そちらには卵と食パンと牛乳など。ふむ、ざっくり夕食の方向は固まった。


 ただ、簡単な料理だから夕食にはちょっと早いかな。


「先に、お風呂入ろっか」


「うん!」


 というわけでお風呂にざぶん。あのお風呂嫌いなアメリが、楽しそうにふぐたくん魚のおもちゃと遊んでいるのを見ると、彼女が猫耳人間になってからまだ一ヶ月も経っていないこと、そして猫耳人間になった当初もずいぶんお風呂を嫌がっていたことがとても大昔のように思える。


 子供の成長って、早いなあ。仔猫だったアメリが半年でほとんど成猫になったときも驚いたものだけど、猫耳人間アメリの成長も本当に早い。身長などはあまり変わっていないけど、物を覚えたり慣れたりするのがとにかく早いと思う。


 以前、まりあさんや角照さんたちとそんな話をしたことがある。やはり、クロちゃんもミケちゃんも、そういう成長・・・・・・が早かったらしい。


「ねえ、アメリ。新しいお勉強って興味ある?」


 何の気なしに、そんな提案をしてみた。


「んー……どういうの?」


「足し算と引き算。算数っていうお勉強なんだけど、数を数えるのに役立つの」


「やってみたい!」


 おお。瞳を輝かせて、すごい食いつきようだこと。


「じゃあ、向こう寝室で少しお勉強してみようか」



 ◆ ◆ ◆



 お風呂上がり、寝室で十二本のクレヨンを床に並べる。


「アメリ、ここには今クレヨンがいくつあるかな?」


「十二本!」


「うん、そうだね。正解です。じゃあ、ここに一本クレヨンを置くね」


 適当に選んだ、赤いクレヨンをアメリの前に差し出す。


「これは何本かな?」


「一本!」


「うんうん。じゃあ、ここにもう一本置くと、何本かな?」


 青いクレヨンを、赤いクレヨンの隣に置く。


「二本!」


「大正解! これをね、足すっていうの。一足す一で二。じゃあ、この二本と、この二本を足したらいくつかな?」


 赤と青の横に、茶と黒のクレヨンをそれぞれ置く。


「四本!」


「大正解! じゃあ次はちょっと難しいよ」


 クレヨン九本を置く。


「ここにクレヨンが九本あるね。これに二本足したらいくつ?」


「十一本!」


「すごいね、正解だよ! でも、なんで九だったのが十と一になっちゃったのかな?」


 そう言われると、うんうん悩み始めるアメリ。


「これはね、繰り上がりっていうの。十を超えると、十いくつって数え方になるんだ。この場合は、十と一だから十一」


「おお~!」


 いままでなんとなく十一とか十二と把握していたものに理が通り、得心に瞳を輝かせる。


「じゃあ、もうちょっと難しくなるよ」


 スケッチブックに、魚を十九匹描く。ただし、十匹の地点で一度折り返す。


「お魚さんは何匹?」


「十九匹!」


「正解! じゃあ……」


 そこに、更に三匹描き足す。こちらも、二十匹目で一旦折り返す。


「これは?」


「二十二匹!」


「正解! 十が二つで二十。それに二匹くっついてるから二十二っていうんだね」


 魚を十のグループずつくるっと線で囲むと、「おお~!」と感心の声を上げる。


「ほかには百とか千とかもあるけど、まだアメリはそこまで覚えなくていいかな。じゃあ、次引き算ね」


 クレヨンを二本置く。


「クレヨンは何本かな?」


「二本!」


「そうだね。じゃあ、ここから一本なくなると?」


「一本!」


「正解! これが引き算。こうすることを、引くって呼ぶんだ。じゃあ、次はちょっと難しいよ」


 十二本のクレヨンを並べる。


「これは?」


「十二本!」


「そうだね。じゃあ、こうすると?」


 三本のクレヨンを取ってしまう。


「九本!」


「うん、その通り。じゃあ、なんで十と二だったのに、二が九に増えちゃったのかな? 不思議だね。ちょっと考えてみよう」


 そう言われると、なんで二だったのが九に増えてしまったのかと、不思議がる彼女。


「これをね、借りてくるっていうんだよ。もっと詳しくいうと、十の位から借りてくるっていうの。二本のクレヨンから三本は取れないよね?」


 うんうんとうなずくアメリ。


「でも、こっちにある十本から一本借りてくると三本のクレヨンが取れるようになるよね。さあ、十本だったクレヨンは今いくつかな?」


 アメリは「あっ!」と叫んだ後「九本だ!」と瞳を輝かせる。


「よくできました! さすがアメリちゃん!」


 頭を撫でると、「うにゅう」といういつもの気の抜けた声を上げる。


「これが、足し算と引き算の基本だよ。うん、時間もちょうどいいし、ごはんにしようか」


 クレヨンとスケブを片付け、台所へ向かう。


 今日はお手軽に、ソーセージスクランブルエッグ、缶アスパラとブロッコリーのマヨネーズサラダ、そしてトースト。


 なんだか朝食みたいなメニューだけど、晩ごはんにしちゃいけないって決まりもないよね。ごちそうさまでした!

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