神奈さんとアメリちゃん

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第五百八話 まりあさんと、クロちゃんと

公開日時: 2022年2月26日(土) 21:01
文字数:2,639

「おはようございます。今日は、クロちゃんと一緒に、早めに伺ってもよろしいですか?」


 朝のLIZEで、そう切り出してきたまりあさん。おや、珍しいお申し出を。


「私は構いませんが、お仕事問題ないのでしょうか?」


 聞いた話では、割と正念場だった気がする。


「ちょっと、今塗りが上手くいかないものでして。気分転換ですね」


「わかりました。そういうことでしたら、おいでください」


「では、お弁当とお菓子持って伺いますね」


 ほにょ。お昼にいらっしゃるとは。ほんとに気分転換なさりたいんですねえ。



 ◆ ◆ ◆



 いつものスーパーでお買い物を済ませ、私たちもお弁当作り。


 せっかくだから、おかず交換とかしたいものね!


「「いえーい!」」


 いつものハイタッチ!


 エビフライとイカリング、ミニハンバーグ、フライドポテトにプチトマトとブロッコリー! ごはんには、例によってでんぶでハートを描く。うんうん。可愛いお弁当が出来ました!


 お魚の容器にソースを入れて……やーん、ほんと可愛い~! 写真をパシャリ。


 じゃ、しばらく冷ましてから蓋しましょうか。



 ◆ ◆ ◆



 しばし原稿に打ち込んでいると、インタホンがピンポン。時刻は十二時少し前。まりあさんたちかな?


「はーい」


「こんにちは、わたしです。クロちゃんも一緒です」


「今出まーす」


 アメリを連れて、門までお出迎え。


「こんにちはー」


 相互に、改めてご挨拶。まりあさんは、相変わらず白い日傘がきれいだなあ。


「クロちゃん、今日は徒歩?」


「はい。お姉ちゃんと一緒ですから」


「暑いでしょう。とりあえず、中へどうぞ」


 二人を、中へお通しする。


「こちら、お菓子です。飲み物は、さすがに重かったので……すみません」


「いえいえ。ありがとうございます」


 ものは、おせんべいでした。後で、お茶と一緒にお出ししよう。


「おねーちゃん、久しぶりのお弁当、楽しみだね!」


「神奈さんも、お弁当を?」


「はい。せっかくですから」


 互いに、ふふと微笑む。おかず交換、楽しいものね!


「もうすぐ正午ですね。さっそく、いただきましょうか」


 というわけで、キッチンへ。


「飲み物は、やはり緑茶でしょうか? ほうじ茶も買ってみましたけど」


「クロちゃん、どっちがいい?」


「ボクは……濃い味の緑茶でお願いします」


 「りょうかいでーす」と、アイス緑茶をれる。


「どうぞ」


「「ありがとうございます」」


「おねーちゃん、ありがとー!」


 三人から、お礼を言われます。


「では、いただきましょうか。いただきます!」


 蓋をぱかっ! 可愛いお弁当が再出現~。


「可愛いお弁当ですねえ~」


「ありがとうございます。二人で作った、自信作でして。写真も撮ったんですよ」


「わたしたちは、どうしてもこんな感じになってしまいがちで……」


 まりあさんたちも開封すると、和食系のお弁当が出現。


「美味しそうで、いいと思いますよ~」


 おかずは、焼きジャケ、玉子焼き、きんぴらごぼう、がんもと大根とインゲンの煮物。これに、のり玉ふりかけのごはん。


「ありがとうございます。わたしもクロちゃんも、和食が好きなもので」


「ヘルシーでいいと思います。ところで、焼きジャケ半分と、ミニハンバーグトレードしませんか?」


「はい。楽しいですね」


 まりあさん、笑顔が可愛い。


「クロー! アメリとも交換しよー!」


「うん、いいよ。でも、ハンバーグじゃなくて、エビフライでいい?」


「いいよー!」


 子供たちも、トレード成立。良きかな良きかな


「ところで、食事中にこんなお話をして、なんですけど……」


「はい」


 妙に、改まった感じになるまりあさん。


「こないだ、精検受けたわけですけど、わたし、アルコールの分解効率がかなり変わっているらしいんです」


「と、おっしゃいますと?」


「アルコール過敏な上に、アセドアルデヒドへの変換効率が非常に悪いそうで……。アセドアルデヒドになってからは、普通の分解力らしいんですけど」


 アセドアルデヒド?


「すいません。アセドアルデヒドというのは、何でしょうか? 何かで、聞いたことある気もしますけど……」


「二日酔いの原因になる物質ですね」


 あー。


「その、やはりアルコール摂取すると、命に危険があったり……?」


「いえ。平たく言うと、ちょっとの量で酔っ払いやすくて、量自体は普通の人並みに飲めるらしいんです」


 へー。


「両親に子供の頃の話を聞いたら、アルコール消毒で酔っ払ってしまったらしくて」


 あらま。


「というわけで、今後は今以上に気をつけようと思いました」


「そのお話は、ほかの皆さんには?」


「とりあえず、白部さんにはしました。ほかの皆さんには、心配かけてもと悩むので、話したものかどうかと……」


 憂いた表情。


「恥ずかしいお話でもないと思いますし、きちんと話しておいたほうがいいかなと、私は思います。私見ですけど」


「そうですよね……。わかりました。帰宅したら、話してみます」


 カミングアウトを終え、ふう、と一息つくまりあさん。


「改めて、楽しい話をしましょうか」


「ですね」


 彼女が気持ちを切り替えたので、私も切り替える。


 クロちゃんは、勝ち星を順調に上げていて、もう教室ではトップレベルらしい。


「すごいですねえ」


 目をぱちくり。まだ、こんなに小さいのに。


「教室の先生から、今度、アマチュアの大会に参加してみないかと、誘われたそうです」


 ほえー!


「大会とはすごいねー、クロちゃん!」


「ありがとうございます。ボクも先生も、公の場での手応えを確かめたいんです」


 順調に、一歩一歩進んでいるんだなあ。


 アメリも、クロちゃんも、ほかの子たちも、その才覚を活かしている。将来が楽しみだなー。


「優勝できるといいね!」


「はい。頑張ります!」


 きりりとした表情。


 出会って間もない頃は、あんなに気弱だったのに。子供たちは、精神的にもすごく成長していると、改めて思った。


「クロちゃん、強くなったね。精神的にも」


「そうですね。お姉ちゃんにも、よく言われます。多分、アメリのおかげかな」


「おお? アメリ、なにかすごいことした?」


「うん。好意を、全力でぶつけてくれるアメリと出会わなかったら、ボクはずっと臆病なままだったと思う。ありがとう」


 頭を下げる彼女。


「おお~。クロの役に立てて、良かった!」


 お陽様笑顔のアメリに、はにかむクロちゃん。素晴らしきかな、友情!


 こんな感じで、お弁当昼食会は楽しく終了。


 一時になるとミケちゃんもやって来て、まりあさんのご厚意で、二人の教師役を引き受けてくださいました。


 夕方に差し掛かると、まりあさんとクロちゃんは、一足先に帰宅。


 まりあさんも、良い気分転換になったそうです。良きかな良きかな

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