「おはようございます。今日は、クロちゃんと一緒に、早めに伺ってもよろしいですか?」
朝のLIZEで、そう切り出してきたまりあさん。おや、珍しいお申し出を。
「私は構いませんが、お仕事問題ないのでしょうか?」
聞いた話では、割と正念場だった気がする。
「ちょっと、今塗りが上手くいかないものでして。気分転換ですね」
「わかりました。そういうことでしたら、おいでください」
「では、お弁当とお菓子持って伺いますね」
ほにょ。お昼にいらっしゃるとは。ほんとに気分転換なさりたいんですねえ。
◆ ◆ ◆
いつものスーパーでお買い物を済ませ、私たちもお弁当作り。
せっかくだから、おかず交換とかしたいものね!
「「いえーい!」」
いつものハイタッチ!
エビフライとイカリング、ミニハンバーグ、フライドポテトにプチトマトとブロッコリー! ごはんには、例によってでんぶでハートを描く。うんうん。可愛いお弁当が出来ました!
お魚の容器にソースを入れて……やーん、ほんと可愛い~! 写真をパシャリ。
じゃ、しばらく冷ましてから蓋しましょうか。
◆ ◆ ◆
しばし原稿に打ち込んでいると、インタホンがピンポン。時刻は十二時少し前。まりあさんたちかな?
「はーい」
「こんにちは、わたしです。クロちゃんも一緒です」
「今出まーす」
アメリを連れて、門までお出迎え。
「こんにちはー」
相互に、改めてご挨拶。まりあさんは、相変わらず白い日傘がきれいだなあ。
「クロちゃん、今日は徒歩?」
「はい。お姉ちゃんと一緒ですから」
「暑いでしょう。とりあえず、中へどうぞ」
二人を、中へお通しする。
「こちら、お菓子です。飲み物は、さすがに重かったので……すみません」
「いえいえ。ありがとうございます」
ものは、おせんべいでした。後で、お茶と一緒にお出ししよう。
「おねーちゃん、久しぶりのお弁当、楽しみだね!」
「神奈さんも、お弁当を?」
「はい。せっかくですから」
互いに、ふふと微笑む。おかず交換、楽しいものね!
「もうすぐ正午ですね。さっそく、いただきましょうか」
というわけで、キッチンへ。
「飲み物は、やはり緑茶でしょうか? ほうじ茶も買ってみましたけど」
「クロちゃん、どっちがいい?」
「ボクは……濃い味の緑茶でお願いします」
「りょうかいでーす」と、アイス緑茶を淹れる。
「どうぞ」
「「ありがとうございます」」
「おねーちゃん、ありがとー!」
三人から、お礼を言われます。
「では、いただきましょうか。いただきます!」
蓋をぱかっ! 可愛いお弁当が再出現~。
「可愛いお弁当ですねえ~」
「ありがとうございます。二人で作った、自信作でして。写真も撮ったんですよ」
「わたしたちは、どうしてもこんな感じになってしまいがちで……」
まりあさんたちも開封すると、和食系のお弁当が出現。
「美味しそうで、いいと思いますよ~」
おかずは、焼きジャケ、玉子焼き、きんぴらごぼう、がんもと大根とインゲンの煮物。これに、のり玉ふりかけのごはん。
「ありがとうございます。わたしもクロちゃんも、和食が好きなもので」
「ヘルシーでいいと思います。ところで、焼きジャケ半分と、ミニハンバーグトレードしませんか?」
「はい。楽しいですね」
まりあさん、笑顔が可愛い。
「クロー! アメリとも交換しよー!」
「うん、いいよ。でも、ハンバーグじゃなくて、エビフライでいい?」
「いいよー!」
子供たちも、トレード成立。良き哉良き哉。
「ところで、食事中にこんなお話をして、なんですけど……」
「はい」
妙に、改まった感じになるまりあさん。
「こないだ、精検受けたわけですけど、わたし、アルコールの分解効率がかなり変わっているらしいんです」
「と、仰いますと?」
「アルコール過敏な上に、アセドアルデヒドへの変換効率が非常に悪いそうで……。アセドアルデヒドになってからは、普通の分解力らしいんですけど」
アセドアルデヒド?
「すいません。アセドアルデヒドというのは、何でしょうか? 何かで、聞いたことある気もしますけど……」
「二日酔いの原因になる物質ですね」
あー。
「その、やはりアルコール摂取すると、命に危険があったり……?」
「いえ。平たく言うと、ちょっとの量で酔っ払いやすくて、量自体は普通の人並みに飲めるらしいんです」
へー。
「両親に子供の頃の話を聞いたら、アルコール消毒で酔っ払ってしまったらしくて」
あらま。
「というわけで、今後は今以上に気をつけようと思いました」
「そのお話は、ほかの皆さんには?」
「とりあえず、白部さんにはしました。ほかの皆さんには、心配かけてもと悩むので、話したものかどうかと……」
憂いた表情。
「恥ずかしいお話でもないと思いますし、きちんと話しておいたほうがいいかなと、私は思います。私見ですけど」
「そうですよね……。わかりました。帰宅したら、話してみます」
カミングアウトを終え、ふう、と一息つくまりあさん。
「改めて、楽しい話をしましょうか」
「ですね」
彼女が気持ちを切り替えたので、私も切り替える。
クロちゃんは、勝ち星を順調に上げていて、もう教室ではトップレベルらしい。
「すごいですねえ」
目をぱちくり。まだ、こんなに小さいのに。
「教室の先生から、今度、アマチュアの大会に参加してみないかと、誘われたそうです」
ほえー!
「大会とはすごいねー、クロちゃん!」
「ありがとうございます。ボクも先生も、公の場での手応えを確かめたいんです」
順調に、一歩一歩進んでいるんだなあ。
アメリも、クロちゃんも、ほかの子たちも、その才覚を活かしている。将来が楽しみだなー。
「優勝できるといいね!」
「はい。頑張ります!」
きりりとした表情。
出会って間もない頃は、あんなに気弱だったのに。子供たちは、精神的にもすごく成長していると、改めて思った。
「クロちゃん、強くなったね。精神的にも」
「そうですね。お姉ちゃんにも、よく言われます。多分、アメリのおかげかな」
「おお? アメリ、なにかすごいことした?」
「うん。好意を、全力でぶつけてくれるアメリと出会わなかったら、ボクはずっと臆病なままだったと思う。ありがとう」
頭を下げる彼女。
「おお~。クロの役に立てて、良かった!」
お陽様笑顔のアメリに、はにかむクロちゃん。素晴らしき哉、友情!
こんな感じで、お弁当昼食会は楽しく終了。
一時になるとミケちゃんもやって来て、まりあさんのご厚意で、二人の教師役を引き受けてくださいました。
夕方に差し掛かると、まりあさんとクロちゃんは、一足先に帰宅。
まりあさんも、良い気分転換になったそうです。良き哉良き哉!
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