神奈さんとアメリちゃん

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第三百十九話 へろへろ神奈さん

公開日時: 2021年8月13日(金) 21:01
更新日時: 2022年2月27日(日) 12:13
文字数:2,500

 日はさらに進み、二十五日昼。原稿脱稿~! 死ぬほど頑張った! いつもなら、おめでた料理を作ってるところだけど、もう生ゴミを出すのを控え、保存の効かないものは処分していかなければいけない時期に入っている。何より、体力気力がエンプティ。


 とりあえず、新幹線の切符を無駄にしなくて済んだ模様。……リテイクとか鬼なこと言わないでくださいよ、真留さん。


 ともかく送信し、続けざまに連載用と読み切り用のプロットを作成。ひ~、忙し! これも今日中に仕上げてしまって、明日には真留さんにOKをもらいたい。とにかく連休に遊びまくるしわ寄せでタイトスケジュール!


 プロットをざくざく作っていく。読み切りの方は、猫又の悲恋もの。リアル猫メインの「ねこきっく」だけど、読み切りではこういう変わり種をよく描かせてもらっている。


「アメリちゃん。今日はごはん作ってあげられなくてごめんね。おねーさん、しばらく忙しいの。今日も何か出前でいい?」


「おお~! いいよー! おねーちゃん頑張ってる! いい子、いい子」


 頭を撫でられると、ついほろりとしてしまう。待っててね。連休には思いっきり遊ぼうね!


 というわけで、二人でお蕎麦の出前を取ることに。


 ごはんが来るまで、プロット頑張りましょ~!



 ◆ ◆ ◆



 開けて二十六日。力技でプロットを完成させ、二時の真留さん時報を待ちます。


 ピンポーン!


 来た! 素早くお出迎え。


「ペットボトルの紅茶で恐縮ですけど」


 お茶ガラが出せないので、今日は二リッターペットボトルから注いだ紅茶をお出しする。


「いえいえ。お構いなく。この時期はご苦労をおかけします。うち編集部がタイトスケジュールを出してるせいで……」


「いえ! お仕事をいただけるだけでありがたく」


 互いに気遣い合戦。


「ともかくも、プロットを拝見します」


 仕事モードに入る真留さん。


「面白いです。連載はこれでいきましょう」


 とりあえず、片っぽ一発合格!


「ただ……」


「ただ?」


 どうも真留さんの様子が妙だ。


「私、まだ口外してなかったのですが、班長が『あめりにっき』のアメリちゃんたちが、実は猫耳人間なのではないかと感づいてしまいまして。それで、どうなんだと問い詰められてしまい、やむを得ず……」


 ははあ。彼女、良くも悪くも嘘がつけない性格だ。ということは、仕方なく話してしまったのだろう。


「それで、話が編集長までいってしまい、『じゃあ、猫耳人間の話を猫崎先生に描いてもらおう』とか言い出しまして。もちろん先生がお嫌でしたら、不肖私、防波堤となって食い止めてみせますが……いかがでしょうか?」


 表情が渋い彼女。上司と私と、自分自身との板挟みで相当悩んでいるのだろう。


「いえ。私としても異存ありません。もともとアメリをこの格好で出歩かせるようになったのも、そのへん吹っ切れたからですし。あの演説も、アメリのことをきちんと知ってもらいたい一心で語ったものです。ここで逆戻りするのは、アメリにも、ご協力してくださった方々にも、そして自分自身にも失礼なことです」


 決意を表明する。


「今、急いで新しいプロット組んじゃいますね」


 ノートPCを操作し、手早く九月三日のあの出来事をベースにした物語のプロットを書き上げる。


「……いかがでしょうか」


「拝見します」


 真剣な表情で眺める真留さん。


「素晴らしいです。なんというんでしょう、リアリティがすごいです。これはもしや?」


「はい。あの日の出来事、ほぼそのままです」


 深く息をつく彼女。


「猫崎先生がよろしければ、これでいこうと思いますが」


 改めて意思確認してくる。


「はい、これでお願いします」


「わかりました。では、ネームお待ちしています。二十八日は可能な限り遅くまで社に残っているつもりですので」


「ありがとうございます」


 というわけで、これから今度は流れるようにネームを描き始めなければいけないので、互いにご挨拶もそこそこにお見送り。ちょっと残念そうなアメリちゃんでした。



 ◆ ◆ ◆



 二十七日昼。スマホが鳴りました。送話主はまりあさん。仕事をしながら出る。


「こんにちは」


 元気なく応答。


「こんにちは! 『うどんのめがみさま』新作脱稿しました! 最近、神奈さんLIZEのほうにいらっしゃらないので直接ご連絡差し上げましたが、ご迷惑でしたか?」


「いえ、そんなことは。ただもう、仕事が忙しくて……すみません。脱稿、おめでとうございます」


 めでたいのに、ついため息を吐いてしまった。「失礼しました」と謝罪する。


「ありがとうございます。ほんとに、声がお疲れ気味ですね。無理なさらないでください」


「ご心配をおかけします。あと一息ですので、一緒に福井に行くべく頑張ってます」


「はい。本当にご無理だけはなさらないでくださいね? お仕事の邪魔をしてもあれですし、当日色々お話ししましょう」


「はい、失礼します」


 珍しく、栄養ドリンクなどに頼っている私。みんなのために、頑張るぞー!!



 ◆ ◆ ◆



 二十八日五時前、真留さんの本来の退勤時間ギリギリにネーム脱稿!! さっそく送信!


 缶のブラックコーヒーを飲みながら、まんじりともせず結果を待つ。


 今までアメリにかまってあげられなかったので、ぽんぽんと膝を叩き、座らせる。ああ、アメリの頭を落ち着いて撫でるのも久しぶりだな……。


 十五分ほど経ち、「拝見しました。これでお願いします。本当にお疲れ様でした」と、GOサイン! やったあああああああ!! ついに関門クリアだー!!


 あー、もう動けない。燃え尽きましたよ……。


「アメリちゃん、ちょとベッドで仮眠していい?」


「いいよー。アメリも一緒にごろごろするー」


 かくして、溜まった疲れを仮眠で抜くのでした。



 ◆ ◆ ◆



 仮眠から目覚めると、ちょうどお夕飯どき。「クマドナドルハンバーガーチェーン」のデリバリーを頼み、その間明日の荷造り。休んだら、ちょっと体力回復したかな。


 せっかく脱稿したのだから、ぱーっと外食なんかがいいかなあとも思ったけど、運転する元気ナシ。体力は、明日以降のために取っておこう。


 「スポンジ・トム」の、ラッキーセットのおもちゃで喜ぶアメリちゃんを眺めながらハンバーガーを食み、久々に落ち着いた時間を過ごすのでした。


 食後は荷造りの続きだ。あと、もういっちょだけ頑張りましょー!

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