「アメリちゃーん、起きてくださーい」
帰宅したので、アメリを揺すり起こす。
「ん……? 寝てた……?」
「ぐっすりとね。寝かせてあげたいのはやまやまだけど、おうち入ろう?」
「おお~……」
伸びをして眠気を払うお嬢様。本を落としてることを伝えると、のっそり拾いました。まだ眠いのね。
そんなわけで、やっとこくつろぎ空間へ。ただいまの合唱。
「私も疲れちゃったし、ちょっとお昼寝しようか」
「さんせーい」
部屋着に着替え、メイクを落とすと、さっさとベッドに潜り込み横になる私たちでした。
◆ ◆ ◆
ん……? 着信音?
「ふぁい、どちら様でしょう?」
大あくびしながら、例によって送信者も確かめずに出る。
「あ、寝ていらっしゃいました? 白部です。六時から各局で報道特番が流れるようですよ」
なんと! 早いですなー。サイドテーブルの時計を見ると四時。
「いえ、むしろこれ以上寝たら、夜寝れなくなるところでした。お知らせくださり、ありがとうございます」
アメリを起こすといけないので、リビングに移動して通話を続ける。
しかし、私朝はダメなのに、なんでお昼寝から起きるとすぐしゃっきりできるのかしら。
「あれから、何か目立ったことはありましたか?」
「いえ、特番が強いて言うなら一番目立ったことですね。ノーラちゃんもお昼寝中で、今外で話してます」
寝る子は育つ。
「今日はお互い大変でしたね」
「いえいえ。白部さんあれから色々なさってたのでしょう? 白部さんのほうがよっぽど大変ですよ。私、壇上で話しただけですし」
「ありがとうございます。仰る通り、あの後色々細々と。でも、猫崎さんこそ堂々としていて、感銘を受けてしまいました」
「いやー、感銘とはありがたいお言葉ですけど、直前まで酷いアガり方してたんですよ。ただ、白部さんやほかの方々にお力添えいただいたことを思ったら、気を強く持てたんです」
照れくさくて、後頭部を撫でる。その後、他愛もない雑談につながっていき、お疲れ様会ということで報道を見ながら宅飲みしませんか? とお誘いされました。
「アメリちゃんが外に出れないのと、うちが狭いのもあって、猫崎さんのお宅にお邪魔する形になってしまいますが、代わりと言ってはなんですけど、ビール持っていきますよ」
「あら、なんだかすみません。そうですね、お断りする理由もないですし、せめておつまみはこちらで作らせてください」
「わかりました、ありがとうございます。六時少し前に伺いますね。ノーラちゃんの夕ごはんは、お弁当を作っていきますので」
そんなこんなで通話終了。
おつまみってだいたいごはんにも合うからね。アメリのごはんはおつまみと兼用にしましょ。
◆ ◆ ◆
六時手前、インタホンの呼び鈴が鳴りました。応対すると果たして白部さんたちだったので、中にお通しする。
「こんにちはー、アメリちゃん」
「アメリー、こんちはー!」
「おお~! こんにちは~」
キッチンで、アメリと挨拶を交わすお二人。私は門で挨拶を済ませてあります。
「じゃあ、ちゃちゃっと作っちゃいますね。アメリは白部さんたちとお話ししててくれるかな?」
「はーい。今日ね……」
話し相手はアメリちゃんが引き受けてくれたので、根菜とポーク缶でカレー炒めをささっと作る。
「とりあえず、一品できましたー。アメリにはごはんね」
お米をよそい、お茶と一緒に配膳する。
「ノーラちゃんもお茶どうぞ」
と、彼女にも配る。
「ありがとカン姉~」
お弁当箱をぱかっと開けながらお礼を言う彼女。
白部さんが缶ビールを六缶持参されたので、まずはいただきますを合唱。そして、大人組は乾杯。
六時になったのでポータブルテレビをつけると、さっそく特番が始まりました。
まず長野先生に始まり、ほかの先生方はやや駆け足気味にカット。代わりに、白部さんに長尺が割かれました。白部さんは当事者であるものの、研究者でもあるため、実名&ボカシなし。ノーラちゃんはさすがに匿名&ボカシだけど。
それでも、とにかくノーラちゃんをフレームに収めようというカメラワークが、ちょっといやらしい。
「私、こんな感じだったんですねー」
感慨深いのか、あるいはなんだか自分のこととは思えないのかといったご様子で、画面を見つめる白部さん。
彼女の出番は終わり、アナウンサーやコメンテーターが各自の意見を述べる。さすがに当事者白部さんの意見に意地悪言う人はいないようだ。
そして来てしまいました、私の出番! うわあ、ガチガチですよこの人。声が上ずってるし。
しかし、他人事のように実況させてもらうと、冒頭を述べた後はすうっと落ち着いた様子で、ところどころ熱がこもった感じでスピーチを展開していく。は、恥ずかしい……!
そして、最後のほうは少し声が震えていた。加工されているものの、随分声に熱がこもっているのが画面を通すとよく分かる。
「涙を拭う女性」なんてテロップが出て、恥ずかしさMAX! あうう、ビールおかわり!
細々した質疑応答は飛ばされ、最後の「育児とはなんですか?」「愛と導きです」というやり取りで私の出番は締めくくられた。
スタジオに場面が移ると、女性タレントとか泣いちゃってるし! うわー、もう照れくさい! じゃがいも、じゃがいも! カレー味が美味し!
「いやもう、恥ずかしいやら照れくさいやらです」
羞恥心をアルコールで打ち消していると、白部さんが「そんなことないですよ。ご立派でした」と、手放しで称賛してくださる。
すると、スマホが二つ同時に鳴りました。私と白部さんが一斉に取り出すと、私には優輝さん、白部さんも知り合いのどなたかからのコールだった。
「こんばんは! テレビ見てますか、神奈さん!」
「こんばんは。はい、今白部さんがいらしていて、一緒にお酒飲みながら見てました」
「えー、いいなあ! まあ、お二人のお疲れ会でしょうからね。代わりといってはなんですが、今度あたしらとも飲みましょう」
「はい、機会を作って飲みましょう。それにしても、スピーチが感情的すぎてお恥ずかしい限りです」
恐縮して、さらに恥ずかしさをビールで流す。
「いえいえ! 素晴らしいですよ! なんていうか、あたしの気持ちも代弁してくださったっていうか!」
「ありがとうございます。もう、喋るのに必死で、後半作ったカンペの内容結構逸脱しちゃいました」
「いやー、それだけ気持ちがこもったってことですよ! スタジオの雰囲気もいいですし、これで風向きが変わるといいですね!」
たしかに、テレビを見ると論者たちがポジティブに私の言葉を捉え、話し合っている。本当にこれがきっかけで、アメリの運命がいいほうに変わってくれたらいいのだけど。
「あー、白部さんと飲み中でしたね。あんまり邪魔しても悪いな。あとでLIZEで話しましょう! ではまた!」
元気に通話終了する優輝さん。お言葉通り、私のスピーチが本当に嬉しかったんだろうな。
白部さんも通話を終えた模様。由香里さんから賞賛されたとのこと。
互いに、照れくさそうに微笑み合う。
そんな感じで祝福されつつ飲み会は終了。子供たちは楽しそうに恐竜談義してました。
二人がご帰宅された後PCを移動すると、まりあさんからLIZEでお褒めの言葉をいただいていたようです。
ツイスターでは、「賛」大優勢で猫耳人間についての議論が起こっている。これで本当に、潮目が変わるかもしれない。
なんだか嬉しくなって、アメリをぎゅっと抱きしめてしまいました。
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