神奈さんとアメリちゃん

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第三百七十三話 ファンシー歌舞伎ミュージカル!

公開日時: 2021年10月6日(水) 21:01
文字数:2,706

 一階に着いて、またも作戦会議。


「えーと? 一階は、主にショーやムービーを観て楽しむフロアみたいですね」


 イベントならおまかせな優輝さんが、さっそくパンフ片手に仕切り始めます。こういうときって、リーダーがいると楽ね。彼女、根っからのリーダー気質なんだなあ。


「あちゃー、一階で時間取りすぎたなあ。もう、今日の上演終わってる演目ありますよ」


 しくじったと感じたのか、後頭部を撫でて眉をひそめ、恐縮する。


「いえいえ、ライドなんかが早めに楽しめたのは良かったですよ。上演してたということは、そのぶんお客さんが分散してたということですし」


 フォローすると、「そうおっしゃっていただけるとありがたいです」と、再度恐縮。


「前向きにいきましょうか。これからは始まるのは、『プリティーカブキ』……」。


「歌舞伎!?」


 優輝さんがカブキの三文字を口にすると、クロちゃんしっぽがピーン!


「うん、そうみたいだよ。演目は、『ケイティ一座の桃太郎』だって」


「ケイティちゃん!」


 今度は、アメリのしっぽがピーン! 二人とも、大変好みがわかりやすくてよろしい。


「なんか、ほかの候補挙げるまでもなさそうですね。これにしましょうか」


 リーダーが我々を見回すと、一同異議なし。


 上演時間が四十分とのことで、待ち時間も入れるとだいぶ長いねー。


 ま、テーマパークの宿命ですね。今日は平日だから、これでも相当マシなはずだし。



 ◆ ◆ ◆



 やっとこ入場~。はー……ひっさしぶりにゆっくり座れる~。いかにも歌舞伎! な垂れ幕に描かれたケイティちゃんがちょっとシュール。


 開演を知らせるアナウンスが流れ、文字通り開幕!


 幕が上がると、お姉さんお兄さん方が歌って踊る! わっつ!? わ、私の知ってる歌舞伎と違う……。でもあれよね。伝統芸能だってもっと自由でいいんだ。


 その昔、硬直化した歌舞伎界に新風を吹き込もうと、ショーとしての要素を重視した、「ハイパー歌舞伎」なるものを立ち上げた人がいると何かで見た気がする。これも、そうした新風の一環なのだろう。


 歌が終わると、黒子さんがやってきて前説開始。子供相手なのもあって、実にあたり・・・の良い喋りで、子供に歌舞伎に親しんでもらおうという姿勢が伝わってくる。


 そして、歌舞伎のはじまりはじまり~。例の、カカンと音が出るアレが鳴り、きぐるみケイティちゃんが人間が仮装した鬼にさらわれてしまう。おおお? それを、ケイティちゃんの恋人であるマニュエル桃太郎が助けに行くという筋書き。ちゃんと歌舞伎らしく、トットットッと登場!


 へー、こういうアレンジするんだー。面白いなあ。


 ケイテイママからきびだんごを受け取り、「ミント」と「ポンポンゼリー」、そして一応鳥キャラってことでキジ役な「わる丸」をきびだんごでお供に。ミントもゼリーも犬キャラだけど、隈取くまどりを見るにミントがお猿かしらね。みんな、きちんと歌舞伎らしい見得・・を切る。


 ここで、ミュージカルパート。歌は和要素が入ってるけど、ちゃんとミュージカルしてるのが面白い。こういうのを和洋折衷っていうんだろうな。


 で、普通ならマニュエルくん大活躍! ……のはずなんだけど、そこは主演・ケイティちゃん。お転婆なケイティちゃんは自力で脱出しようと鬼のアジトであの手この手で脱出劇を展開! 改心した鬼がケイティちゃんの味方になったり、実にフリーダム。


 こういうのもアリなんだー。勉強になるなあ。


 こうして、ケイティちゃんサイド、マニュエルくんサイドで交互に脱走と進撃が進んでいき、ケイティ姫を鬼が追いかけるという構図に。


 そして、ケイティちゃんとマニュエルくん合流! 大立ち回りが展開されます!


 ケイティちゃんも見ているだけではなく、一度退場した後、天女に早変わり! 何ていうの? 紙ひもの束ををぶわーっと投げて、マニュエルくんを援護! やあ、これは面白いわ~。隣を見ると、アメリも大興奮で応援なう!


 ところが、鬼の首領が現れ、マニュエルくん一行は一気に大ピンチ!


「みんな! 私たちを大声で応援してね!」


 とケイティちゃんが呼びかけると、「みんなでケイティちゃんたちを応援しよう!」と、アナウンスが入る。


 アメリはもう、喉も張り裂けんばかりに「ケイティちゃん頑張れーっ!!」と、拳を突き上げ絶叫! 大人も子供も私も、一緒に声援を送る。


「みんなありがとう! 私もマニュエルたちも、力が湧いてきたわ!」


 ケイティちゃんの声とともに、スポットライトが虹色に! 大立ち回り再開!


 形勢逆転! 鬼たちを逆に追い詰めるマニュエルくん一行とケイティちゃん。


 やがて、首領もケイティ姫を諦め、鬼たちは逃げていきました。


 ケイティ姫を連れ帰り、めでたしめでたしで物語は締め。


 ラストは、首領も含めた鬼たちも帰ってきて、三たびミュージカル! 大団円です!!


 いやー、実に濃厚。歌舞伎って、こういうのもアリなんだなー。


 最後に、演者一同勢揃いの中、ケイティちゃんが終わりの言葉とともに「みんな、見てくれてありがとう!」と結び、閉幕。盛大な拍手が沸き起こる。もちろん、私もアメリも夢中で拍手。


 すべてが終わり、お客さんもぞろぞろと立ち上がるのでした。



 ◆ ◆ ◆



「いやー、思ってた以上に面白かったです!」


 出口の離れで、感想会。賞賛の言葉を述べる。


「ですね! 子供向けのショーと侮るなかれって感じです」


 優輝さんもうんうんとうなずく。子供向けと子供騙しは違うという、いつかのまりあさんの言葉が脳裏をよぎった。


「ボク、歌舞伎初めて観ましたけど、すごく面白いですね!」


 クロちゃん、しっぽを立てて大興奮!


「ケイティちゃん、かっこよかった!」


 アメリも同上!


「悪くなかったわね。将来、同じショービジネスの世界に立つミケとしては、いい参考になったわ!」


 胸を反らしドヤ顔してるけど、しっぽがピーンなミケちゃん。ふふ、楽しかったのね。


「戦闘がかっこよかった! 手を抜いてなくてスゲーぜ!」


 女の子向けコンテンツには消極的なノーラちゃんも、大立ち回りには大興奮だったようで、これまたしっぽピーン! みんな楽しめたようで何より。


「あら、もうすぐ別のショーが始まっちゃいますよ。ケイティちゃんのよ、アメリちゃん」


「おお!? 観るー!!」


 まりあさんに勧められ、別のショーも観劇。こちらも面白かったです。


 第二のショーが終わる頃には、間もなく閉館時間。その際、パレードをやるらしいです。あー、CMで見たことあるー。あれかー!


「夢の大樹の周りでやるらしいですね。座席券が必要みたいですよ」


 夢の大樹は、ライドで見たあの幻想的な大木だ。


「観ましょう、観ましょう! 楽しみ尽くしましょう!」


 あの光景を思い出し、ノリノリな私。食い気味な様子に困惑しつつも、皆さん同意見のご様子で、座席券を買うのでした。

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