神奈さんとアメリちゃん

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第三百八十話 白部さんの大ニュース!!

公開日時: 2021年10月13日(水) 21:01
文字数:2,141

 五時すぎ、ご帰宅される近井さん親子を見送り、炊飯をセットして「さーて、もうひと仕事頑張りますかー」ってな感じに、右腕をぐるぐる回してデスクについたとたん、置いてあったスマホに着信が。


 近井さん、忘れ物でもされたのかしら? などと思って手に取ると、送信者は白部さんでした。


「はい、もしもし?」


「猫崎さん! 何度かチャットで呼びかけたんですけど、ご反応なくて……!」


 おお、テンションが妙に高い。どしたんでしょ?


「あー、すみません。来客がありまして」


「あの、時間があればチャットに入ってきていただけますか!?」


「あ、はい。わかりました。今、起動します」


「お待ちしてます!」


 やー、あんなに興奮してる白部さん珍しいな。しかも、興奮の方向性が猫耳幼女を吸引してるときとは違う。


 どれどれ? 起動~。


 ……えええええーっ!?


 ログを遡ると、白部さんから「猫耳人間人権法案、国会で提出の見込みです!」との一文が!!


 ほかの皆さんも、「猫耳人間人権法案」という八文字の示す重要性に、大興奮!


 さらに読み進めると、ざっくり猫耳人間に人間と同様の人権、および義務を認める法案が、三日後の六月四日に提出されるという。


「あの、白部さんのお言葉を疑うわけではないんですけど、本当に本当なんですよね!?」


 ざっくり読み終わり、急いでタイピング。皆さんからご挨拶され、慌てて挨拶を付け加える。


「はい。上司から少し前に知らされまして、急遽ご報告した次第です」


 なんと……なんとなんと!! これ、アメリを学校に通わせてあげられるの!?


「あの、アメリを学校に通わせてあげられる……ということですよね!?」


「法案の具体的な中身はまだ聞かされていませんが、おそらくは」


 うわあ! うわあ、うわあ~!


「アメリ、アメリ! 学校行けるよ! やったね!!」


 デスクチェアから一気に移動し、折りたたみ机の前ではちろうメンダコで遊んでいた愛娘に、座椅子越しに抱きついて頬ずりする。


「おお~? おねーちゃん、どういうこと?」


「あのね……」


 仕入れたばかりのニュースを、噛み砕いて説明する。


「おお~! お勉強、いっぱいできるの!?」


「そうですよ~!」


 私の中では、成立するかどうかは、これから国会で話し合われることという前提が、もはやすっぽ抜けていました。


 だってね? 与党も野党も反対する理由がないじゃない、こんな素晴らしいこと! 誰も損しないんですもの!


 ああ、成立からどのぐらいしたら正式に効力を持つんだろう? どうしよう、ドキドキが止まらない!


「おお~……おねーちゃん、苦しい……」


「あ、ごめん」


 いけない。興奮しすぎて、強く抱きしめすぎたわ。


 デスクからスマホを取ってきて、アメリに寄り添いながらスマホ版LIZEを起動する。


「すいません、興奮してアメリに抱きついてました。今夜は眠れなそうです」


「猫崎さん、多分通るとは思いますけど、立法が確定したわけではないですから、落ち着いてください」


 白部さんに突っ込まれてしまった。


「あはは……つい」


「お気持ちはわかります。私たち、正式に親になれるかもしれませんからね。かくいう私も、もうそわそわしてまして」


 白部さんも、こういうことの実現に向けて、実際動いていた方のお一人だものねえ。私以上に、嬉しさもひとしおでしょう。


 あの三月末に吹いた風のいたずらが、こんな素晴らしい結果をもたらしてくれるなんて……!


「あ、この件なんですけど、当日正式発表されるまでは秘密にしておいてください。皆さんには、私の友人ということで、一足先に上司にも内緒でお知らせした形なので、ほかの猫耳人間の保護者の方に対して、不公平な話ですから」


「はい、わかりました」


 まりあさん、優輝さんらもご同意。


 お父さんとお母さん、りんちゃん幼馴染や真留さん、いろんな身内に明かしたいけれど、今、白部さんと約束を交わしたからね。あ、そうだ。


「アメリ。この話は私がいいって言うまで、ともちゃんとか、ほかの人には内緒ね?」


「おお? そうなの?」


「うん、白部さんがそうしてくださいって」


「わかった!」


 アメリちゃん、しっかりした子だからきちんと約束を守ってくれるでしょう。我が子ですもの、信頼しなきゃ!


 はー……。一通り興奮しきったら、なんだか脱力してしまった。


 って、仕事! 本業を忘れてはいけませんよ!


「仕事に戻るね」


 アメリに言い残し、デスクに戻る。こころなしか、筆の運びも軽快だ。


 猫アメリとの死別を描いた後で良かったわ。今そのパートを執筆したら、どんな感情で描けばいいかわかんなくなるところだった。


 明日、お祝いに「カトレーヌお菓子屋さん」でケーキ買おう。さすがに一ホール二人で食べたらカロリー摂りすぎだから、普通にカットされたのを二つだね。


 あ、LIZEに着信だ。


「皆さん、明日うちで祝賀会を開きませんか?」


 と、優輝さん。さすが、イベント大好きガール。もちろんOKですとも!


 参加の旨を返信~。ふむ、明日のケーキは必要なくなったね。


 そうこうしてるうちに、ごはんの炊きあがりを知らせるアラームが鳴りました!


「ごはんが炊きあがったので、料理作ってきます。一旦失礼しますね」


 PCをスリープにし、スマホ片手にウキウキで立ち上がる。


「アメリちゃーん、晩ごはん作りにいきますよ~」


「おお~!」


 今日の晩ごはんは、いつも以上に美味しくなりそうです。

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