「はーい。あ、神奈さんと……白部さん!? また、珍しい状況ですね」
かくてるハウスの呼び鈴を押すと、私たちの姿をモニタで確認した優輝さんが、素っ頓狂な声を上げる。まあ、なんでここに白部さんが!? って状況よね。
「白部さん、今朝こちらに越されてきたんですよ。で、そのご挨拶にご一緒した次第です」
「こんにちは。これからお世話になります」
「へー」なんて声を上げて、どうぞと門のロックを外してくれる。
では、お邪魔しましょうか。
◆ ◆ ◆
「あら? こちらの方は……?」
リビングで掃除機を掛けていた由香里さんが掃除機を止め、不思議そうに白部さんを見る。その声につられ、ソファに掛けていたさつきさん、久美さんも「誰?」といった視線を送る。
「あー、三人はまだ会ったことなかったね。白部瑠璃さんだよ。昨日、T総の研究者さんの話したでしょ」
と優輝さんが説明すると、三人とも「あー」と合点が行ったようだ。
「でも、なんでその白部さんがうちにいらっしゃったんすか?」
「はい。そこの斜向かいのアパートに越してきまして。ご挨拶に伺いました」
うーむ、まだ猫被ってるな。内心苦笑する。
めいめい自己紹介していると、ダイニングから出てきたミケちゃんが、アルピス・ソーダ片手にたたたと走り寄って来た。
「あれ!? 白部センセーじゃない! なんでこんなところに!?」
既出質問だけど、改めて説明する白部さん。
「へー。じゃあ、これからはご近所さんなわけね」
「そういうことですね。ところでミケちゃん」
「なーに?」
「その、ぎゅーってしていいかな……?」
もじもじと尋ねる白部さん。出ました! ついに本領発揮!
「ふえ!? な、なんで!?」
「愛です! 私は猫耳人間を、心の底から愛しているので!」
天を仰ぐようなポーズで宣言する白部さん。あーあ、みんな固まっちゃったよ。
「あの……。白部さんって、実はこういうキャラだったんですか?」
優輝さんがこっそり隣に来て耳打ちするので、苦笑して頷く。どうしたものやらという感じで、溜息を吐く彼女。
「というわけで、いいかなミケちゃん!?」
白部さんの鼻息が荒い。大丈夫かな、この人。
「あー、ミケちゃん。ほんとにぎゅーってしたら満足すると思うから、させてあげたらいいんじゃないかな。優輝さん、いかがでしょう?」
「ミケの意思を尊重します」
苦笑しつつ提案してみると、優輝さんが肩をすくめる。
「まあ、ちょっとだけなら……」とミケちゃんが渋々承諾すると、ぎゅーっと抱きしめて、ミケちゃんの匂いを深呼吸。ほんと大丈夫かな、この人。大事なことなので二度思いました。
「じゃあ、次はアメリちゃんね!」
ミケちゃん成分を気の済むまで摂取し終わると、アメリにターゲット変更してくる。うーむ、ミケちゃんを差し出した手前、やめてくださいって言いにくいな。
「アメリ、ぎゅーってさせてあげてくれる?」
「お、おお~? わかった」
許可を得ると、光の速さで抱きしめアメリ成分を摂取。うーん、なんだか私のほうがムズムズしてくるな。
「はーっ……! 堪能しました。やはり、猫耳人間は最高です……」
恍惚とした表情で合掌する白部さん。今、彼女の世界に立ち入れる者はいない。
「あ! せっかくだから、宇多野さんとクロちゃんも呼ぼうっすよ!」
む、被害者を増やす気だな、さつきさん。
「え! クロちゃんも!? お願いします! ぜひ! ぜひ!」
案の定、ものすごい食いつきよう。やれやれ。まあ、ほっといてもこのあと一人でご挨拶に行きそうだしね。
「やー、大ごとになってきたね。あ、そうだ。ご三人ともお昼まだですよね?」
「あ、はい。私たちは。白部さんはいかがですか?」
「私もまだですね」
「じゃあちょうどいい! うちでお昼食べていってくださいよ。腕によりをかけますよ!」
「え、そんな。悪いですよ」
正気に戻った白部さんが、遠慮する。
「あー、白部さん。優輝さんのご厚意は素直に受け取ったほうがいいですよ。彼女、みんなで食事するの大好きなんで」
彼女の性格を説明すると、優輝さんもうんうんと頷いて肯定する。
「そうなんですか……。では、お近づきの意も込めて、いただきますね」
「そうこなくっちゃ! さて、まりあさんに連絡を……」
「あ、それならもう済ませたっす。三十分ぐらいで来るそうっすよ」
さつきさん、こういう仕事早いな。
「あー、念の為に訊くけどな。まさか、まーたピザじゃないよな?」
「えー。そのまさかに決まってるじゃないですかー。大人数用にこれほど適した料理もないでしょ?」
相変わらずのピザ中毒ぶりに、がっくりと項垂れる久美さん。ご愁傷さま。私たちはこうしてたまにいただくからいいけど、本当に優輝さんの担当回はピザばっかりなんだろうなあ。
「今日はね。ミケのだ~い好きな、テリヤキチキンとエビマヨのピザだよー」
「! 久美、いらなかったらミケに全部くれてもいいのよ!?」
わかりやすいムーブに、ぷっと吹いてしまう。ほほえま!
「いや、食わんとは言わねーけどさ……」
久美さんがそう返すと、ミケちゃんあからさまにガッカリ。
「じゃ、あたしは仕込みを始めますんで。適当にくつろいでてください」
キッチンに消えていく優輝さん。
それじゃあ、親睦会を楽しみにしましょう。
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