神奈さんとアメリちゃん

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おまけ編・その六 お久しぶりです、川内さん

公開日時: 2022年5月4日(水) 21:01
更新日時: 2022年5月4日(水) 21:50
文字数:1,890

「猫崎先生~お久しぶり~! もう四年? もっとになるかしらね?」


 屋内に迎えて早々、川内せんだいさんが嬉しそうに抱きついてくる。隣りでは、真留さんが私と川内さんの再会を、微笑ましそうに見つめている。


 川内さんはアラフィフの女性で、体型は歳相応。とにもかくにも、元気そうで良かった。


「アメリちゃんも、真留ちゃんから聞いてたけど、すっかり見違えちゃって!」


 今度は、アメリをハグ。「おお」と、ちょっとびっくりする愛娘。


「ちゃん付けはやめてくださいよ、川内さん……。私ももう、それなりにキャリアありますし」


「あら、ごめんなさいね。オフだから、つい」


 からからと笑う彼女。変わってないなあ。さすがの真留さんも、先輩には敵わないね。


「とりあえず、立ち話もなんですから、リビングへどうぞ。私は、おつまみを作りますね。アメリ、お二人の話し相手をお願いできる?」


「はーい! こっちへどうぞー!」


 そう言って、お二人をリビングに招く我が子。


 さーて、何作りましょうかねー?



 ◆ ◆ ◆



「おまたせしましたー。おつまみ出来ましたので、ダイニングへどうぞー」


 リビングで談笑している三人に声をかけると、喋りながら私の後についてくる。


「ここも変わってないよねー」


 懐かしそうに、室内を見回す川内さん。


「そうですね。寝室は結構変わりましたよ」


「そうなのー。そういえば、リビングに鉢植えがあったわね。あれ何?」


「トマトとバジルですね。今は時期ではないので、わかりにくいですけど」


 「へー」と感心する川内さん。お二人に、ビールをお酌する。アメリは、おなじみのコーラ。


 ビールを注ぎ終わり、着席。


「では、乾杯しましょう。かんぱーい!」


 四人でグラスを掲げる。おーおー、川内さん、いい飲みっぷり!


「いいですねえ。ささ、もう一杯!」


 二杯目をお酌。


「悪いわねえ。猫崎先生といえば、もう『ねこきっく』の看板なのに」


 と言いつつ、すでに上機嫌。川内さんは笑い上戸だ。……まりあさんほどじゃないけど。


「あはは。それもこれも、川内さんに見出していただいたおかげですよ。ありがとうございます」


 深々と頭を下げる。


「もーう、宴席でそういうのはナーシ! 楽しくいきましょ」


 いやはや、すっかり川内さんのペースだね。


「よろしければ、お二人の当時の感じとか伺ってみたいですね」


 ソーセージとポテトのカレー炒めに手を付けつつ、そうおっしゃる真留さん。


「そうねえ、猫崎先生にはかなりボツ出しちゃったわねえ。ごめんなさいね」


「いえいえ。私が未熟だっただけですから。おかげで今があるわけですし」


 どんな大作家、それもレジェンドと呼ばれるような人でも、不遇の時代を過ごさなかった人はいない。初めて書いた作品が大ヒットなんてのがいたら、それは間違いなく生き神か何かだ。


「おかげで私、先生のプロットやネームには、ほとんどボツ出したことないですね」


 ビールを飲みつつ、所感をこぼす真留さん。たしかに、彼女にバトンタッチしてからは、そういう経験がほとんどない。


「へえ! 真留ちゃん、ボツ出ししてないの! それであの出来なんだー。すごいねえ」


 感慨深げな川内さん。ちゃん付けに戻ってますよー。


「少し、訂正はお願いすることがありますけど、まるごとボツとかはないですね」


 「へえー」と、うんうんうなずく前担当。真留さんは、もうちゃん付けをそのままにすることにしたようだ。


「そういえばね、さっきアメリちゃんとお話ししてたんだけど、私のこと、あまり覚えてないみたいなのよ」


「あー……それはすみません」


「おお……ごめんなさい」


 二人で、しゅんとする。


「ううん、謝ること全然ないのよ? 当時、猫ちゃんだったしねえ」


 そう言って、アメリの頭を撫でる。


「まー、あまり会えないけど、なるべくこうして来るからね。ずいぶん姿は変わっちゃったけど、相変わらず人懐っこくて安心したわ」


 手酌しながら、楽しそうに微笑む川内さん。


「真留ちゃんも、春になったら担当替えよねえ?」


「そうですね。猫崎先生の担当を外れるのは寂しくもあり、不安もありますが……新人を育てる番になったという証だと考えています」


「やーだもう、真留ちゃん真面目ー!」


 バンバン彼女の背を叩く前担当。ほんと、川内さんペースだね。


 こうして酒宴は和やかに進んでいき、お開きとなりました。


「それでは、お気をつけてお帰りくださいね」


 夜風が、火照った体に心地いい。


「はーい。先生とアメリちゃんも、元気で!」


「では、失礼します」


 ぺこりとお辞儀し、去って行く二人。アメリも、「ばいばーい!」と声をかける。久しぶりにお会いした川内さんは、相変わらず豪快な方だった。


 さて、後片付けをしたら、酔い醒ましにひと休みしましょうか。

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