「猫崎先生~お久しぶり~! もう四年? もっとになるかしらね?」
屋内に迎えて早々、川内さんが嬉しそうに抱きついてくる。隣りでは、真留さんが私と川内さんの再会を、微笑ましそうに見つめている。
川内さんはアラフィフの女性で、体型は歳相応。とにもかくにも、元気そうで良かった。
「アメリちゃんも、真留ちゃんから聞いてたけど、すっかり見違えちゃって!」
今度は、アメリをハグ。「おお」と、ちょっとびっくりする愛娘。
「ちゃん付けはやめてくださいよ、川内さん……。私ももう、それなりにキャリアありますし」
「あら、ごめんなさいね。オフだから、つい」
からからと笑う彼女。変わってないなあ。さすがの真留さんも、先輩には敵わないね。
「とりあえず、立ち話もなんですから、リビングへどうぞ。私は、おつまみを作りますね。アメリ、お二人の話し相手をお願いできる?」
「はーい! こっちへどうぞー!」
そう言って、お二人をリビングに招く我が子。
さーて、何作りましょうかねー?
◆ ◆ ◆
「おまたせしましたー。おつまみ出来ましたので、ダイニングへどうぞー」
リビングで談笑している三人に声をかけると、喋りながら私の後についてくる。
「ここも変わってないよねー」
懐かしそうに、室内を見回す川内さん。
「そうですね。寝室は結構変わりましたよ」
「そうなのー。そういえば、リビングに鉢植えがあったわね。あれ何?」
「トマトとバジルですね。今は時期ではないので、わかりにくいですけど」
「へー」と感心する川内さん。お二人に、ビールをお酌する。アメリは、おなじみのコーラ。
ビールを注ぎ終わり、着席。
「では、乾杯しましょう。かんぱーい!」
四人でグラスを掲げる。おーおー、川内さん、いい飲みっぷり!
「いいですねえ。ささ、もう一杯!」
二杯目をお酌。
「悪いわねえ。猫崎先生といえば、もう『ねこきっく』の看板なのに」
と言いつつ、すでに上機嫌。川内さんは笑い上戸だ。……まりあさんほどじゃないけど。
「あはは。それもこれも、川内さんに見出していただいたおかげですよ。ありがとうございます」
深々と頭を下げる。
「もーう、宴席でそういうのはナーシ! 楽しくいきましょ」
いやはや、すっかり川内さんのペースだね。
「よろしければ、お二人の当時の感じとか伺ってみたいですね」
ソーセージとポテトのカレー炒めに手を付けつつ、そう仰る真留さん。
「そうねえ、猫崎先生にはかなりボツ出しちゃったわねえ。ごめんなさいね」
「いえいえ。私が未熟だっただけですから。おかげで今があるわけですし」
どんな大作家、それもレジェンドと呼ばれるような人でも、不遇の時代を過ごさなかった人はいない。初めて書いた作品が大ヒットなんてのがいたら、それは間違いなく生き神か何かだ。
「おかげで私、先生のプロットやネームには、ほとんどボツ出したことないですね」
ビールを飲みつつ、所感をこぼす真留さん。たしかに、彼女にバトンタッチしてからは、そういう経験がほとんどない。
「へえ! 真留ちゃん、ボツ出ししてないの! それであの出来なんだー。すごいねえ」
感慨深げな川内さん。ちゃん付けに戻ってますよー。
「少し、訂正はお願いすることがありますけど、まるごとボツとかはないですね」
「へえー」と、うんうん頷く前担当。真留さんは、もうちゃん付けをそのままにすることにしたようだ。
「そういえばね、さっきアメリちゃんとお話ししてたんだけど、私のこと、あまり覚えてないみたいなのよ」
「あー……それはすみません」
「おお……ごめんなさい」
二人で、しゅんとする。
「ううん、謝ること全然ないのよ? 当時、猫ちゃんだったしねえ」
そう言って、アメリの頭を撫でる。
「まー、あまり会えないけど、なるべくこうして来るからね。ずいぶん姿は変わっちゃったけど、相変わらず人懐っこくて安心したわ」
手酌しながら、楽しそうに微笑む川内さん。
「真留ちゃんも、春になったら担当替えよねえ?」
「そうですね。猫崎先生の担当を外れるのは寂しくもあり、不安もありますが……新人を育てる番になったという証だと考えています」
「やーだもう、真留ちゃん真面目ー!」
バンバン彼女の背を叩く前担当。ほんと、川内さんペースだね。
こうして酒宴は和やかに進んでいき、お開きとなりました。
「それでは、お気をつけてお帰りくださいね」
夜風が、火照った体に心地いい。
「はーい。先生とアメリちゃんも、元気で!」
「では、失礼します」
ぺこりとお辞儀し、去って行く二人。アメリも、「ばいばーい!」と声をかける。久しぶりにお会いした川内さんは、相変わらず豪快な方だった。
さて、後片付けをしたら、酔い醒ましにひと休みしましょうか。
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