肝心のパーティー大好きガール優輝さんが、割と修羅場レベルで忙しかったらしいため、延び延びになっていた白部さんの慰労会。
やっとこ優輝さんの手が空いたため、今日開催しましょうと、昨日のスポーツ会の後、打診されました。
返事はもちろんYES。
私も私で忙しいし、昨日遊んじゃったぶん取り戻さないといけないんだけど、私たちのために国会にまで出て奮闘してくださった、大切な友人を労うためですもの! 仕事より優先ですよ! いや、どっちも大事だけど!
連載は進める。読み切りも描く。育児もする。日々の生活に潤いを持たせる。全部やらなきゃいけないってのが、ひとり親漫画家の辛いところよね。好きな仕事で十二分な生活送れてるだけで、すごく恵まれてるけれども。
それはさておき、今日は昼食会ではなくおやつパーティーだそうで。三時ちょっと前集合なのです。
現在、二時。仕事の気分転換込みで寝室のお掃除なう。うちの掃除機はサイクロン式ではなく、オーソドックスな紙パック式。お手入れが楽なんですもん。
しかし、アメリが猫だった頃は毎日「コロコロ」も欠かせなかったけど、今じゃたまにやるだけでいいから楽だわ。
「おねーちゃん」
「ほい?」
ベッドに腰掛けて、本を読んでいたアメリに話しかけられたので、スイッチを一度切る。
「アメリもそれ、お手伝いしたい!」
なんと殊勝な子でしょう!
「そうね。アメリも一度体験しといたら、使い方わかるようになるよね。私が持ってるみたいに構えてみて」
ぴょんとベッドから降り、私の真似をする。
「そうそう。で、『中』っていうボタンを押して」
アメリちゃんがポチッと押すと、掃除機独特の騒音が起きる。
「おお!」
「あとは……先っちょでこのへんやってもらえる? まだそのあたりやってなかったから」
「わかった!」
ぐいーんと、ノズルヘッドを動かす。
「おおお~!」
何やら感動なうなアメリちゃん。ほほえま。
しばし掃除してもらって、お部屋がきれいになりました!
「ありがとー。『切』っていうボタン押してね」
スイッチを切ると、騒音もぴたりと止まる。
「お疲れ様ー。ありがとね」
「おおー! またお手伝いするね!」
ありがたいな。ありがたいけど、まだ子供なのだし、無理させないほうがいのかな? でも、やる気を出してるのに断ったら多分ダメよね。
「ありがとう。そのときはお願いするね」
結局、そう応えた私でした。
◆ ◆ ◆
三時、おめかししてお隣さんにお邪魔中。優輝さんと由香里さんがリビングから外していて、調理の仕上げ中とのこと。
「本当に、今日は私のためにありがとうございます」
じんわり嬉しそうな白部さん。
「いえいえ。わたしたち何もできなかったのに、あのような大役を務められたのですもの」
「そうですよ。実際、あれから確実に前進していて、成立まであと一歩って感じです。すごいですよ! むしろ、優輝さんたちに慰労会も任せっぱなしで、恐縮なぐらいで」
まりあさんと私が、素直な感謝の言葉を述べる。
「神奈サン。優輝はこういうの大好きだから、気にせんでいいよ」
「恐縮です。うちがもっと広かったら、我が家でもパーティーしたいのですけどね」
「わたしもです」
パーティーできるほどには広くない、我が家と宇多野家。パーティー、開けたら楽しいだろうな。
「おまちどう様でしたー。できましたよー」
優輝さんがひょっこりダイニングから顔を出される。待ってました! それでは移動~。
◆ ◆ ◆
机の上には、おっきなパイ! 白部さんの慰労でこれということは……。
「アップルパイですか?」
「イッグザクトリー!」
執事のようにお辞儀する優輝さん。
「二人で、一所懸命作りました。お掛けください」
由香里さんに勧められ、彼女さん以外全員着席。
「では、ご挨拶を……。本日は、あたしたちのためにご尽力してくださった白部さんの慰労会にお集まりいただき、ありがとうございます。無力なあたしに代わって、国会という大舞台でのご活躍、本当に感謝しかありません。というわけで今日は白部さんが愛してやまない、リンゴづくしです!」
優輝さんの言葉に、パチパチと拍手が起こる。
「ありがとうございます。私のほうこそ、このような素敵な会を開いてくださりまして」
お辞儀する白部さん。
「では、切り分けますね。アップルサイダーも、リンゴジュースも用意してあります。お好きなほうを」
「では……両方、とかダメでしょうか?」
「もちろん、構いませんよ」
微笑みながら、サーブしていく由香里さん。大人組も、アップルサイダーのご相伴に預かります。下戸のお二人と子供たちは、リンゴジュース。
給仕が終わると、由香里さんも着席する。
「では、白部さん。音頭取りお願いします」
「はい。いただきます!」
優輝さんに促され、宣言する本日のメインゲスト。私たちも、いただきますと続く。
ああ……このアップルパイ、ほんと美味しい。不思議よね。甘さがピンボケしてないというか。
「とても美味しいです! やはり、何か秘訣があるんでしょうか?」
白部さんが、代わりに質問してくださいました。
「はい。リンゴが大事なんです。これ、紅玉というリンゴで、甘くないんです。アップルパイにするときは、こちらのほうが合うんですよ」
「へえ~」と声を上げる、まりあさん以外の非かくてる一同。
「まりあさんは、ご存じでした?」
唯一、感嘆しなかったまりあさん。ひょっとして、と尋ねてみる。
「はい。絵本のために、焼き菓子について調べたことがありまして。そのときに」
まりあさんとクロちゃん以外が、「ほほ~」と合唱。
そんな感じで、和やかに食を進める一同。
「そろそろ締めですね。こちらをどうぞ」
由香里さんが、冷蔵庫から「ウサちゃんリンゴ」を取り出して配っていく。
「こちらは、ちゃんと甘い品種ですよ」
ふふ、と微笑む彼女。
「ああ、美味しい……! アップルパイもいいですけど、やはり生食がシンプルにして究極ですよね……」
しゃく、しゃく、と噛みしめる白部さん。幼少のみぎりに、リンゴに命を救われた彼女。それ以来、リンゴがソウルフードになった彼女。
白部さんが一噛みするごとに、彼女の中のお母様やかくてるの皆さん、そしてリンゴそのものへの感謝が伝わってくるかのようだ。
いや、彼女のことだから、ノーラちゃんを始め、親しいすべての人に感謝しているのだろう。
私もその中に入っていると思うと、なんだか面映い。
リンゴ祭りも、これにて終了。美味しゅうございました。
「ごちそうさまでした。今日は、本当にありがとうございました。どれも、とても美味しかったです」
微笑む白部さんに続き、ほかの一同もごちそうさま。
パーティーもお開きになり、リビングを通って帰ろうというときに、優輝さんが棚から、紙でくるまれた赤いバラの花束を取り出す。
「こちら、感謝の気持ちです」
花束が、白部さんに手渡される。
「重ね重ね、ありがとうございます……!」
感涙してしまう彼女。深々とお辞儀し、涙を拭う。
「私、今日という日を一生忘れません」
再度お辞儀し、一同から拍手が送られる。
こうして、感動的な慰労会は幕を閉じたのでした。
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