「じゃあ、焼けるまで、お勉強再開しましょうか」
白部さんが、折りたたみ机の上で、プリントをとんとんと整える。「はーい」と、鉛筆を執る子供たち。
「あの、白部さん。私も教師、やっていいですか?」
「私としては、ありがたいですけど……。よろしいんですか? お疲れでしょう」
心配そうな顔をなさる彼女。
「この三ヶ月、子供たちと思いっきり触れ合える機会が少なかったですし、手持ち無沙汰でもありますし」
「わかりました。では、ミケちゃんとクロちゃんをお願いできますか?」
およ。ここでアメリをお願いされないとは。
「アメリでは、ダメなんでしょうか?」
「すみません。上司から、なるべくアメリちゃんのデータを取るようにと、命じられてまして」
ほむ。そういうことでしたら。
「プリントをどうぞ。ミケちゃんは小数の引き算、クロちゃんは分数の引き算に、それぞれ進んでいます」
「ありがとうございます。了解です」
さあさあ、教師・猫崎先生、再始動ですよ!
教えることしばし……。
「へー。こうなるのね」
「そうそう。0.1から0.02を引くとね。こうやって、0.08になるのよ」
「神奈お姉さん。次、ボクいいですか?」
「はーい。えっとね、三分の二から……」
ひえー! 両面指導、忙しい! 白部さんは四面指導していたんだから、恐れ入ります……。
そんなことをやっていたら、アラームが鳴りました!
「あ、焼き上がってるかどうか見てきますね」
「アタシも行きてー!」
「そうね。休憩にしましょうか」
おりょ。なんか、休憩の流れに。でも、白部さんも休みたいでしょうしね。私、両面指導でクタクタになっちゃったもの。
「では、みんなで行きましょー!」
というわけで、カルガモの行列状態でキッチンへ。
「焼けてるかなー……?」
ミトンで型を掴み、竹串を刺すと、生地がまとわりつくこともなく、焼成完了! もう一本は……? こっちもオッケー!
「でっきあがりでーす。今度はこのまま冷ましますねー」
「なんだ、食べないのか?」
残念そうな顔をする、ノーラちゃん。
「ホカホカを通り越して、熱いよ? ほんのり温かいぐらいまで、冷ましたほうが美味しいよー」
「そっかー。残念だな~」
なるほど、さっそく食べたかったのね。
「夏だし、三十分ぐらいかな……? タイマーセット終了! じゃあ、また戻りましょう~」
こうして、カルガモ一行は再び寝室へ。
お勉強を再開し、みんなでこつこつわいわい取り組んでいると、アラームが鳴りました!
「これで、食えるのか!?」
ガタッと机に手をついて中腰になり、しっぽをピンと立てるノーラちゃん。
「ノーラちゃん、お行儀悪いから」
苦言を呈する白部さん。
「ノーラちゃんも待ちわびたことですし、行きましょうか」
カルガモ一行、三度目の行進。
「うん、ほんのりあったか。じゃあ、切りますね」
「それ、アメリがやりたい!」
愛娘、しゅびっと挙手!
「じゃあ、一本任せようか。ほかにやりたい子はいるかなー?」
「ルリ姉、アタシでもできるかな?」
お、チャレンジャー現る。
「なんでも挑戦だね。いいですか、猫崎さん?」
「いいですよ。ただ、付き添ってあげてくださいね」
「それはもちろん。じゃあ、まずは型から抜こう」
というわけで、二人が型から、クッキングシートにくるまれたケーキを抜き、広げると、ケーキが出げ~ん! 「おお~!」と感動する子供たち。
アメリは器用に。ノーラちゃんは白部さんに教わりながら、ケーキを切っていく。
「できた!」
「待って、アメリ。アタシも……できたー!」
二人で、「いえ~い」とハイタッチ。ほほえま。
「じゃあ、寝室でいただきましょうか。白部さん、すみませんけど私のをお願いできますか? 飲み物を持っていきますので」
「わかりました」
カルガモーズ、四度目の行進。
中にぞろぞろ入り、それぞれ配膳。
「では、いただきましょう。みなさん、ご一緒に……」
「「いただきます!」」
六重奏!
ぱくっ。リンゴの甘みと、アーモンドの触感が美味しい~!
「美味しいです、猫崎さん」
微笑む白部さん。ノーラちゃんも、うめーシャウト!
「ふふ、美味しいじゃない。ミケの手作りだけあるわね」
「ボクたち、あまり大したことしてないけどね」
「エツに浸ってるのに、水、差さないでよ~」
漫才する、ミケちゃんとクロちゃん。ふたりとも笑顔です。
「おお~。美味しい! 今度また、自分で作りたい!」
そして、向上心が高い我が娘。
みんな満足してるようで、良き哉良き哉。
こうして、手製のおやつも美味しく食べ終わり、私は片づけと、白部さんとノーラちゃんの、りんごジュースのおかわり。それと、みんなの紅茶を淹れに、キッチンへ。
……戻り!
「じゃあ、猫崎さんも戻られたことだし、続きしようか」
「はーい」と、勉強体勢に移行。
こんな感じで、つつがなく夕方まで勉強をするのでした。
「ボク、そろそろ帰らないと」
「あ、ちょっとまってね。お土産渡すから」
まりあさんのぶんのケーキをラップにくるみ、ビニール袋に入れて手渡す。
「これ、まりあさんに」
「ありがとうございます。お姉ちゃん、喜んでくれるかな……」
はにかむクロちゃん。可愛い。
門まで送り、自転車で帰っていく彼女を見守ります。
ほかのみんなも、五時半に帰宅の用意。ミケちゃんには、かくてるの皆さんのぶんの、ケーキを持たせました。
三人と別れを告げ合い、最後の三つを冷蔵庫に。これは明日、近井さんご一家に渡す予定です。
さーて、原稿の可否はどうかな? チェックしーましょ!
読み終わったら、ポイントを付けましょう!