翌昼のこと、「LIZE」のチャットでお注射克服作戦を実行に移すための打ち合わせ。どうやら、あと少ししてからミケちゃんとクロちゃんがやって来るらしい。あれ、まりあさんはクロちゃんと一緒に来ないのかな? と疑問に思い確認してみると、やはりクロちゃん一人で来るようだ。
数分後、まず家にやって来たのはミケちゃん。門までわくわく状態のアメリと一緒にお出迎えすると、いつものように胸を反らし、腰に拳を当てたドヤポーズを決めている。
「こんにちは! アメリ、遊びに来たわよ!」
「いらっしゃい。アメリ、ミケちゃんが来るって聞いたら、ずっとわくわくしっぱなしだったの」
「おお~! ミケー、今日は何して遊ぶー?」
アメリったら、これから小芝居を打たれるとも思わずハイテンション。一方ミケちゃんは、アメリがわくわくして待っていたなんて話にちょっと照れてるみたい。
「とにかく、お邪魔するわ。あ、これ優輝たちからのお土産」
「あらあら、どうも。そんなに気を使わなくていいのに。後でお礼言わなきゃ」
紙袋を渡してくる。何だろ? 後で開けてみましょ。
彼女を寝室に通して紙袋を確認すると、中身はさすがに手作りではないけどクッキーと、一.五リットル入りコラ・コーラに五百ミリ入りマスペ。マスペは斎藤さんからの贈り物かな。冷蔵庫から出したばかりなのか、まだ冷たい。ありがたや。
早速、二人に出すお茶菓子として使わせてもらい、お仕事を再開。二人は背後でなんかサメトークを繰り広げているだけで、注射の話は出てこないな。クロちゃんも来てからが本番ってことか。
それから少しして、インタホンが鳴る。クロちゃんだろうとアタリを付けて応対すると果たしてクロちゃんで、三人で門までお出迎え。すると、彼女は子供用の自転車を引いていた。
「こんにちは。クロちゃん、自転車乗れるの? すごいね」
「こんにちは。がんばって練習したんです……。中に停めていいですか?」
「どうぞどうぞ」
彼女を自転車ごと前庭に招く。
「おねーちゃん。これ街でもたくさん見たね! なーにこれ?」
「これは自転車。歩くより早く動ける乗り物だよ」
と、おなじみ「これ何?」攻撃をしてくるアメリに教えると、「おお~!」と目を輝かせる。
「すごいね、クロ! アメリも乗ってみたい!」
「練習が必要だよ」
クロちゃんの言葉に、キラキラした瞳を向けてくるアメリ。自転車か……。うちではあまり出番ないかもだけど、興味あるなら買ってあげたいところだ。二人でちょっとサイクリング、なんて洒落込むのも楽しそう。
「あ、これ。お姉ちゃんからのお土産です……」
クロちゃんからも、紙袋を受け取る。ともかくも、彼女も招き入れ再度寝室へ。
◆ ◆ ◆
クロちゃんのお土産は、こちらもクッキーでした。クッキーがダブっちゃったけど、もらい物にケチつけちゃダメよね。
お仕事を再々開して、三人の雑談をBGMに下書きなう。すると、こんな会話が耳に飛び込んできた。
「ねえ、ミケは注射平気?」
クロちゃんの声だ。ついに始まった! 話題の振り方が唐突だけど、親切でやってくれてるんだから素直に感謝。ただ、アメリが不審に思わなければいいなあ……。
「もちろん! ミケ、お姉さんだもの! へーっちゃらよ!」
ミケちゃんは、ちょっと声に力が入りすぎかな。劇団クロミケを、心の中で絶賛応援中!
「ミケの歳で注射が怖いって、ちょっと恥ずかしいもの」
「ボクも、注射は平気だな。アメリは、あれから注射平気になった?」
二人のコンビネーション攻撃!
「ア……アメリは、その、怖い……いや、怖くない、よ。うん……」
「じゃあ、今度の検査ちゃんと受けられるよね?」
「う、うん……」
クロちゃんの念押しに、明らかに声が小さくなっていくアメリ。頑張れー!
「じゃあ、ミケも一緒に行ってアメリの様子見ようかしら」
「うん……」
もはやアメリの声が、ギリギリ聞き取れるぐらいの小ささと化す。
「大丈夫だよ。アメリ強い子だもん。ボク、知ってるよ。アメリが頑張り屋さんだってこと」
「そうね。文字を覚えるのもすごく熱心だし」
一度追い詰めた後、今度は励ます二人。この筋書き考えたの、まりあさんか角照さんか。上手いもんだなー。クロちゃんとミケちゃん二人で、打ち合わせもちゃんとやったんだろうね。
「そうねー。アメリ、すごく頑張る子だもん。私、ほんといつも感心してる」
ここで援護射撃。打ち合わせにはないだろうけど、大丈夫でしょ。
「が……頑張る!」
アメリの決意表明。よーし、いい子いい子!
二人も、ぱちぱちと拍手を送る。私も一緒に送ろう。
その後は子供三人で雑談中心にぬいぐるみや文字学習タブレットで遊びを再開する。
夕方近くになったので、二人は帰ることになった。
「二人とも、またね」
「また遊ぼーねー!」
遊んでテンションがすっかり回復したアメリとともに、二人を見送る。
「ねー、おねーちゃん。アメリも自転車乗ってみたい」
「いいよ。今度買ってあげるね。でも、これは注射のご褒美とかじゃないよ。アメリいい子だから、ご褒美無くても頑張れる子だもんね」
屈んで視線を彼女の高さまで落とし、優しく語りかける。
「……わかった。自転車も、注射も頑張る!」
アメリの、きりりとした表情。そんな彼女を、ぎゅっと抱きしめてあげた。
「本当に、アメリは頑張り屋さんですごい子だよ」
彼女と手を繋いで、屋内に戻る。時間もちょうどいいし、晩ごはん買いに行きましょ。
今日は、アメリのリクエストで作ってあげようっと。
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