神奈さんとアメリちゃん

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第四百五十九話 心配性神奈さん

公開日時: 2022年1月8日(土) 21:01
文字数:2,537

 朝。ぽけ~っと料理をする愛娘の様子を眺める。昨日と打って変わって、しゃきっとしてるように感じる。私は全然しゃきっとしてないけど。


 正直、今の回らない頭じゃアメリの具合は判断できないな。あふう……。


「お待たせー」


「ありがと~」


 食パン式ホットドッグと紅茶を配膳してもらったので、お礼を言う。うちのコーヒーはデカフェしかないから、寝覚めの役には立たないのよね。かといって、普通のコーヒーでも朝の弱さが克服できなかったのは、子供時代に経験済みだし。


「いただきます!」


「いただきます~」


 シェフが宣言したので、私も続く。もぐもぐ……。


「美味しいよ~」


「おお~、ありがとー!」


 うーん。今んとこ、いつもの調子を取り戻したように見えるけど。この子、無理しがちだからな。気をつけてあげないと。ふああ~……。


 うにゅう。まずは、私が調子を取り戻すのが先だねえ。頑張って、ごはん食べましょ。



 ◆ ◆ ◆



 ニュースチェック後、娘と一緒に皆さんに朝のご挨拶。


「おはようございます」


「おはよーございます!」


 おおう、元気ですねえアメリちゃん。カラ元気でないといいのだけど……。


 皆さんも、ご挨拶を返してくださる。


「動画できたよ~。疲れた~」


 久美さんが、ぐったり猫スタンプを貼る。


「お疲れ様でした。後で拝見しますね。そちらの作業はほぼ終了ですか?」


「はい。細かいチェックが終わったら、あとはプレスと製本ですね」


 へばってる久美さんに代わり、優輝さんが回答を引き受ける。


「製本? 説明書ですか?」


 昔は紙の説明書がゲームに付いていたというけど、それかしら?


「あー、いえいえ。コミット購入特典ってことで、ディスクカバーと前日譚の小冊子をつけるんです。頑張って、書き下ろしましたよー」


 へー。


「わざわざ足を運んでもらってるわけですからね。これぐらいしないと」


 サービス精神旺盛だなあ。


「そういえば、コミットの日程って決まったんでしょうか」


 肝心なことを聞き忘れていた。


「はい。あたしらは、八月八日です。ご参加される方は、ご予定空けておいてください。あと、できれば公共交通機関で会場に来ていただけますと」


「自家用車だとまずいですか?」


「まず、駐車場は使えないと思ってください。何十万人が集まるイベントなんで。あたしらは、輸送の関係で仕方なくバン使いますけど」


 ひょえー! 噂には聞いたけど、そんなに人が集まるんだ!


「あ、そうそう。あとカタログも買っておいてください。なくても入れますけど、ないとぶっちゃけ迷います」


 ほへー! なんか魔境じみてるなー。


 ほかにも、キャリーバッグや経口補水液を持っていったほうがいいことなどを教えてもらう。


「なんか、随分過酷な環境みたいですねえ」


「はい。熱中症で倒れる人間が、毎年出ますから」


「ちょっと……友美を連れて行くのはためらわれますね。すみません。興味はあるのですけど、辞退させていただいてもよろしいですか?」


 近井さんが、不安を口にされる。


「もちろん、不参加でも構いませんよ。ともちゃんがもっと大きくなったら、一緒に楽しみましょう!」


 サムズアップ猫スタンプで返す優輝さん。


「アメリたちは大丈夫でしょうか?」


「そうですね……ミケも連れていきますし、あたしたちも余分に経口補水液は用意しておくんで、アメリちゃんぐらいの歳なら、なんとか大丈夫じゃないかなと」


 ちょっと自信なさげな優輝さん。


「私が応急処置ぐらいならできますので、必要とあらば呼んでください」


 白部さんの、心強い援護射撃!


 その後も、参加マナーのレクチャーなんかを受けながら、雑談することしばし。


「すみません、そろそろ仕事に入らないと」


「そうですね。あたしらも最終調整ありますし。それじゃまた、今夜にでも!」


 というわけで、LIZE終了。


 うーん? そういえば、アメリの発言が全然なかったな。まあ、話題についていけなかっただけかもしれないけど……。子供たち、全体に発言少なかったし。


 どうも、さっきからもやもやが引っかかっていけないなあ。


 とにかく、アメリのことは気を配りつつ、お仕事に集中! 真留さんが、優輝さんが、読者の皆さんが、私の原稿を待っている!



 ◆ ◆ ◆



 あ、もうお昼だ。


「アメリちゃーん。お昼にしましょー」


「うん! でも、今日はおねーちゃんに作ってもらっていーい?」


「どこか調子悪いの?」


 不安になって尋ねる。


「ううん。そーゆーわけじゃないけど」


「わかった! おねーちゃん、腕をふるっちゃうよ!」


 そういえば、昨日も私の手料理を頼んできたっけ。やっぱり、なんか心配になっちゃうなあ。



 ◆ ◆ ◆



 お昼も美味しく食べ終わり、お仕事再開。アメリ、食欲はきちんとあるみたいだし、洗い物もしてくれた。まあ、洗い物は食洗機に入れるだけだけども。


 そして、夕食も一応普通に食べ終わりました。ただ、こちらはアメリちゃんが、「全部一人で作るから」と調理。むう。なんか、極端から極端に行くなあ?


 で、お仕事中……。


「おねーちゃん」


「なーに?」


 ベッドに腰掛け読書していたアメリが、声をかけてくる。なんだか、声に元気がないな。


「気を使わせちゃって、ごめんね」


 その言葉を聞いてハッとなる。むしろ、アメリが私の様子を気にしてたんだ!


「ごめん!」


「おお!?」


 デスクチェアからがたっと立ち、ぎゅーっと抱きしめる。


「ごめんね。逆にアメリに心配かけていたんだね。アメリのことが心配で、つい……」


 心から謝罪する。


「おお~……。おねーちゃんは悪くないよー。アメリが気弱すぎたのがいけないんだもん」


「ううん。私がもっとしっかりしなきゃだよね」


 私がアメリを心配していたように、逆にそのことを心配されていたことにまったく気づかないとは、なんとうかつだろう。


 この子は、人一倍気遣いのできる子だ。それゆえに、心配で心配させない・・・・・・・・・っていうのも大事なんだ。


「私、アメリを信用するね。でも、心細くなったり、辛くなったらそのときはきちんと言ってね。約束」


 小指を差し出す。


「おお? どうすればいい?」


「小指を絡めあって」


「こう?」


 指と指が絡まる。


「じゃあ、一緒に。ゆーびきーりげーんまん!」


「おおー。ゆーびきーりげーんまん!」


 「針千本飲ます」は言わない。互いに、そんな酷いことしたくないものね。


 また一歩、親として成長できた。そんな気がするのでした。

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