「……というわけで、ノーラちゃんは転生したんです」
白部さんが皆さんに一通り事情を説明すると、一同感嘆の声を漏らす。白部さんの中では、過失に対する罪悪感をいささかはらみつつも、事故はすっかり「転生のきっかけ」に過ぎないものとして浄化されたようだ。彼女が重い十字架を背負わずに済んで、本当に良かった。
「驚いたっすね。これでもう四人目っすか。F市だけで三人とか、すごいっすねー」
「ノーラちゃん。あたしらのこと、どれぐらい覚えてる?」
「えーっと……このねーちゃんは覚えてる!」
まりあさんを指差すノーラちゃん。まあ、初日に色々お世話したものね。
「そっか、じゃあ自己紹介しなきゃだね。あたしは角照優輝。優輝でいいよ」
優輝さんを含め、皆で順繰りに自己紹介をしていく。まりあさんのことも、名前を覚えていたわけではないようなので、自己紹介。
「私の名前はわかる?」
「ネコ姉! ネコザキってルリ姉が呼んでた!」
「うーん、半分正解。私は猫崎神奈。神奈って呼んでね」
「わかった、カン姉!」
どうも彼女は、名前の前半二文字+姉で私たち大人組を呼び表すようだ。ミケちゃん、クロちゃんは普通に「ミケ」「クロ」と呼んでいる。
「ふっふっふっ。また新しい妹ができてしまったわね……。わからないことは何でもミケに訊くといいわ! お姉さんにまっかせなさーい!」
ドンと胸を叩き、胸を反らしてドヤ顔のミケちゃん。ふふ、お姉さん気分アゲアゲね。
「ボク、あまりお話得意じゃないけど、よろしくね……」
おずおずと手を差し出すクロちゃん。あの内気な子が、こんなに積極的になって……。感動。
「ノーラちゃん、握り返してあげて」
「おー! よろしくなー!」
白部さんに促され握手を交わし、ぶんぶん手を振るノーラちゃん。良き哉良き哉。
「よし! じゃあお祝いにピザでも焼きますか!」
「お前、少しピザから離れろよー」
「冗談ですよ」
優輝さんと久美さんの掛け合いに、一同の笑いが起こる。すっかりピザが持ちネタになったのね、優輝さん。
「ピザってなんだー?」
ただ、ノーラちゃんだけはピザが何かわからず首を傾げている。
「あー、そっか。ピザわからないかー。久美さん、せっかくだからノーラちゃんのためにも焼いてあげていいですか?」
「む~、子供の興味津々な瞳には逆らえないぜ……。わかった、作ってあげてくれ」
「そうこなくっちゃ!」
優輝さんがパチンと指を鳴らし、「じゃあ、仕込んできますねー」と、いそいそとキッチンへ入っていく。冗談として持ちネタにしつつも、やっぱりピザ焼くの好きなのねえ。
待ち時間の間、みんなで映画鑑賞。といっても、優輝さんのコレクションではなく、さつきさんがちょうど借りていたアメコミヒーローもの。趣味が男の子っぽいノーラちゃんは、かっこいいヒーローに大興奮!
途中、「顔を洗う」のを白部さんに注意されたり、トイレの使い方を教えてもらったり。アメリもやってたっけなあ。懐かし。
「焼けましたー。皆さんどうぞー」
優輝さんがキッチンから出てきて呼びかけてきたので、一時停止してみんなでキッチンへ。
「はーい、ノーラちゃん。これがピザだよー」
切り分けながら、ノーラちゃんに説明する優輝さん。今回は、ペパロニとコーンのオーソドックスなピザ。
「おー、これがピザかー! これもスプーンとかいうので食べるのかー?」
「これは手づかみで食べるんだよ。みんなの真似をして食べてね」
優輝さんが微笑む。
「白部さん。アップルサイダーではないですけど、リンゴジュースがありますのでいかがですか?」
「あ、ぜひぜひ。リンゴ大好きなんです! ありがとうございます!」
飲み物を配膳中の由香里さんに尋ねられ、喜んで答える白部さん。へー、リンゴお好きなのね。
「ノーラちゃんも、同じの飲んでみる?」
「おー! ルリ姉と一緒でいいぞー!」
笑顔でゆらゆらするノーラちゃん。このゆらゆら、子供らしいムーブでほほえま!
「神奈さんはダイエット中と伺ってますけど……マスペNGですよね?」
「はい。なので、砂糖抜きのミルク普通で、コーヒーいただけたらありがたいです」
「了解しました~」
ほんと気が利くなあ、由香里さん。
久美さんは、相変わらずの白ワイン。
「じゃあ、飲み物出してるところ悪いんだけど、先に始めちゃっていいかな、由香里?」
「いいよー」
「では、冷めないうちにいただきましょう。いただきます!」
優輝さんの音頭取りで、皆でいただきますの合唱。
「ノーラちゃんも、さっきみたいに『いただきます』って言おうね」
「おー! いただきます!」
白部さんに促され、ノーラちゃんも「いただきます」を言い、皆の真似をしてピザをひと口食べる。
「うめーッ!!」
絶叫したあと、慌てて自分の口を塞ぐ。
「あはは、元気だねえ。元気が一番だ」
うんうん、と笑顔で頷く優輝さん。
「大声出してもいいのか……?」
「うちでならいいよー」
「おー! うめー! うめー!」
ひと口食べるごとに、大声で絶賛するノーラちゃん。
「いい食べっぷりだねー。作ったかいがあるよ」
優輝さんが、嬉しそうに紅茶を飲む。
「この飲み物もうめーな!」
「ふふ、果汁百%のだからね」
由香里さんも笑顔。
「元気な子供っていいよなー。ノラ子に柔道教えてやりたいぜ」
「おー? それアタシのことかー?」
へー、ノーラちゃん男の子っぽいのに一人称「アタシ」なのね。「オレ」「ボク」「アタイ」あたりかと思ってた。
「うん、ウチはミケ子、アメ子、クロ子とかってちびっこたちのこと呼んでる」
「そーなのかー」
ノーラちゃんを中心ににぎやかに会話を繰り広げながら、みんな完食。「ごちそうさまでした」の合唱。
「ノーラちゃんも、食べ終わったらこれをきちんと言おうね」
「わかった! ごちそーさまでした!」
白部さんに促され、ノーラちゃんも「ごちそうさま」を言う。
「お粗末さまでした」
優輝さんが笑顔で締める。
「おー? ピザは粗末なのかー?」
「違うの、作った人が謙遜して言う言葉なのよ」
「ケンソンって何だー?」
「謙遜っていうのはね……」
ノーラちゃんの質問アタックに、一つ一つ答えていく白部さん。ほほえま!
ともかくも、ノーラちゃんの紹介もつつがなく終わりました。彼女はこれから、どう育っていくんだろう。楽しみだな。
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