神奈さんとアメリちゃん

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第百二十三話 ノーラとピザとアップルジュース

公開日時: 2021年4月24日(土) 11:01
文字数:2,516

「……というわけで、ノーラちゃんは転生したんです」


 白部さんが皆さんに一通り事情を説明すると、一同感嘆の声を漏らす。白部さんの中では、過失に対する罪悪感をいささかはらみつつも、事故はすっかり「転生のきっかけ」に過ぎないものとして浄化されたようだ。彼女が重い十字架を背負わずに済んで、本当に良かった。


「驚いたっすね。これでもう四人目っすか。F市だけで三人とか、すごいっすねー」


「ノーラちゃん。あたしらのこと、どれぐらい覚えてる?」


「えーっと……このねーちゃんは覚えてる!」


 まりあさんを指差すノーラちゃん。まあ、初日に色々お世話したものね。


「そっか、じゃあ自己紹介しなきゃだね。あたしは角照優輝。優輝でいいよ」


 優輝さんを含め、皆で順繰りに自己紹介をしていく。まりあさんのことも、名前を覚えていたわけではないようなので、自己紹介。


「私の名前はわかる?」


「ネコ姉! ネコザキってルリ姉が呼んでた!」


「うーん、半分正解。私は猫崎神奈。神奈って呼んでね」


「わかった、カン姉!」


 どうも彼女は、名前の前半二文字+ねえで私たち大人組を呼び表すようだ。ミケちゃん、クロちゃんは普通に「ミケ」「クロ」と呼んでいる。


「ふっふっふっ。また新しい妹ができてしまったわね……。わからないことは何でもミケに訊くといいわ! お姉さんにまっかせなさーい!」


 ドンと胸を叩き、胸を反らしてドヤ顔のミケちゃん。ふふ、お姉さん気分アゲアゲね。


「ボク、あまりお話得意じゃないけど、よろしくね……」


 おずおずと手を差し出すクロちゃん。あの内気な子が、こんなに積極的になって……。感動。


「ノーラちゃん、握り返してあげて」


「おー! よろしくなー!」


 白部さんに促され握手を交わし、ぶんぶん手を振るノーラちゃん。良きかな良きかな


「よし! じゃあお祝いにピザでも焼きますか!」


「お前、少しピザから離れろよー」


「冗談ですよ」


 優輝さんと久美さんの掛け合いに、一同の笑いが起こる。すっかりピザが持ちネタになったのね、優輝さん。


「ピザってなんだー?」


 ただ、ノーラちゃんだけはピザが何かわからず首を傾げている。


「あー、そっか。ピザわからないかー。久美さん、せっかくだからノーラちゃんのためにも焼いてあげていいですか?」


「む~、子供の興味津々な瞳には逆らえないぜ……。わかった、作ってあげてくれ」


「そうこなくっちゃ!」


 優輝さんがパチンと指を鳴らし、「じゃあ、仕込んできますねー」と、いそいそとキッチンへ入っていく。冗談として持ちネタにしつつも、やっぱりピザ焼くの好きなのねえ。


 待ち時間の間、みんなで映画鑑賞。といっても、優輝さんのコレクションではなく、さつきさんがちょうど借りていたアメコミヒーローもの。趣味が男の子っぽいノーラちゃんは、かっこいいヒーローに大興奮!


 途中、「顔を洗う」のを白部さんに注意されたり、トイレの使い方を教えてもらったり。アメリもやってたっけなあ。懐かし。


「焼けましたー。皆さんどうぞー」


 優輝さんがキッチンから出てきて呼びかけてきたので、一時停止してみんなでキッチンへ。


「はーい、ノーラちゃん。これがピザだよー」


 切り分けながら、ノーラちゃんに説明する優輝さん。今回は、ペパロニとコーンのオーソドックスなピザ。


「おー、これがピザかー! これもスプーンとかいうので食べるのかー?」


「これは手づかみで食べるんだよ。みんなの真似をして食べてね」


 優輝さんが微笑む。


「白部さん。アップルサイダーではないですけど、リンゴジュースがありますのでいかがですか?」


「あ、ぜひぜひ。リンゴ大好きなんです! ありがとうございます!」


 飲み物を配膳中の由香里さんに尋ねられ、喜んで答える白部さん。へー、リンゴお好きなのね。


「ノーラちゃんも、同じの飲んでみる?」


「おー! ルリ姉と一緒でいいぞー!」


 笑顔でゆらゆらするノーラちゃん。このゆらゆら、子供らしいムーブでほほえま!


「神奈さんはダイエット中と伺ってますけど……マスペNGですよね?」


「はい。なので、砂糖抜きのミルク普通で、コーヒーいただけたらありがたいです」


「了解しました~」


 ほんと気が利くなあ、由香里さん。


 久美さんは、相変わらずの白ワイン。


「じゃあ、飲み物出してるところ悪いんだけど、先に始めちゃっていいかな、由香里?」


「いいよー」


「では、冷めないうちにいただきましょう。いただきます!」


 優輝さんの音頭取りで、皆でいただきますの合唱。


「ノーラちゃんも、さっきオムライスみたいに『いただきます』って言おうね」


「おー! いただきます!」


 白部さんに促され、ノーラちゃんも「いただきます」を言い、皆の真似をしてピザをひと口食べる。


「うめーッ!!」


 絶叫したあと、慌てて自分の口を塞ぐ。


「あはは、元気だねえ。元気が一番だ」


 うんうん、と笑顔でうなずく優輝さん。


「大声出してもいいのか……?」


「うちでならいいよー」


「おー! うめー! うめー!」


 ひと口食べるごとに、大声で絶賛するノーラちゃん。


「いい食べっぷりだねー。作ったかいがあるよ」


 優輝さんが、嬉しそうに紅茶を飲む。


「この飲み物もうめーな!」


「ふふ、果汁百%のだからね」


 由香里さんも笑顔。


「元気な子供っていいよなー。ノラ子に柔道教えてやりたいぜ」


「おー? それアタシのことかー?」


 へー、ノーラちゃん男の子っぽいのに一人称「アタシ」なのね。「オレ」「ボク」「アタイ」あたりかと思ってた。


「うん、ウチはミケ子、アメ子、クロ子とかってちびっこたちのこと呼んでる」


「そーなのかー」


 ノーラちゃんを中心ににぎやかに会話を繰り広げながら、みんな完食。「ごちそうさまでした」の合唱。


「ノーラちゃんも、食べ終わったらこれをきちんと言おうね」


「わかった! ごちそーさまでした!」


 白部さんに促され、ノーラちゃんも「ごちそうさま」を言う。


「お粗末さまでした」


 優輝さんが笑顔で締める。


「おー? ピザは粗末なのかー?」


「違うの、作った人が謙遜して言う言葉なのよ」


「ケンソンって何だー?」


「謙遜っていうのはね……」


 ノーラちゃんの質問アタックに、一つ一つ答えていく白部さん。ほほえま!


 ともかくも、ノーラちゃんの紹介もつつがなく終わりました。彼女はこれから、どう育っていくんだろう。楽しみだな。

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