「ほんっとーに、神奈は……大胆というか、何というか……」
運転席で、ため息を吐くお母さん。
なにしろ、連絡を受けてロータリーに来てみれば、アメリの耳と尻尾が丸出しだったわけで。
「あはは。いやー、もうね、開き直ることにしたの」
またもため息を吐かれる。
SNSに猫耳素顔のアメリが拡散されてしまったあの日、お母さんからもどういうことかと問い詰められたので事情を話し、また四月三日にテレビに出ることは伝えていたわけだけれども。
肝心の、猫耳丸出しモードにしたことは話し忘れてました! てへぺろ。
「というわけでね、ご近所さんにも、アメリのことをきちんと話すよ」
隣のアメリの頭を撫でると、「うにゅう」とおなじみの気抜け声を上げる。
「そういえば、お父さんは?」
「家で、向井さんご一家とお話ししてるわよ」
「りんちゃん、来てたりする!?」
大型連休も帰省してるだろうか?
「来てるわよー。うちでアメリちゃんのこと話す気?」
「そりゃ、せっかくだし」
「……やれやれ」
三度目のため息。お母さん、ため息ばっかり吐いてるとシワ増えるよ?
◆ ◆ ◆
「たっだいまーっ!!」
久しぶりの実家の玄関で、手を広げて空気を吸い込む。やはり、住み慣れた家の匂いはいいものだ。
「おお~! ただいまー!」
アメリも真似する。可愛い。
リビングからはお父さんたちの談笑が聞こえる。それじゃー、気合い入れてご挨拶といきますかー!
「猫崎神奈、ただいま帰郷しましたー!」
しゅびっと敬礼しながら、リビングのドアを開け放つ。
「おおー! おかえり、神……って、ええええ!?」
お父さんを筆頭に、向井のおじさまやおばさま、はじめ兄ちゃん、彼の奥さん、継男くん、りんちゃんもびっくり。無邪気に笑っているのは、まだ三歳の供子ちゃんだけだ。
お父さんたち酒盛りしていたものだから、酔っ払ってるのかと自分の頬を叩いてみたり。
「いやー、SNSで拡散されてしまったのでご存じかもしれませんが、雨子ちゃん改め、アメリちゃんです!」
手をかざし、ひらひらさせてアピール。横で、お母さん四度目のため息。
輪に混ざり、事情を話す。
「驚いたなー。あのテレビに出てたの、神奈ちゃんだったのかい」
「はい。お恥ずかしながら」
おじさまたち、四月三日の放送は見ていたようだけど、よもやあれが私だとは思わなかったらしい。SNSのほうも、雨子ちゃんとは一度ちょっと顔合わせしただけだから、ピンとこなかったようで。
お母さんがお茶を淹れてくれたので、アメリと一緒にいただく。ふう、ほっとする味。
「あ、こちら東京のお土産です。よろしければ」
向井さんご一家が来ていたのは計算外だったけど、出さないのもね。
「ありがとう。それにしても……いやー、いやいや……」
どうにも相変わらず、夢でも見てるのではないかといった具合のおじさま。
「かんちゃんも、正直に話してくれたら良かったのに」
りんちゃんから文句が飛んでくる。りんちゃんは幼子の育児中であるゆえ、素面だ。
「ごめんね、隠してて。ほんとに、この子が世の中に受け入れてもらえるか、不安だったから」
慈愛の眼差しで愛娘を見つめ、頭を撫でる。
「まあ、そう言われたらね……。私やお父さんたちは受け入れられたかもだけど、ほかの人はどうかわからないし」
やむなしという感じで語りつつ、お母さんがお皿に空けた「TOKIOばななん」を供子ちゃんに食べさせてあげるりんちゃん。
「そういうわけで、うちの娘をこれからもよろしくお願いします」
皆様に、深々とお辞儀する。
「かんちゃんにとっては、やっぱり我が子同然なんだね」
はじめ兄ちゃんが感慨深げに頷く。
「うん。実の娘だと思って、大切に育ててるよ。同時に、妹でもある感じかな」
ほほー、と声を上げる彼。
「いやまあ、びっくりしたけど、とりあえず気を取り直して呑み直そうか。神奈ちゃんもどうだい?」
と、おじさま。
「そうですね、軽く一杯いただきます」
おちょこが用意されたので、くいっといく。いいお酒だ。ほう、と息を吐く。
「美味しいですね。これはおじさまが?」
「うん。富久津だよ」
「神奈ー。向井さんたちとばっかり話してるじゃないか。お父さんとも、もっと話しておくれよ」
「はいはい。もう、子煩悩なんだから」
私の子煩悩は、間違いなくお父さん譲りだな。
アメリがいるので飲酒は一杯だけにとどめ、あとはお茶菓子をいただきながら談話。お昼はさっき食べたからね。
当のアメリは継男くんと意気投合したようで、恐竜トークを繰り広げている。このぐらいの子供って、男女に関わらず仲良くなって、ほほえまね!
酒盛りも終わり、向井さんご一家も帰られたので、仏間でおじいちゃんとおばあちゃんにご挨拶を終え、荷物を二階に運んだ後、家族水入らずの時間に突入。
「いやー、話には聞いてたけど、まさか猫耳丸出しで帰って来るとは思わなかったよ」
お父さんにも言われてしまった。
「本当にねえ」
お母さん、五度目のため息。うう、両面攻撃しないでよー。
「おとーさん、おかーさん、おねーちゃんをいじめないでー。アメリが、帽子飛ばされたのがいけなかったの……」
援護に入ってくれるナイト様。
「え!? いやいや。いじめてはいないよ? ただ、びっくりしたんだ」
「そうそう!」
慌ててフォローするお父さんたち。ふふ、孫にたじたじだ。
「あ、そうだ。明日から東京のお友達を福井案内するから、車使わせてね。軽のほうでいいから」
「あー、連れてくるって言ってたね。一度お会いしてみたいものだけど」
「うーん、皆さん多分レンタカー使うから、難しいかなあ」
軽く見て車二台を余分に停めるスペースは、さすがの広い我が実家にもない。
「残念だな」
「まあ、私からよろしく言っとくよ。あ、お母さん。お茶、おかわりいい?」
かくして、五ヶ月ぶりに親に甘える私でありました。
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