神奈さんとアメリちゃん

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第三百二十一話 向井さんもびっくり

公開日時: 2021年8月15日(日) 21:01
更新日時: 2021年8月18日(水) 19:24
文字数:2,340

「ほんっとーに、神奈は……大胆というか、何というか……」


 運転席で、ため息を吐くお母さん。


 なにしろ、連絡を受けてロータリーに来てみれば、アメリの耳と尻尾が丸出しだったわけで。


「あはは。いやー、もうね、開き直ることにしたの」


 またもため息を吐かれる。


 SNSに猫耳素顔のアメリが拡散されてしまったあの日、お母さんからもどういうことかと問い詰められたので事情を話し、また四月三日にテレビに出ることは伝えていたわけだけれども。


 肝心の、猫耳丸出しモードにしたことは話し忘れてました! てへぺろ。


「というわけでね、ご近所さんにも、アメリのことをきちんと話すよ」


 隣のアメリの頭を撫でると、「うにゅう」とおなじみの気抜け声を上げる。


「そういえば、お父さんは?」


「家で、向井さんご一家とお話ししてるわよ」


「りんちゃん、来てたりする!?」


 大型連休も帰省してるだろうか?


「来てるわよー。うちでアメリちゃんのこと話す気?」


「そりゃ、せっかくだし」


「……やれやれ」


 三度目のため息。お母さん、ため息ばっかり吐いてるとシワ増えるよ?



 ◆ ◆ ◆



「たっだいまーっ!!」


 久しぶりの実家の玄関で、手を広げて空気を吸い込む。やはり、住み慣れた家の匂いはいいものだ。


「おお~! ただいまー!」


 アメリも真似する。可愛い。


 リビングからはお父さんたちの談笑が聞こえる。それじゃー、気合い入れてご挨拶といきますかー!


「猫崎神奈、ただいま帰郷しましたー!」


 しゅびっと敬礼しながら、リビングのドアを開け放つ。


「おおー! おかえり、神……って、ええええ!?」


 お父さんを筆頭に、向井のおじさまやおばさま、はじめ兄ちゃん、彼の奥さん、継男くん、りんちゃんもびっくり。無邪気に笑っているのは、まだ三歳の供子ちゃんだけだ。


 お父さんたち酒盛りしていたものだから、酔っ払ってるのかと自分の頬を叩いてみたり。


「いやー、SNSで拡散されてしまったのでご存じかもしれませんが、雨子ちゃん改め、アメリちゃんです!」


 手をかざし、ひらひらさせてアピール。横で、お母さん四度目のため息。


 輪に混ざり、事情を話す。


「驚いたなー。あのテレビに出てたの、神奈ちゃんだったのかい」


「はい。お恥ずかしながら」


 おじさまたち、四月三日の放送は見ていたようだけど、よもやあれが私だとは思わなかったらしい。SNSのほうも、雨子・・ちゃんとは一度ちょっと顔合わせしただけだから、ピンとこなかったようで。


 お母さんがお茶をれてくれたので、アメリと一緒にいただく。ふう、ほっとする味。


「あ、こちら東京のお土産です。よろしければ」


 向井さんご一家が来ていたのは計算外だったけど、出さないのもね。


「ありがとう。それにしても……いやー、いやいや……」


 どうにも相変わらず、夢でも見てるのではないかといった具合のおじさま。


「かんちゃんも、正直に話してくれたら良かったのに」


 りんちゃんから文句が飛んでくる。りんちゃんは幼子の育児中であるゆえ、素面だ。


「ごめんね、隠してて。ほんとに、この子が世の中に受け入れてもらえるか、不安だったから」


 慈愛の眼差しで愛娘を見つめ、頭を撫でる。


「まあ、そう言われたらね……。私やお父さんたちは受け入れられたかもだけど、ほかの人はどうかわからないし」


 やむなしという感じで語りつつ、お母さんがお皿に空けた「TOKIOばななん」を供子ちゃんに食べさせてあげるりんちゃん。


「そういうわけで、うちの娘をこれからもよろしくお願いします」


 皆様に、深々とお辞儀する。


「かんちゃんにとっては、やっぱり我が子同然なんだね」


 はじめ兄ちゃんが感慨深げにうなずく。


「うん。実の娘だと思って、大切に育ててるよ。同時に、妹でもある感じかな」


 ほほー、と声を上げる彼。


「いやまあ、びっくりしたけど、とりあえず気を取り直して呑み直そうか。神奈ちゃんもどうだい?」


 と、おじさま。


「そうですね、軽く一杯いただきます」


 おちょこが用意されたので、くいっといく。いいお酒だ。ほう、と息を吐く。


「美味しいですね。これはおじさまが?」


「うん。富久津ふくつだよ」


「神奈ー。向井さんたちとばっかり話してるじゃないか。お父さんとも、もっと話しておくれよ」


「はいはい。もう、子煩悩なんだから」


 私の子煩悩は、間違いなくお父さん譲りだな。


 アメリがいるので飲酒は一杯だけにとどめ、あとはお茶菓子をいただきながら談話。お昼はさっき食べたからね。


 当のアメリは継男くんと意気投合したようで、恐竜トークを繰り広げている。このぐらいの子供って、男女に関わらず仲良くなって、ほほえまね!


 酒盛りも終わり、向井さんご一家も帰られたので、仏間でおじいちゃんとおばあちゃんにご挨拶を終え、荷物を二階に運んだ後、家族水入らずの時間に突入。


「いやー、話には聞いてたけど、まさか猫耳丸出しで帰って来るとは思わなかったよ」


 お父さんにも言われてしまった。


「本当にねえ」


 お母さん、五度目のため息。うう、両面攻撃しないでよー。


「おとーさん、おかーさん、おねーちゃんをいじめないでー。アメリが、帽子飛ばされたのがいけなかったの……」


 援護に入ってくれるナイト様。


「え!? いやいや。いじめてはいないよ? ただ、びっくりしたんだ」


「そうそう!」


 慌ててフォローするお父さんたち。ふふ、孫にたじたじだ。


「あ、そうだ。明日から東京のお友達を福井案内するから、車使わせてね。軽のほうでいいから」


「あー、連れてくるって言ってたね。一度お会いしてみたいものだけど」


「うーん、皆さん多分レンタカー使うから、難しいかなあ」


 軽く見て車二台を余分に停めるスペースは、さすがの広い我が実家にもない。


「残念だな」


「まあ、私からよろしく言っとくよ。あ、お母さん。お茶、おかわりいい?」


 かくして、五ヶ月ぶりに親に甘える私でありました。

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