神奈さんとアメリちゃん

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第三百三十二話 はたらくアメリちゃん

公開日時: 2021年8月26日(木) 21:01
更新日時: 2021年8月28日(土) 19:18
文字数:2,093

 ピピピ……ピピピ……。


 ん。一時間経ったのか。ふわあ~。仮眠終了。


「アメリちゃーん、起きてくださーい。夜、眠れなくなっちゃいますよー」


「おお~……? おはよー……」


 むにゃむにゃと目をこする眠り姫。


 お風呂から上がったら一気に疲れと眠気が襲ってきて、仕方がないので一時間だけ仮眠することにしたのです。


「とりあえず、柏餅食べよう。用意してくるね」


 お茶と一緒に、置いておいた柏餅を持ってくる。


「じゃ、いただきますして食べよう。いただきまーす」


「おおー。いただきまーす」


 そのままかぶりつこうとするアメリ。


「すとーっぷ! その葉っぱは剥がしてからね。良い忘れてたわ」


「おお? そうなの?」


 改めて、葉っぱを剥がし、かぶりつくアメリちゃん。


「美味しい!」


 キラキラ瞳を向けてくる。


「美味しいよねー。これにお茶が合うのよ」


 ぐびっとな。はー、和菓子と緑茶は最強の組み合わせね!


 互いに、二つめに手を付ける。残念ながら、そんなにお菓子食べすぎてもあれなので、四つしか買っていないのです。名残り惜しや。


「美味しかったー! ごちそーさまー!」


 アメリちゃん大満足。良きかな良きかな


「ほかにも美味しいお菓子いっぱいあるから、色々買ってみようね」


 私は道明寺が好物なのだけど、そういえばアメリが転生してからなんか食べてないな。今度買ってこよう。


 さて、ごちそうさましたあとは片付けて……。コーヒー牛乳片手に戻り。福井から帰って早々、お仕事ですよ。


「おおー、おねーちゃんお仕事するのー?」


「うん。休みたいのは山々だけど、増刊号の仕事がね」


 まずは、連載のほうから下書きを開始する。増刊号の原稿は八月末に納品しなければならない。単純計算で、普段の三割以上仕事が増える計算だ。しかも七月には単行本化作業もあり、なかなかにハードスケジュール。


 とにかく、今のうちから早いペースで進めていかないと。


「おねーちゃん、今日のごはんアメリが作っていい? 全部、一人で作ってみたいの」


「ほえ!?」


 唐突な申し出に、変な声を出してしまう。


「気持ちはありがたいけど……心配だよ」


「アメリ、もっとおねーちゃんの力になりたいの!」


 なんて殊勝な子でしょう!


「うーん……じゃあ、すごく簡単なものをお願いしようかな」


 ネットにあった、わかめうどんのレシピをプリントアウトする。アメリが読めなそうな漢字にはふりがなを振って、乾物や調味料の位置も書いて……と。


「これ、六時になったらお願いしていい?」


「任せて!」


 ドンと胸を叩くお嬢様。頼もしい。


「じゃあ、お願いね。それまで、ちょっと一人で遊んでてもらえるかな? 構ってあげられなくてごめんね」


「はーい」


 かくして、アメリを信頼して仕事に打ち込むのでした。



 ◆ ◆ ◆



 執筆に打ち込んでいると、アラームが鳴りました。


「あ、六時ですよ、アメリちゃん」


「おー、作ってくる!」


 レシピと配置図片手に、とことことキッチンに向かう。


「無理はしないでねー。何かあったらすぐに呼ぶのよー!」


 通り過ぎる背中に声をかけると、「はーい」とお返事。では、待ってましょう。


 すらすら。すいすい。


 執筆に打ち込めるのはいいけど、心配だなあ。でも、子を信じるのも親の努めのうちよね。


「おねーちゃーん!」


 アメリがたたたと駆けてきて、ドアを開ける。


「どうしたの!? なにかあった!?」


 不安に心臓が跳ね上がりそうになる。


「できたよー!」


 お陽様笑顔。反動で、一気に脱力してしまう。


「そっか、頑張ったねー。じゃあ、ごはんにしましょ」


「うん!」


 頭をよしよしと撫でた後、二人仲良くキッチンへ。



 ◆ ◆ ◆



 テーブルの上には、ぶっかけの冷わかめうどんと、お茶が載っておりました。


「お茶までれてくれたんだ。すごいねー」


 素直な賞賛を述べると、「えへへー」と照れる愛娘。可愛い。


「じゃ、いただきますしましょうか。今日はアメリちゃんが作ったから、音頭とってね?」


「おんど?」


 首を傾げる彼女。


「いつもの、いただきますってやつ」


「おおー。いただきます!」


「いただきます!」


 私のほうにはチューブわさびを入れ、つるつるっと。美味しい!


「ちゃんと出来てる! 上手上手!」


 パチパチと拍手すると、「うにゅう」と気抜け声を上げて、後頭部を撫でながら照れる。ほほえま~。


 お茶もちゃんとお茶用のポットかられてくれたようで適温! こっちも美味しいわあ。


「アメリ、お茶れるの上手ねえ」


「あのね、前にクロが教えてくれたの!」


 なるほど。たしかに詳しそうだ。


 それにしても、この子はすごいスピードで自立していくなあ。こんなに成長が早いと、なんだか逆に不安になってしまう。


「アメリ、無理とかしてないよね?」


「んー? 別にしてないよー?」


 きょとんと、不思議そうに見つめ返されてしまう。


 人間の子供と比べるからいけないのかな。でも、あとで白部さんにちょっと相談してみたいところだ。


 アメリが後片付けもやりたいというので、そちらもお任せしてみることに。どうも、我が子を酷使する鬼親みたいで自責の念が咎めるけど、制止しようとすると、逆に残念そうな顔するのよねえ。


 自分自身のもやもやに整理をつけるためにも、後でさっそく白部さんに相談してみましょう。そうしましょう。

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