ピピピ……ピピピ……。
ん。一時間経ったのか。ふわあ~。仮眠終了。
「アメリちゃーん、起きてくださーい。夜、眠れなくなっちゃいますよー」
「おお~……? おはよー……」
むにゃむにゃと目をこする眠り姫。
お風呂から上がったら一気に疲れと眠気が襲ってきて、仕方がないので一時間だけ仮眠することにしたのです。
「とりあえず、柏餅食べよう。用意してくるね」
お茶と一緒に、置いておいた柏餅を持ってくる。
「じゃ、いただきますして食べよう。いただきまーす」
「おおー。いただきまーす」
そのままかぶりつこうとするアメリ。
「すとーっぷ! その葉っぱは剥がしてからね。良い忘れてたわ」
「おお? そうなの?」
改めて、葉っぱを剥がし、かぶりつくアメリちゃん。
「美味しい!」
キラキラ瞳を向けてくる。
「美味しいよねー。これにお茶が合うのよ」
ぐびっとな。はー、和菓子と緑茶は最強の組み合わせね!
互いに、二つめに手を付ける。残念ながら、そんなにお菓子食べすぎてもあれなので、四つしか買っていないのです。名残り惜しや。
「美味しかったー! ごちそーさまー!」
アメリちゃん大満足。良き哉良き哉。
「ほかにも美味しいお菓子いっぱいあるから、色々買ってみようね」
私は道明寺が好物なのだけど、そういえばアメリが転生してからなんか食べてないな。今度買ってこよう。
さて、ごちそうさましたあとは片付けて……。コーヒー牛乳片手に戻り。福井から帰って早々、お仕事ですよ。
「おおー、おねーちゃんお仕事するのー?」
「うん。休みたいのは山々だけど、増刊号の仕事がね」
まずは、連載のほうから下書きを開始する。増刊号の原稿は八月末に納品しなければならない。単純計算で、普段の三割以上仕事が増える計算だ。しかも七月には単行本化作業もあり、なかなかにハードスケジュール。
とにかく、今のうちから早いペースで進めていかないと。
「おねーちゃん、今日のごはんアメリが作っていい? 全部、一人で作ってみたいの」
「ほえ!?」
唐突な申し出に、変な声を出してしまう。
「気持ちはありがたいけど……心配だよ」
「アメリ、もっとおねーちゃんの力になりたいの!」
なんて殊勝な子でしょう!
「うーん……じゃあ、すごく簡単なものをお願いしようかな」
ネットにあった、わかめうどんのレシピをプリントアウトする。アメリが読めなそうな漢字にはふりがなを振って、乾物や調味料の位置も書いて……と。
「これ、六時になったらお願いしていい?」
「任せて!」
ドンと胸を叩くお嬢様。頼もしい。
「じゃあ、お願いね。それまで、ちょっと一人で遊んでてもらえるかな? 構ってあげられなくてごめんね」
「はーい」
かくして、アメリを信頼して仕事に打ち込むのでした。
◆ ◆ ◆
執筆に打ち込んでいると、アラームが鳴りました。
「あ、六時ですよ、アメリちゃん」
「おー、作ってくる!」
レシピと配置図片手に、とことことキッチンに向かう。
「無理はしないでねー。何かあったらすぐに呼ぶのよー!」
通り過ぎる背中に声をかけると、「はーい」とお返事。では、待ってましょう。
すらすら。すいすい。
執筆に打ち込めるのはいいけど、心配だなあ。でも、子を信じるのも親の努めのうちよね。
「おねーちゃーん!」
アメリがたたたと駆けてきて、ドアを開ける。
「どうしたの!? なにかあった!?」
不安に心臓が跳ね上がりそうになる。
「できたよー!」
お陽様笑顔。反動で、一気に脱力してしまう。
「そっか、頑張ったねー。じゃあ、ごはんにしましょ」
「うん!」
頭をよしよしと撫でた後、二人仲良くキッチンへ。
◆ ◆ ◆
テーブルの上には、ぶっかけの冷わかめうどんと、お茶が載っておりました。
「お茶まで淹れてくれたんだ。すごいねー」
素直な賞賛を述べると、「えへへー」と照れる愛娘。可愛い。
「じゃ、いただきますしましょうか。今日はアメリちゃんが作ったから、音頭とってね?」
「おんど?」
首を傾げる彼女。
「いつもの、いただきますってやつ」
「おおー。いただきます!」
「いただきます!」
私のほうにはチューブわさびを入れ、つるつるっと。美味しい!
「ちゃんと出来てる! 上手上手!」
パチパチと拍手すると、「うにゅう」と気抜け声を上げて、後頭部を撫でながら照れる。ほほえま~。
お茶もちゃんとお茶用のポットから淹れてくれたようで適温! こっちも美味しいわあ。
「アメリ、お茶淹れるの上手ねえ」
「あのね、前にクロが教えてくれたの!」
なるほど。たしかに詳しそうだ。
それにしても、この子はすごいスピードで自立していくなあ。こんなに成長が早いと、なんだか逆に不安になってしまう。
「アメリ、無理とかしてないよね?」
「んー? 別にしてないよー?」
きょとんと、不思議そうに見つめ返されてしまう。
人間の子供と比べるからいけないのかな。でも、あとで白部さんにちょっと相談してみたいところだ。
アメリが後片付けもやりたいというので、そちらもお任せしてみることに。どうも、我が子を酷使する鬼親みたいで自責の念が咎めるけど、制止しようとすると、逆に残念そうな顔するのよねえ。
自分自身のもやもやに整理をつけるためにも、後でさっそく白部さんに相談してみましょう。そうしましょう。
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