「昇級おめでとー!!」
みんなでバンザイ猫スタンプをぺたぺた貼りまくる。
夕方、「昇給できました」と、クロちゃんからLIZEに祝報が入ったからです。
「今日は奮発して、お寿司の出前とっちゃいましたよ!」
まりあさんも大喜び。
「素朴な疑問なんだけど、教室内全体での強さ的にはどうなん?」
久美さんが、疑問を呈する。
「中の上ぐらいです。もっと精進を重ねたいと思います」
精進を重ねる! 相変わらず、幼女の言葉じゃないわね。まあ、そのギャップが可愛いんだけど。
「ただ……」
ん? クロちゃんの様子が……。
「ボクに負けた先輩、すごく悔しそうにしていて。なんだか、申し訳ない気分でもあるんです」
まりあさんに似て、優しい子だ。でも、彼女は勝負の世界を目指した。ならば、かける言葉は決まっている。
「クロちゃん。勝負とか競争って、そういうものよ。私は『ねこきっく』の看板作家を八年続けているけど、そのぶん誰かの成功の機会を奪っているの。みんな仲良く、ってできたら理想的なんだけど、そうもいかないんだ」
「そう、ですよね……」
うーん、やはり元気がない。
「クロちゃん。優しさは美徳だよ。でも、クロちゃんはそれだけじゃ済まない世界に、足を踏み入れようとしているんだ。それとも、プロ棋士諦める?」
「いえ! ボク、絶対非女流で、タイトル所持者になってみせます!」
「うん。だから、気に病んじゃダメ。それは、負かした相手にも失礼だから。もちろん、敬意は忘れずにね」
しばらくの間。
「そう、ですね。ボクが進もうとしているのは、厳しい世界なんですもんね。アドバイス、ありがとうございます!」
ガッツポーズ猫スタンプ。
「わたしが言わなければいけないことを、神奈さんに言われてしまいましたね。すみません、わたしもどうにも、勝負魂みたいのが薄いタイプなもので」
まりあさんの、お辞儀猫スタンプ。
「いえいえ。まりあさんの物語の優しい世界は、そうした精神性の賜物ですから。まりあさんは、それでいいんだと思います」
「今日は語りますねえ、神奈さん」
優輝さんが、言葉を挟む。
「あ、すみません。でしゃばりすぎでしたか?」
「いえ、そんなことは。しかし、ミケにはなさそうな悩みだなあと思いまして」
「そーよ! NKMのセンターに、絶対なってみせるわ! 誰かと競わなければいけないなら、それを乗り越えるだけよ!」
うーむ、こうも性格が間逆だと興味深いね。白部さん、裏で必死にデータ取ってそう。
「ノーラちゃんも、勝負魂が強そうなタイプですよね」
「そうですね。今はとにかく、『レギュラーになるんだー!』って、一心不乱に練習に励んでいます」
良き哉良き哉。
翻って、うちのお嬢様はどうなんだろう?
アメリが進もうとしているのは、勝負事の世界ではないけれど、将来的に教育を受けられるようになったら、受験やなんやを経験していくだろう。
この子は、勝ち負けには全くこだわらないタイプだけど、そういうのが明暗を分けるような場面では、どう出るのだろうか?
今考えてもせんないことだけど、流れ的にちょっと気になった。
「そーいえばね! 争いが、まったくなかった時代があったんだって!」
唐突に切り出してくる張本人。
「原始時代とか?」
「んーん。エディアカラ紀っていって、アノマロカリスとかがいた、カンブリア紀よりもずっと昔なの!」
あ。古生物のお話でしたか。ていうか、こっちはこっちで八歳児の言葉じゃないわね。スマホを手に入れてから、加速度的に知識量が増加してる。やっぱすごい子だわ。
「その時代はね、弱肉強食がなくて、とても平和な楽園だったんだって!」
へー。驚いたわね。ことによると、私より博識なんじゃない?
「あー。わたし高校では生物選んだから、ちょっとだけ学んだことあります」
由香里さんが話に混ざってくる。
「アメリちゃんすごいねー。そんなことまで、お勉強してるんだ」
「うん!」
「スマホを与えたら、食い入るように調べ物するようになりまして。こないだなんか、ダークエネルギーがどうとか質問されてしまいました」
「ダークエネルギー?」
白部さん除く一同、疑問符を浮かべる。
「ええと、たしか天文用語です。驚きました。独学で、そんな勉強してるんですか」
白部さんが興味深げに付け加える。多分、例の特別カリキュラムについて思いを馳せているのでしょう。私も、現実味を実感しています。
「文系のわたしには、なにがなにやらですねえ」
まりあさんも、どう返したものかといったご様子。
「おお? アメリ、変な話した?」
「ううん。ちょっと、アメリちゃんが頭良すぎて、みんなびっくりしただけ」
安心させる白部さん。
「良かった! もっと、いろんなことお勉強するね!」
すごいな。知識欲の化身だ。そして、驕ることがない。
「ミケも、横で口をあんぐりしてますね。ここまでくると、悔しいとか、そういうレベルを超えてしまったようです」
さすがのミケちゃんも、おとなしい。
「なんか、白部センセーたちが言ってた、得手不得手が心で納得できた感じ……。ミケは、アイドルとしてお姉さんするわ」
お姉さんって、動詞だっけ? まあ、言わんとすることはわかるけど。
「あ、お寿司が来たみたいです。それでは、お先に失礼しますね」
「失礼します。お祝い、ありがとうございました」
まりあさんとクロちゃんが退出を告げる。
「もう、お夕飯どきだねー。わたしもごはんつーくろ。では、失礼します」
「だね。じゃ、あたしらもこのへんで。失礼します」
かくてるハウスの皆さんも退出。
「では、私も失礼します。ごはん作りにいきますね」
「お疲れ様でした。私は、まとめるデータがいっぱいですよ」
残った白部さんとも別れを告げ、LIZEを落とす。
改めて思う。すごいな、うちの子。
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