神奈さんとアメリちゃん

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第四百四十九話 勝負の世界

公開日時: 2021年12月30日(木) 21:01
文字数:2,314

「昇級おめでとー!!」


 みんなでバンザイ猫スタンプをぺたぺた貼りまくる。


 夕方、「昇給できました」と、クロちゃんからLIZEに祝報が入ったからです。


「今日は奮発して、お寿司の出前とっちゃいましたよ!」


 まりあさんも大喜び。


「素朴な疑問なんだけど、教室内全体での強さ的にはどうなん?」


 久美さんが、疑問を呈する。


「中の上ぐらいです。もっと精進を重ねたいと思います」


 精進を重ねる! 相変わらず、幼女の言葉じゃないわね。まあ、そのギャップが可愛いんだけど。


「ただ……」


 ん? クロちゃんの様子が……。


「ボクに負けた先輩、すごく悔しそうにしていて。なんだか、申し訳ない気分でもあるんです」


 まりあさんに似て、優しい子だ。でも、彼女は勝負の世界を目指した。ならば、かける言葉は決まっている。


「クロちゃん。勝負とか競争って、そういうものよ。私は『ねこきっく』の看板作家を八年続けているけど、そのぶん誰かの成功の機会を奪っているの。みんな仲良く、ってできたら理想的なんだけど、そうもいかないんだ」


「そう、ですよね……」


 うーん、やはり元気がない。


「クロちゃん。優しさは美徳だよ。でも、クロちゃんはそれだけじゃ済まない世界に、足を踏み入れようとしているんだ。それとも、プロ棋士諦める?」


「いえ! ボク、絶対非女流で、タイトル所持者になってみせます!」


「うん。だから、気に病んじゃダメ。それは、負かした相手にも失礼だから。もちろん、敬意は忘れずにね」


 しばらくの間。


「そう、ですね。ボクが進もうとしているのは、厳しい世界なんですもんね。アドバイス、ありがとうございます!」


 ガッツポーズ猫スタンプ。


「わたしが言わなければいけないことを、神奈さんに言われてしまいましたね。すみません、わたしもどうにも、勝負魂みたいのが薄いタイプなもので」


 まりあさんの、お辞儀猫スタンプ。


「いえいえ。まりあさんの物語の優しい世界は、そうした精神性の賜物ですから。まりあさんは、それでいいんだと思います」


「今日は語りますねえ、神奈さん」


 優輝さんが、言葉を挟む。


「あ、すみません。でしゃばりすぎでしたか?」


「いえ、そんなことは。しかし、ミケにはなさそうな悩みだなあと思いまして」


「そーよ! NKMのセンターに、絶対なってみせるわ! 誰かと競わなければいけないなら、それを乗り越えるだけよ!」


 うーむ、こうも性格が間逆だと興味深いね。白部さん、裏で必死にデータ取ってそう。


「ノーラちゃんも、勝負魂が強そうなタイプですよね」


「そうですね。今はとにかく、『レギュラーになるんだー!』って、一心不乱に練習に励んでいます」


 良きかな良きかな


 翻って、うちのお嬢様はどうなんだろう?


 アメリが進もうとしているのは、勝負事の世界ではないけれど、将来的に教育を受けられるようになったら、受験やなんやを経験していくだろう。


 この子は、勝ち負けには全くこだわらないタイプだけど、そういうのが明暗を分けるような場面では、どう出るのだろうか?


 今考えてもせんないことだけど、流れ的にちょっと気になった。


「そーいえばね! 争いが、まったくなかった時代があったんだって!」


 唐突に切り出してくる張本人。


「原始時代とか?」


「んーん。エディアカラ紀っていって、アノマロカリスとかがいた、カンブリア紀よりもずっと昔なの!」


 あ。古生物のお話でしたか。ていうか、こっちはこっちで八歳児の言葉じゃないわね。スマホを手に入れてから、加速度的に知識量が増加してる。やっぱすごい子だわ。


「その時代はね、弱肉強食がなくて、とても平和な楽園だったんだって!」


 へー。驚いたわね。ことによると、私より博識なんじゃない?


「あー。わたし高校では生物選んだから、ちょっとだけ学んだことあります」


 由香里さんが話に混ざってくる。


「アメリちゃんすごいねー。そんなことまで、お勉強してるんだ」


「うん!」


「スマホを与えたら、食い入るように調べ物するようになりまして。こないだなんか、ダークエネルギーがどうとか質問されてしまいました」


「ダークエネルギー?」


 白部さん除く一同、疑問符を浮かべる。


「ええと、たしか天文用語です。驚きました。独学で、そんな勉強してるんですか」


 白部さんが興味深げに付け加える。多分、例の特別カリキュラムについて思いを馳せているのでしょう。私も、現実味を実感しています。


「文系のわたしには、なにがなにやらですねえ」


 まりあさんも、どう返したものかといったご様子。


「おお? アメリ、変な話した?」


「ううん。ちょっと、アメリちゃんが頭良すぎて、みんなびっくりしただけ」


 安心させる白部さん。


「良かった! もっと、いろんなことお勉強するね!」


 すごいな。知識欲の化身だ。そして、驕ることがない。


「ミケも、横で口をあんぐりしてますね。ここまでくると、悔しいとか、そういうレベルを超えてしまったようです」


 さすがのミケちゃんも、おとなしい。


「なんか、白部センセーたちが言ってた、得手不得手が心で納得できた感じ……。ミケは、アイドルとしてお姉さんするわ」


 お姉さんって、動詞だっけ? まあ、言わんとすることはわかるけど。


「あ、お寿司が来たみたいです。それでは、お先に失礼しますね」


「失礼します。お祝い、ありがとうございました」


 まりあさんとクロちゃんが退出を告げる。


「もう、お夕飯どきだねー。わたしもごはんつーくろ。では、失礼します」


「だね。じゃ、あたしらもこのへんで。失礼します」


 かくてるハウスの皆さんも退出。


「では、私も失礼します。ごはん作りにいきますね」


「お疲れ様でした。私は、まとめるデータがいっぱいですよ」


 残った白部さんとも別れを告げ、LIZEを落とす。


 改めて思う。すごいな、うちの子。

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