神奈さんとアメリちゃん

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第四百七十五話 意外なお客さん! ―中編―

公開日時: 2022年1月24日(月) 21:01
文字数:2,233

「包丁はここで、ドレッシングは……」


 調理器具などの配置を、由香里さんに伝えていく。


「あ、ドレッシングも手作りしちゃいます」


 なんと!


「ですので、お塩やお酢の場所を教えていただけると」


「……わかりました。お塩はこれ、お酢はこっちですね。あと、なにか必要ですか?」


 逆に、私が必要なものを教わる立場に。いやはや。


 道具と調味料を用意すると、鮮やかな手並みで切り、そして調合していく彼女。たかがサラダ、されどサラダ。ほえ~。


「おまちどうさまです! ただ、ここだと四人しか座れないですね。わたしは、神奈さんたちが召し上がってからで」


 器に盛り、自家製ドレッシングをかけて配膳する彼女。


「では、どうぞ」


 彼女の音頭取りで、いただきますの合唱。


 ぱくっ……あら、美味しい! トマトとバジルによく合う、イタリアンドレッシングがグー!


「美味しいです、由香里さん!」


「ありがとうございます。神奈さんが、丹精込めて育ててくださったおかげですよ」


 こんな美味しいサラダ、初めて食べたかも! 素材も、フレッシュの極みだしねー。


 いや、美味しいこと、美味しいこと。ぺろりと平らげてしまいました。


「ごちそうさまでした。本当に、お料理お上手ですよねー」


「ありがとうございます。ストレス発散の趣味が、高じただけですから」


「あ、どかないと由香里さんが食べられませんね。一足先に、仕事に戻ってます」


 一礼して、歯磨きのために洗面所へ。


 デスクに戻り、仕事に打ち込んでいると、四人が戻ってきました。


「ただ今戻りました」


「おかえりなさ~い」


 入り口のほうを向き、みんなを出迎える。


「神奈さん、四人で話したんですけど、今日はわたしが、教師役努めましょうか?」


「え! 今日は、休暇を取られに来たんでしょう?」


「そうなんですけど、性分なんでしょうか。なんか、子供たちと話してると落ち着くので、せっかくだからって感じですね」


 うーん、ご本人たっての希望なら、止めようがないし、ありがたいけど。


「そうですねえ。では、教科書で教えてみていただけますか? 今日は、白部さんの教材がないので」


 教科書は、あれから小三向けまで揃えてある。


「わかりました。頑張りますね!」


 ああん。羽根を伸ばしに来たはずなんですから、頑張らなくていですよう。ほんとに、性分なんだなあ。


 とりあえず、一番頑張らないといけないのは私だ。お仕事お仕事~!



 ◆ ◆ ◆




 すらすら、すいすい……。


 由香里さんの授業をBGMに、執筆なう。彼女の落ち着いた声質を聞いていると、実に筆がはかどる。


「電池には、プラス極とマイナス極があってね。マイナスからプラスに電気が流れるんだ」


 子供たち、おお~と感心。算数と漢字ばかり先行してしまっていて、他教科は一年向けの内容でも、興味深げに聞いている。


 アメリは自習しているはずのところだけど、由香里さんの喋りが好きなのか、改めて聞き入っているみたい。


「ねー。モーターが逆回転ってどういうこと?」


 ミケちゃんが、疑問を呈する。


「見せられたら、早いんだけど……。神奈さん、さすがにモーター単体なんて、持ってませんよねえ?」


「さすがに、持ってないですねえ。すみません」


「いえ、さすがにモーター持っている家のほうが、珍しいと思うので。絵で説明してみようかな。プリント用紙、いただけますか?」


 「どうぞ」と、何枚か手渡す。


「ありがとうございます。えっとね……」


 こつこつ、すらすらと、ボールペンらしきものの音が聞こえる。


「こういう感じなんだけど、伝わる?」


「ええと。要するに、マイナスが右側になったから、電気の流れる向きも変わって、モーターも逆回転するんですね」


「そう、その通り! いいね!」


 クロちゃんに拍手する由香里さん。


「むう。ミケだって、理解できたわよ。だから、ほら」


「うん、ミケちゃんもすごい!」


 再び拍手。


「アメリちゃん、さっきからあんまり反応ないね」


「前に、読んで覚えちゃったから」


「そうなんだー。つまんなくない?」


「ううん、また覚え直すのも面白い!」


 頼もしいお言葉。ほんとに、学習が好きなのね。


「そう? じゃあ、遠慮なく続けさせてもらうね。電池には、直列つなぎと、並列つなぎっていうのがあって……」


 なんだか、私も懐かしい気分になってくるなあ。ここで、コーヒー牛乳を一服。……んー、美味しい。


 コーヒー牛乳でお父さんを思い出したけど、もうすぐお盆か。寝る前に、お父さんとお母さんにメール打とうかな。今年も無事、帰省できると思うけど。


 あちらはともかく、こちらは私のお仕事次第だ。頑張れ神奈! 新幹線代が無駄になるかどうかは、お前の肩にかかっている! えい、えい、むん!


 私と由香里さんと子供たち、互いに互いの作業に打ち込むこと、しばし。


「はーい、今日の授業終わりー! わかりやすかったかな?」


 由香里さんの声に、「うん!」と返事する生徒たち。気づけばもう、夕方か。


「それは良かった。ふー……神奈さん」


「はい、何でしょう?」


「差し支えなかったら、夜までお邪魔していいですか? なんだか、お夕飯も作りたくなっちゃって。みんなには、わたしから言っておきますので」


 ひょ!?


「私は構わないですけど……いいんですか?」


「一日羽伸ばしてこいって、言われましたからね」


 ふーむ。


「ねえ、由香里が一緒なら、ミケもこっちにいちゃダメかしら?」


 ほええ!? ミケちゃんまで?


「優輝さん、心配しない?」


「わたしから、言い添えてみます。……おっけーだって、ミケちゃん!」


「やったー!」


 おおう、なんだかすごい展開に。


 まだまだ続く!

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