神奈さんとアメリちゃん

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第四百七十一話 白部さんの弱音

公開日時: 2022年1月20日(木) 21:01
更新日時: 2022年1月20日(木) 22:53
文字数:2,068

「それにしても、ノーラちゃんが自分から勉強したいって言うなんて、珍しいこともあるもんですね」


 今日も、白部さんとノーラちゃんが、うちに来ています。ただし、今回の目的は勉強。もちろん私は、今日も今日とてお仕事です。


「ブンレッツ使うようになったら、算数が面白くなった!」


 なるほど、なるほど。エレメントレンジャー愛は、冷めてなかったのね。


「おかげさまで、とても教えがいがあります。猫崎さん、本当にありがとうございました」


「いや~。私なんて、ちょっとした思いつきを述べただけですし、それほどでも」


 白部さんの感謝に照れ、後頭部を撫でる。


「謙遜なさらないでくださいよ。猫崎さんの、そういうポンッとアイデアが出るところ、ほんとすごいなって尊敬してるんです」


「いや~、ははは……」


 あまりのべた褒めぶりに、かえって恐縮。こそばゆい~。


「おねーちゃんって、子供の頃、どんなテレビ見てたの?」


 愛娘から、ひょんな質問をいただきました。


「福井ってアニメの種類が少なくてねー。代わりに、ほんとに小さい頃は、児童向けバラエティ番組見てたかな」


「どんなの? どんなの?」


「んーとね。お兄さんが、マスコットキャラと一緒に、工作するの。アメリも、似たような感じの番組、ちらっと見たことなかったっけ?」


 懐かしいねー。あの番組も、もう終わっちゃったんだっけ。


「おお~!」


「それからちょっと年齢が上がると……。あー、テレビより、漫画っ子になってたなあ」


 少女漫画を色々読んでましたねえ。


「でね。小学生になって、漫画家を目指すようになるんだけど、少年漫画も読んでおいたほうがいいかなって思ったのね。そっちで活躍している、女性作家さんもいるし。で、あのバスケ漫画と出会ったのです!」


 じゃーん! と、みんなのほうを向いて手を広げる。


 一同、「おお~」とか「なるほど」とか反応。


「私の人生を変えた、一作ですよ……」


 しみじみとうなずく。結局、少年漫画家の道には進まなかったけれど、「諦めたらそこで試合終了ですよ」という、最強の名ゼリフが私を支えたわけです。


「白部さんは、どういったものを子供の頃、ご覧になってました?」


「私ですか? 医者一族でしたから、娯楽らしい娯楽は、あまり触れさせてもらえませんでしたねえ……」


 あら、なんだか気まずい質問をしてしまったみたい。


「ただ、『じんたいのひみつ』みたいな、医学の理解に役立つような漫画なら読ませてもらえたので、それをぼろぼろになるぐらい、読み込んでました」


 白部さん、そんなご苦労が……。


「あ。ただ、両親が猫好きでしたので、猫の写真集は、よく読ませてもらってました。多分、私の猫好きの源流ですね」


 なるほどー。……あれ?


「でも、実際、ご家庭では猫飼ったりしなかったんですよね?」


 彼女からは、飼い猫の思い出話を聞いたことがない。ノーラちゃんは別として。


「それが、父がひどいアレルギー持ちで……。愛猫家なのに、因果なものです」


 あらら。でも、得心がいきました。


「自分が、そんなだったからですかね。とにかく、ノーラちゃんには好きなことを、好きなだけさせてあげたくて」


 そう言って、慈しむように愛娘の頭を撫でる彼女。


「自分の無念を、子に晴らしてもらうって、やっぱりエゴですかね」


「そんなことないですよ! 束縛や強要ならともかく、自由を与えるのは、我が子を一番思ってる行為です!」


 切なそうな表情をなさる彼女に、誠の気持ちから出た言葉を送る。


「ありがとうございます。そうおっしゃっていただけると、少し自信が出てきました」


 白部さんみたいな方でも、こんな風に弱音を吐くことがあるんだな。激務時代も、気丈にしてらしたのに。


 彼女は、意外と脆いのかもしれない。それなのに、いつも頼ってばかりだ。気をつけよう。


「ああ、ごめんなさいね。お勉強ほったらかして、ついこんな。じゃあ、続きをやりましょうか」


 「はーい」と応える、子供二人。


 そんな折り、不意に呼び鈴が鳴りました。はて、どなたでしょ?


「はーい、どちら様でしょう?」


「わたしです。ちょっと、寄らせていただこうかと思いまして」


 まりあさんの声だ。とりあえず、出迎えよう。


 まずは、「こんにちは」と互いに挨拶。彼女は、淡い黄色のプルオーバーと白のワンピースを組み合わせ、これまた白い日傘を差していた。


「珍しいですね、アポなし訪問」


「ああ、すみません。仕事が一段落しまして。かといって、今日はクロちゃんが将棋を指しに行ってますから、手持ち無沙汰で。それで、食後の運動ということで、お散歩してたんですけど、このへんまで来たので、どなたかのおうちに寄ってみようかなと思いまして」


「なるほど。お暑いでしょう。とりあえず、中へどうぞ」


「ありがとうございます。ほんとすみませんね、突然」


「いえいえ」


 というわけで、中に上がっていただく。


 喉、乾いてるだろうな。冷たいお茶を、とりあえずれよう。


 なんだか、珍しい組み合わせになりましたねえ。まあ、白部さんは白部さんで、まりあさんとよく出かけてるらしいけど。


 どんな展開になるのかな? なんて、つい考えてしまうのは、職業病かしらね。

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