神奈さんとアメリちゃん

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第三百九十四話 想いを背負って

公開日時: 2021年10月27日(水) 21:01
更新日時: 2021年10月28日(木) 10:06
文字数:2,534

 ノーラちゃんを預かり、九時放映の国会中継を見るため、寝室で待機。リビングだとノーラちゃんが暇しちゃうのわかったからね。


 テレビを使わせるのは無理だけど、アメリと一緒に座椅子で読書とおしゃべりに興じてもらってます。


 白部さん曰く、最近ノーラちゃんはピーナッツ入りチョコにハマっているらしいので、それをストレートティーと一緒にお茶請けとして出してある。


 私も、デスクで紅茶片手にチョコをつまんでいます。


 ……始まった! やはりというか、白部さんの出番はだいぶ後のようだ。


「いやー、なんだかこっちが緊張しますねえ。もちろん、一番緊張してるのは白部さんでしょうけど」


 優輝さんの声。スマホをハンズフリーにして、かくてるの皆さんとまりあさんらで、グループ通話中です。


「ここまできたら、白部さんにすべてお任せするほかないですね。わたしたちの伝えるべきことは、すべて伝えましたし」


 これはまりあさん。やはり、若干声が緊張してる気がする。


 実際、私も緊張でのどが渇いてしまって、紅茶を飲み干している。我らが希望ホープの出番はまだ先のようだし、おかわりれてこよう。


 「ちょっと、離席します」と断り、キッチンへ。


 ……戻り!


 しかし、さっそく寝ている議員がいるな。私たちの気持ちをよそに、お気楽ですこと。普通の会社ならクビが飛ぶわよね、これ。


 とはいえ、私も差し当たって興味が惹かれる議題もなし、原稿を進めながらアメリ&ノーラちゃんと雑談を繰り広げる。


 ノーラちゃんは今、クラブで体作りとドリブルなどの基礎練をメインに頑張っているらしい。


 「アタシも、早くハデにシュート決めて~!」とぼやくノーラちゃんに、「何ごとも基礎がメインだよ」とアドバイスする。


 千里の道も一歩から。今の私の漫画家人生も、好きな漫画の模写から始まったのだ。


 そんなこんなで、二人や大人組の皆さんと雑談しながら待っていると、ついに人権法に議題が突入しました!


「例の話、始まったよ!」


 執筆の手を止め、アメリとノーラちゃんに告げると、二人も画面を注視。


 名前の読み上げとともに、白部さん入場! ノーラちゃんが、「ルリ姉だ!」と声を上げる。


 一礼し、名乗ったあとは、議員たちの質問に淀みなく答えていく。本当に私と同い年なのかと思うぐらい、しっかりしてらっしゃる……。


 例の、長時間検査に反対している議員から、「一回三時間に及ぶ検査というのは、幼児に負担をかけ過ぎなのではないか」と問われる。


 対する白部さんは、「国内外問わず、保護者の方々からも同様のお言葉を受けています。検査そのものは猫耳人間本人たちの今後のため欠かせんませんが、いくつか提案できる短縮案があります」と答えていく。


 たとえば、赤血球の検査。猫耳人間の赤血球は、人間と同じく二ヶ月に一度作り変えられることが判明しているので、これは月に一度ではなく、二ヶ月に一度の検査にしても比較的問題がないことなど。


 どうにも専門的な話が飛び出しがちだけど、そこは白部さん。なるべく噛み砕いて、素人でもわかるような説明を心がけてらっしゃる。少なくとも、私でも「そうなんだ」とわかるレベル。


 反対派議員が求めるほど大幅な短縮はできないけど、「世界的に足並みを揃え、二十から三十分程度の短縮を目安に善処する所存です」と、白部さんが結ぶ。すごいな、世界スケールの話ですよ。


 また、白部さんが猫耳人間の「親」でもあることを話すと、かの議員も、心なしか態度が軟化した気がします。


 その後は、私たちが白部さんを通じて議員たちに伝えたかったことが、彼女の口を通して提案される。やはり、強調されるのは一刻も早い法施行。ほかには戸籍のことや、私が願ってやまない、公的教育の提供についても述べられる。


 総理を筆頭に、議員たちは善処する旨を口にする。どうにも、政治家先生たちの「善処」って信用しにくいけど、信じるしかないのが今の私の立場だ。


 白部さんもおっしゃっていたことだけど、ほかの法案に比べると、どうしても優先順位が低い。繁忙期を抜けたら署名でも集めようかな、などと考える。


 その考えを、かくてるの皆さんやまりあさんに伝えると、「たしかに、我が子のためですものね。やりましょう!」と、力強いご同意をいただく。


 人権法の話も本日ぶんは終わり、白部さんは一礼して退場。やはり、彼女が説明・説得したからといって、パパッと決議するものでもないけど、確実に前進はした気がする。


 ともかくも、お疲れ様でした白部さん! パチパチと拍手すると、アメリとノーラちゃんもそれにならう。


 その後は中継も終わりに近づいてるし、取り立てて私たちにとって興味深い議案もないので、皆さんと感想会。


「いやー、理論的で、かつ淀みなくわかりやすい話ぶり、さすがでしたねえ」


「わたしが感じた範囲でですけど、あの議員さんもずいぶん姿勢が柔らかくなったように感じます」


 それぞれ、優輝さんとまりあさんの言葉。


「私も、一歩……いえ、二、三歩は確実に前進したと感じました」


「これはあれですね。白部さんの慰労会を開かないとですね!」


「お前は、理由つけてパーティー開きたいだけだろ。まー、労おうってのはウチも異存ないけどさ」


 パーティー大好きガール・優輝さんに、久美さんがツッコミつつも同意。


「とはいえ、今日はお疲れでしょうから、やるなら早くても明日ですね」


「そうですね。チャットで打診しておきます。料理の材料も用意しなきゃですし」


 まりあさんの「待った」に、素直に応じる優輝さん。まあ私も、今日いきなりやりましょうとか言われても困るしね。


 さて、そうこうしてるうちにお昼だ。ごはん作らないとですよ。


「私は子供たちにごはん食べさせなければいけないので、これで落ちますね。失礼します」


「お疲れ様でした。うちも、お昼ごはん作らないと。わたしも失礼ます」


「今日は、自分の当番っすね。おなじみ、バインミーと洒落込むっすか。お疲様でしたっすー」


 まりあさんや、かくてるの皆さんと通話終了し、「う~ん」と腰を叩きながら立ち上がる。やれやれ、職業病腰痛にも困ったもんだね。


「じゃ、ごはんにしましょう! キッチンへご~!」


 拳を突き上げると二人とも立ち上がり、「おー!」と同じく拳を突き上げ応じる。


 かくして、親ガモ・子ガモ状態で台所に向かうのでした。

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