神奈さんとアメリちゃん

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第四十六話 漫画家さんの職場拝見 ―前編―

公開日時: 2021年4月18日(日) 09:01
文字数:2,404

「あらー……降ってるなあ」


 朝食の食器を片付けていると、雨音のようなものが気になるので、台所のフロストガラスを少し開けてみる。


 すると、外は結構な雨。


 うち、アメリが今の姿になってからというもの外出着モードにしないとカーテンを開けられないし、いつもの酷い寝ぼけからやっと回復するまで開けてみようとか思わなかったから、確信が持てなかったけど……やっぱり降っていましたか。道理で昨日寒かったわけだ。雲、厚かったものねえ。


「おねーちゃん、どうしたのー?」


 興味深げに尋ねてくるアメリ。


「んー? お外が雨なの。だから、今日は家でじっとしてようかなあって」


「おお~? 雨ってお外出れないの?」


 ああそうか。アメリは猫時代も含めて、雨中外出したことないんだなあ。猫だった頃に窓越しには何度も見ているし、絵本の知識で雨ってなーに? ってのも理解してるだろうけれど。


「そうだねー。傘とか車を使えば出かけられないこともないけど、あんまり外出には向かないかな。例えば公園とかね」


「ええ~。つまんないねー」


「まあ、こういう日もあるよ。私も昨日のうどん打ちで疲れちゃって、あまり仕事進まなかったからなあ。挽回しないと。さあさ、歯磨きしましょ」


 そんなわけで、今日はおとなしくお仕事です。



 ◆ ◆ ◆



 今日は案外調子がいいようで、仕事をすいすい進めていると、十時頃に不意にスマホの着信音が。角照さんからだね。


「はーい、もしもし? おはようございます。どうしました?」


「おはようございます。唐突なお願いなんですけど、ちょっと取材させていただいてもいいですか?」


「取材ですか?」


「ええ。新作に、漫画家の少女を登場させようということになりまして。リアリティを出したいので、ご協力いただければと……」


 うーん。バーベキューではご馳走になっちゃったし、断るのも申し訳ないな。断るほどの理由がないともいう。


「気を悪くしないでいただきたいのですが、取材というのはどのぐらい立ち入ったことを?」


「そうですねえ……。たとえば担当さんとのやり取りですとか。スケジューリングですとか。あとは、ご許可をいただければ仕事場を撮影させていただければと。あ、もちろんそのまま使ったりしませんよ」


「なるほど。結論から言えばOKですけど、私も仕事がありますから、ながら・・・でいいですか?」


 実際、こうして話してる間も筆を走らせている。我ながら器用なもんだ。


「あー、それはもちろんです! お願いする立場ですから。お時間の都合、いつ頃がよろしいですか?」


「今からでも……あ、いや。一時間後でいいですか?」


 時刻を安請け合いしそうになったが、寝室と自分のスウェット姿を見て訂正する。見せられないレベルってほどじゃないけど、さすがに撮影されるとなると躊躇する状態だ。特にスウェット。


「了解しました。では、十一時に伺いますね」


 というわけで通話終了。うわー、急ぎましょ。



 ◆ ◆ ◆



 片付け&着替え終了! ふう。さすがに一時間あると、初めてまりあさんが来たときよりは余裕だったかな。


「ミケも来るかなー?」


「どうだろねー?」


 などとアメリと話していると、インタホンの音。


 応対すると果たして角照さんで、門まで迎えに行く。


「あら? 三人ですか? てっきり角照さんだけかと。あとはミケちゃんも一緒とか……」


 門まで迎えに行くと、角照さん、松平さん、木下さんが傘を差して並んでいた。


「あー、すみません。そういえば、言ってなかったですね。二人は絵を描きますから、実際見せたほうがいいと思いまして。お邪魔なようなら、あたしだけで……」


「いえいえ。ただ、仕事場狭いので恐縮だなあと思いまして。どうぞどうぞ」


 というわけで、中へご案内。


「斎藤さんはいらっしゃらないんですか?」


「姉さん、音楽担当っすからね。あとは、ミケちゃんの世話をする人を残す必要があるっすから」


 と、松平さんが説明してくれる。まあ、うちに七人でゆったりできるようなスペースはないってこと、こないだのくさや騒ぎで来たとき判明してるものね。


「なるほど。アメリ、残念がるかもしれませんね。アメリー、角照さんたちが来たよー」


 寝室に呼びかけると、とてとてと彼女がやって来た。


「こんにちはー! あれー、ミケは?」


 ミケちゃんの姿を求めて、キョロキョロ視線をさまよわせるアメリ。


「今日は、ミケちゃんは姉さんとお留守番っす」


「そっかー」


 わかりやすいほどに、しょんぼりするアメリ。


「逆に、うちに遊びに来る? アメリちゃん」


「んー……んー……」


 困ったように、私と角照さんを交互に見比べる。私と一緒にいたいけど、ミケちゃんとも遊びたい。そんな感じなんだろうな。


「うち、面白い映画いっぱいあるよ」


「せっかくのお言葉ですけど、映画に関してはご厚意だけ受け取らせていただく形で……」


 にこやかにアメリを誘う角照さんに、待ったをかける。またぞろ変な知識を植え付けられたら、さすがに困る。


「ああ……じゃあゲームでもやる? でも、アメリちゃんにはまだ難しいかな?」


 映画お断りの意図を察していただけたようで、ゲームに話を切り替えてくれる。でも、角照さんの言うように今のアメリには難しいだろうなあ。


「ねえ、アメリ。せっかくだから、JANGOジャンゴ持って行って遊んでみたら? 斎藤さんに、JANGOのルール説明お任せしてしまってもいいですか?」


「ああ、JANGOならうちにもありますよ。じゃあアメリちゃん、うちでJANGOやってみる? 久美さんも面倒見いいから、一緒に遊んでくれると思うよ」


「やってみたい!」


 初JANGOへの期待に瞳を輝かせるアメリ。


「じゃあ、皆さんのおうちへおでかけかな。アメリがお世話になります」


「いえいえ。久美さんもミケも、きっと喜びますよ」


「じゃあアメリちゃん、わたしが案内するね。終わったらまた来ますので」


 三人にぺこりと頭を下げると、向こうも下げ返す。こうして、アメリは木下さんに連れられてミケちゃんたちに会いに行きました。

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