神奈さんとアメリちゃん

退会したユーザー ?
退会したユーザー

第二百十四話 神奈、食育する

公開日時: 2021年4月30日(金) 17:01
文字数:2,062

アラームがごはんの炊きあがりを知らせたので、アメリと一緒にキッチンにイン!


 さーて、例によって脳内BGMを流しながら、ごはんを作りましょー!


 ネギはお昼の残りが下処理済みだから、アスパラの処理だね。


「アメリちゃん。これの皮を剥く重要ミッションを与えます」


「らじゃー!」


 ビシッと敬礼する彼女。ふふ、どこで覚えたのかしらね。ゴッドレンジャーごっこかな? ほほえま。


 アメリが皮をしゅーっとピーラーで剥いたので、選手交代して斜め切りにする。


 それが済んだら、熱したフライパンにバターを溶かしチューブにんにくを炒める。う~ん、食欲をくすぐるよねー、この香り!


 続いて、ちびっこホタテたちをフライパンにイン!


「おお~? これ初めて見る~」


「これ? ホタテっていう貝だよ。美味しいんだー」


「おお~。……お? おねーちゃん、このビニールにはベビーホタテって書いてあるー。ベビーってどういう意味?」


 廃棄したラップの商品シールを見て、疑問を呈するアメリ。


「あー。赤ちゃんって意味だよー」


「! ……赤ちゃん、食べちゃうの……?」


 こわごわとした表情で私を見上げてくる。ああ、これは……罪悪感が芽生えちゃったか。


「そうだよ。でもね、アメリ。私たち普段お米食べているでしょう? あれだって、本当は土に蒔けば新しい稲になるものなんだよ。それに、お昼にマグロも食べたよね? あのマグロもお母さんやお父さんになるはずだったかもしれないんだ」


 ホタテに火が通ったので、ネギとアスパラを入れて炒める。


「私たちはね。そうやって、何かの命を奪って食べないと生きていけないの。だからいつも言うんだよ。『いただきます』って。命をいただきますってね」


 ラストに、めんつゆと胡椒で仕上げ!


「さ、できたよ」


 彼女を見ると、やはり元気がない。むう。とりあえず、お皿に盛りましょうか。ごはんを切ってよそい、お茶をれて配膳!


「ふう。……割り切れない?」


 こくんとうなずくアメリ。


「まずは座ろうか。それで話そう」


 対面にそれぞれ着席する。


「もし、アメリがごはんを食べないと、元気がなくなっちゃうよね。そしたら、私すごく悲しい。私は、元気なアメリが大好き。だから逆に考えて。私がごはんを食べなくなって、元気がなくなっちゃったら、アメリはどう?」


「……悲しい」


 うつむいたまま答える彼女。


「うん。だから私はアメリを悲しませないために、命に感謝しながらごはんを食べるよ。だから、アメリも食べよう?」


 少し考えた後、こくりとうなずく。


「よし。じゃあ、命に感謝の言葉を言おう! いただきます!」


「……いただきます」


 ホタテのバター炒めは美味しいけれど、今日の食卓はちょっとしんみり。


 でも、アメリが命というものに強い感情を抱いたのはいいことだとは思う。


 自分を追い詰めない程度に、優しい子に育って欲しい。


 アメリの箸の進みは遅いけれど、しっかりとお米粒一つ残さず完食してくれました。



 ◆ ◆ ◆



「おねーちゃん」


 寝室に戻りネーム作業を進めていると、アメリがボソリと声をかけてきた。


「なーに?」


「ホタテって、生きてるときはどんななの?」


「じゃあ、見せようか。おいで」


 椅子を九十度ひねって、ぽんぽんと膝を叩くと、アメリがちょこんと腰掛ける。


「あのベビーホタテは殻を取ったものだけど、本来はこんな姿なんだ」


 動画共有サイトで、海の底にいるホタテをダイバーが撮影している動画を見せる。「おお……」と声を上げるアメリ。


「で……あった。ヒトデが天敵でね、近づいてくるとこうやって逃げるんだ」


 別の動画で、殻をパクパクさせ、水中遊泳してヒトデから逃げているものを映す。


「泳いだ!」


「すごいよね、ホタテ」


これヒトデは悪者なの?」


「ううん。これ……ヒトデも生きるのに必死なんだよ。生きるために食べることに、いいも悪いもないの」


 そっと、アメリの頭を左手で撫でる。画面を見つめる彼女の瞳は、真剣そのものだ。もしかしなくても、この子は生物に強い興味があるのかもしれない。


 そうして、どのぐらいホタテの動画を色々見ただろうか。気づけば、七時半になっていた。


「おっと。もうストレッチの時間だよ。始めましょ」


「うん」


 ん。少し元気出たかな? 一緒にストレッチ三セットをこなし、お風呂にざぶん。なんだか今日のアメリは、ふぐたくん魚のおもちゃを見る目が妙に愛おしそうだな。


 入浴後、ネーム作業はアメリの就寝後にすることにし、二人でおしゃべりとお絵かきに興じることにしました。


 アメリが選んだモチーフはホタテ。さっそく影響受けてるねー。ホタテの一家の絵を描くアメリちゃん。貝柱に顔とか描いちゃって可愛い。


 アメリが目をこすり始めたので片付けを一緒にした後、ベッドに横にならせデスク以外を消灯する。さあ、生活のため、可愛いアメリのため、お仕事だ!


 明日は、駅前に行こうかな。朝ごはんを食べ終わったら、まりあさんや、ほかの皆さんにも声をかけてみよう。


 「ひなまつり」のほうは、しばらくおあずけかな。優輝さんから特にクリアは急がなくていいとお言葉をいただいてるし、なんだか終わってしまうのがもったいない。


 明日も、いい日になりますように!

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート