とりあえず、話し合いの結果以下の方針が固まりました。
まず、猫耳人間についての公表後、世間様の反応が見えてくるまでアメリは外に出さない。可哀想だけど、顔写真が出回っている以上仕方がない。
どうしても私が外出しなければいけないときは、かくてるの皆さんのどなたかにいらしていただき、アメリの面倒を見ていただく。
これにより、毎日行っていた買い物もしばらく買いだめが中心となる。
はあ……。
ため息しか出ないな。どうしてこんなことに……。
とりあえず、決まった方針をアメリにも伝える。
「おお……? お外出れないの?」
「うん、ごめんね」
しょんぼりするアメリを抱きしめ、よしよしと撫でる。
白部さんのお話だと、翌朝に学会が公式発表を行うそうで。私としては一刻も早く解決してほしいけど、資料とか原稿の用意があるものね。多分、明日の朝でも早いぐらいなんだ。感謝しないと。
とりあえず、今日の晩ごはんは優輝さんがおすそ分けを持ってきてくださるとのことで、ありがたくそれをいただくことにしましょう。朝ごはんは三種の神器があるから、問題は明日の昼以降だな。
なんとなく「ツイスター」を見てみると、「猫耳幼女」が日本のトレンドになっていました……。下手したら、世界レベルのトレンドになりかねない。
世の中には、頭を抱える以外にできることがないことって、あるもんだね……。
◆ ◆ ◆
「こんばんは。あたしですー」
午後六時少し前、インタホンが鳴ったので応対すると、果たして優輝さんでした。門までお迎えに上がる。
「こんばんは。これ、簡素で恐縮なんですけど。晩ごはんにしてください」
アルミホイルの包みを手渡してくださる。
「こんばんは。ありがとうございます。簡素だなんて、ご厚意でいただいているのにそんな」
「神奈さんって、ほんとご謙虚ですよね。しかし、お互い大変ですね。うちも、ミケのこと気をつけないと……。もちろん、今一番大変な思いをされているのは神奈さんとアメリちゃんですけど」
難しい顔で、後頭部を掻く彼女。
「恐縮です。とりあえず、明日の発表を待つばかりです。良い方向に進むといいのですが」
「そうですね。ほかのご近所の方のご様子は?」
「まだ特に何も……」
「そうですか。困ったことがあれば、何でもご相談ください。では、皆を待たせてますのでこれで」
深々とお辞儀する優輝さんに、深々とお辞儀を返す。
お弁当を手に、屋内へ戻るのでした。
お昼は暖かったのに、夜は肌寒いな。それはきっと、気温のせいだけではないのかもしれない。
◆ ◆ ◆
いただいたのは、鶏五目ごはんのおにぎり二つずつでした。一回り小さいのがアメリ用かな。ちょうど、炊かれてたのかしらね。ありがたいことです。
「アメリ。優輝さんたちからごはんいただいたから食べましょ」
「おお~、美味しそう!」
無邪気なアメリちゃん。でも、この子はこれでいい。悩むのは私の役目だ。
「「いただきます」」
お茶を用意し、いつもの言葉。
もぐもぐ……。美味しいなあ。優しさが身にしみる。早く、またアメリと買い物行けるようになりたい。
おにぎりをゆっくり味わい、ごちそうさま。
歯を磨いた後はアメリを膝に乗せ、ぼーっと頭を撫でるのでした。
本来ならアメリときゃっきゃうふふと遊んでいるところだけど、とてもそんな気分にはなれず。
しかし、元来寝付きのいい私のこと。悩みごとで眠れないかと思いきや、ベッドに潜り込んだらあっという間に意識が深くに消えていきました。
◆ ◆ ◆
(ん……?)
スマホが鳴ってる。頭がしゃっきりしないけど、サイドテーブルに手を伸ばす。
「ふぁい、どちら様ですか……?」
送信者も見ずに出てしまう。
「私です、白部です! 学会の発表を、今テレビでやってます!」
「ほんとですか!?」
一発覚醒! 慌ててテレビをつける。アメリ姫も、寝ぼけ眼をこすって起きてきた。
ボカシこそ入っているけど、散々拡散されたアメリの写真が大写しにされ、多分とてもお偉い先生が壇上で猫耳人間のことを語っている。
「うにゅ~。おねーちゃん、ごはん~」
「あ、ごめんね。今作るよ」
だいぶ見入ってしまったらしい。続きは、向こうのポータブルテレビで見よう。
◆ ◆ ◆
珍しく寝起きからしゃっきりしてるので、会見放送をBGMにツナたまごサンドを作る。たまには、手の込んだものを作ってあげたいからね。
……これで手が込んでるなんて言ったら、世の中の色んな人に怒られそうだけど。
ホットミルクも用意し、うちの朝としてはなかなか豪勢な朝食ができた。
記者会見では、猫耳人間がすでに百人以上いること、学習能力が高いことなど、白部さんから伺っていた話が一般層向けに繰り広げられている。
配膳し、テーブルに着席。「いただきます」を言い、テレビに視線を移す。アメリも、「いただきます」とサンドイッチを食む。
学者の先生は、「危険な存在ではないのですか?」という意地悪な記者質問に、「そのようなデータはありません。皆、善良な存在です」と、心強いことを仰ってくれた。
先生の話が一通り終わると、今度は総理大臣のお出まし! あやあ、これは本当に大ごとになってしまったと実感する。
総理、猫耳人間の存在を秘匿していたことなどを告白していったけど、「では、今後どうするのか?」という問いには「前向きに善処する」とおなじみの煮え切らない言葉。しっかりしてちょうだいな。アメリの今後がかかってるんですからね!
「おねーちゃん。これ、アメリのこと話してるんだよね?」
不安のこもった視線を向けてくるアメリ。
「うん。でも大丈夫。アメリは絶対に私が守ってあげるからね」
頭を撫でて、落ち着かせる。結局総理の会見は今ひとつ要領を得ないまま終わり、場面はスタジオへ。
みんなでてんで好きなこと言っているけど、「将来、人類と衝突するのではないか」なんて不安を煽るコメンテーターがいて、ちょっとカチンと来る。アメリたちはそんなことしません! 私たちと、ものすごく仲良くやってるもの!
でも、こういう人を見ると、白部さんたちが神経質なぐらい慎重になっていた理由がわかる。
とりあえず、今日もアメリは外に出さないほうが良さそうだ。はあ……、と深いため息を一つ吐く。
一刻も早く、穏やかな日常が戻ってきますように。それだけを願うのでした。
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