「おねーちゃん、おねーちゃん」
お仕事に励んでいると、背後からアメリに呼びかけられた。
「なーに?」
くるりと椅子を回転させて、座椅子に掛けている彼女のほうに向く。
「足し算と引き算、数字でやる場合どうしたらいいの?」
紙を前に「9 7 2」とか書いてある。ああ、いけない。肝心の記号を教えるの忘れてた。
「えっとね。この三つを使うんだけど……。これが足す、これが引く。で、これが『は』。こう書くとね、一足す二は三ってなるの」
紙に1+2=3と書くと、「おお~!」と感心の声を上げる。
「引き算もおんなじね。こう書くと、十一引く四は七ってなるの」
足し算の下に11-4=7と書くと、またも「おお~!」と感心。
「せっかくだから、筆算……文字で計算する方法も覚えようか。こうやって、線を一本書いてね。で、左端の上に足すか引くを書いて……引き算なら上に元の数字、下に引きたい数字を書くの。足し算ならどっちが上下でもいいよ」
線を引き、マイナス記号、上に13、下に8と書いてみせる。
「さ、計算してみようか。答えはその位……この1が十の位、3と8が一の位っていうんだけど、その列の線の下に書いてね」
8の下に5とスラっと書くアメリ。
「こう!?」
「正解です、アメリちゃん!」
ぱちぱちと拍手すると、「えへへ」と照れる。
「これで、百とか千とか、もっと大きい位の計算もできるようになるよ。今度教えてあげるね。今は、十の位と一の位だけで色々勉強してみて」
「おおー!」
気合を入れて、色々筆算を始める彼女。あ、よく見たら鉛筆の先が随分丸くなってるなあ。
「ちょっと待っててね」
仕事机の引き出しから、小型の鉛筆削りを取り出す。
「じゃーん! 鉛筆削り~」
「おお~?」
アメリが不思議そうに初めて見る物体を眺める。
「今、鉛筆の先っちょが丸くなってて書きにくいでしょ? これをね、穴に入れて右に回すと……ほら、先がとがるのです!」
「おお~! すごい!」
「削りカスがこんな風に出るけど、溜まったらここのゴミ箱に捨ててね」
鉛筆削りのカバーを開け、逆さにして中身を捨てる。
「はーい!」
アメリが再度筆算に熱中し始めたので、私も仕事に戻るのでした。
◆ ◆ ◆
「ん~……っ!」
疲れたので、思いっきり伸びをする。PCの時計を見れば、もう六時前。アメリはというと、まだ紙相手にずらずらと筆算していた。いやはや、私もこの子もすごい集中力だね。
では、今日のお楽しみ料理を作りますか!
「アメリー、ごはん作りに行くよー」
「おお~? もうそんな時間?」
「うん。私もアメリも、ほんと熱中しちゃうとのめり込んじゃうタイプよね」
苦笑しながら彼女を伴い、キッチンに向かうのでした。
◆ ◆ ◆
三分でクッキングする例のBGMを脳内で流しながら、スマホをセットし、レシピ動画を準備。
まず、冷ました後冷蔵庫に入れておいた冷や飯を取り出しザルに空け、流水で洗ってぬめりを取りまーす。これ、超重要!
次に、キッチンペーパーで丹念にお米の水気取り。続いて、昨夜の残り物の煮豚を細切れに。あとは卵を二つぶん溶き卵にして、刻みネギも用意。
中火で熱したフライパンに胡麻油を多めに引き、チューブ入り生姜をちょいと投入!
油が馴染んだら、溶き卵を投入! 木べらで半熟化するまで大きくへらを動かして混ぜる。
半熟化したら、お米を投入! お米をほぐしながら、卵とよく混ぜまーす。
お米の水気が飛んだら、ここで塩胡椒! そして、チャーシューも投入! うわあ、すごい量ね。食べ出がありそう。
仕上げに刻みネギを入れてお醤油を鍋肌から注ぎ、、軽く炒めたら完成!
「ふう。さあ、アメリちゃん。炒飯ができましたよ~」
額の汗を拭い、お皿に盛ったほかほかの炒飯をテーブルに置く。
「おお~! 美味しそう!」
「有名シェフの直伝レシピだからね。きっとお美味しいよ~。お肉もいっぱい入ってるし」
烏龍茶の残りをコップに注ぎ、エプロンを外してアメリの対面に着席。
「それじゃあ、いただきますしようか。いただきます!」
「いただきます!」
レンゲですくってまずひと口。うん、美味しい! 特に、肉! って感じがすごく食べ出があるわね!
「どう?」
「美味しい!」
アメリもご満悦。良き哉良き哉。
次は何を体験させてあげようかなあ。彼女の世界をもっと広げてあげたい。世の中のいろんな楽しいことや面白いことを、たくさん教えてあげたい。
そうだ、次は三桁の足し算引き算を教えてあげよう。そしたら、アメリにあれをさせてあげたい。今後彼女が自分で色々活動していく上で、どうしても必要になる知識だ。
あとは、掛け算と小一向けの漢字も教えてあげたいな。う~ん、教えてあげたいことがいっぱいだ! アメリは本当に楽しんで勉強してくれるから、こっちまで教えるのが楽しくなっちゃう。
でも、無理はさせないようにしないとね。あくまでも、アメリが望んだら教える。これ大事。
そんな物思いにふけりながら食んでいると、二人とも炒飯完食! 美味しゅうございました。さあ、お鍋と食器を洗ってお風呂入ったら、二人の明るい未来のためにお仕事頑張るぞ!
読み終わったら、ポイントを付けましょう!